本記事には,宣伝文が含まれている。といっても,雑誌や本の宣伝あるいは有償セミナーの告知ではないので,安心して読み進んでいただきたい。

 記事の題名に,「情識」とある。これは,「情報化は経営者の常識」あるいは「情報化は社会人の常識」といった意味の造語である。では情報化とは何か。2年ほど前に記事を書いたときに,「社会・企業などを情報技術を使って顧客中心型に改革し続けること」と定義した。ここでいう情報技術は,コンピュータやネットワークだけではない。データ/プロセスのモデリング手法とか,プロジェクトマネジメント手法も含む。

 つまり情報化とは,一連の改革作業の総称である。まず,社会や企業の抱えている問題の構造を整理し,分析する。問題を解決するための新しいビジネス・モデルとそれを支える業務プロセス,各プロセスで必要となる情報,をそれぞれ定義する。その情報を提供する情報システムを構築・運用・保守していく。

 このようなビジネス改革と情報システムを結ぶ一連の活動をまとめた名称は実はない。経営改革の用語はたくさんあるし,システム構築の世界の用語もたくさんある。しかし,困ったことに,両者にまたがった活動の呼び名がない。

 情報化という言い方が一番いいとは思わないが,ほかにないのでこの言葉を使っている。本来の目的は,業務改革にあるわけで,業務革新とか,ビジネス・プロセス・リエンジアリングといっておけばいいのかもしれない。ただ,こう言ってしまうと,情報とか情報システムが出てこない感じがする。

情報システムの世界で起きることの大半は過去の繰り返し

 話がちょっとそれたが,情報化がいろいろな活動の複合体であるということは,多くの経営者や社会人が知っておくべき「情識」と思う。このほかにも,情識は考えられる。思いついたものを列挙してみる。

●情報化は,企業だけを対象にしたものではない。個人,社会,国家など,何でも対象になる。

●情報化は,関係者全員が参画して進めるべきものである。つまり,経営者あるいは組織のトップ,管理者,現場の担当者,情報システムの専門家を総動員する必要がある。

●情報化を推進するカギは,インフォメーション・エンジニアリングとプロジェクトマネジメントである。この両方ができるプロフェッショナルがシステムズ・エンジニアである。

●情報化に終わりはない。常にビジネス・モデルとプロセスを見直して改革する。それに応じて,情報システムも変化させていく。

●情報化を支える情報システムは,安全に動き,改革に貢献し続けるべきである。

 当たり前のことばかりではないか,こんなものを列挙して何の意味がある,とおっしゃる読者もいると思う。しかし,情報システムの開発や運用現場にいると,以上の情識が通らないことが案外多いのではないか。

 本サイト「IT Pro」が開設されたとき,新聞広告が出た。そこには,「きのうまでの常識が,今日は何の役にも立たない」という表現が踊っていた。その広告を見たとき,「過去の常識はすごく役に立つんだけどなあ」と思ったものである。情報システムの世界で起きることの大半は,過去の繰り返しといってよい。進歩して過去の常識が通用しなくなっているのは,純粋な技術面だけである。それ以外の人間がからむところは何一つ変わっていない。過去の常識が今でも,いや将来も通用する所以である。

自戒をこめて――マスメディアにこそ情識が求められる

 本記事の題名は,「情識に還れ(かえれ)」と命令調である。先回りして書いておくと,これは自戒の表現である。新聞,テレビ,雑誌,いわゆるマスメディアにこそ,情識が求められる。

 マスメディアは新しいものが好きである。金融機関がメインフレームを捨てて,パソコン・サーバーで勘定系システムを作るプロジェクトを始めると喜んで記事を書く。業務を改革した結果,パソコン・サーバーで済むようになったのなら素晴らしい。しかし既存の仕事のやり方を踏襲しながら,ハードウエアだけをパソコンに替えようとするなら,そのプロジェクトははっきりいって金の無駄である。

 マスメディアは変化が好きである。情報システム部門のアウトソーシングに踏み切った企業は,英断をしたとして大きく報道される。アウトソーシングがその企業にとって本当に得なのか損なのかについてはお構いなしである。逆に少数精鋭の情報システム担当者が開発も運用もこなしている企業があったとしてもニュースにはならない。

 「情識」は,筆者が作ろうとしていた新しい媒体の名称として用意していたものだ。ある経営者にお願いし,作っていただいた名称である。ご記憶かどうか,以前本欄で,新しい媒体を準備中と書いた(記事へ)。経緯は割愛するが目下のところ,新媒体の開発は始まっていない。

 そこで,開発はさておき,年内はあちこちの雑誌やWebサイトに記事をたくさん書くことにした。すべての記事は,幻の媒体「情識」の記事のつもりである。まとめて読みたい人もおられるかと思い,あちこちに書いた記事を集めて,「谷島宣之の情識」というページを作ることにした。本日より公開しているので,興味のある方はぜひ覗いてみてほしい。

 筆者が書いた「記者の眼」に書き込みをしてくださった読者の方々への返信は,このページに書いていきたい。また新稿として,「誤報の検証」というメディア批判の記事を書く予定である。

(谷島 宣之=コンピュータ第一局編集委員)