日経Windowsプロの好評連載コラム「トラブル解決Q&A」やトラブル関連の特集記事を再編集して,「Windowsトラブル対策大全」という単行本を最近出版したときのこと。その編集作業で数年分の記事をまとめてみたら,改めて「なんとまぁ,Windows OSはトラブルの多いことか!」と感じた。

 トラブルが起こらないようにシステムを設計・開発するのが技術者の理想的な仕事だろうが,前述したようにトラブルは尽きない。改めて言うまでもなく,トラブルに強くなることは技術者にとって不可欠である。OSベンダーの人的サポートはまだまだ十分とは言えず,向上を期待したいが,それを非難するだけでは始まらない。

 トラブル・シューティングの力を養うためには何が重要だろうか。「最近変更したところをまず疑う」とか「考えられる原因を下層レベルから一つひとつ確認する」といった鉄則がいくつかあるものの,基本的に「ハードウエアやOS,ネットワークがどのように動作しているのか」という技術的な知識と,それらが組み合わされた中で起こるトラブルの連鎖を見抜く洞察力がなければ何もできない。

人に聞かない,1つで満足しない,手を動かして確認する・・・

 では,そういう知識や洞察力はどのように習得したらよいのだろうか?

 以前,Windowsで企業システムを構築しているエキスパートの方々に,Windows技術者としてのスキルアップ法を取材したことがある。実体験に基づいた苦労話や武勇伝に取材中はわくわくしたが,後で冷静になって「共通するキーワードは何か?」と考えてみたら,基本的には極めてシンプルなことだった。

 そのキーワードとは,「労を惜しまないこと」である。具体的なポイントをいくつか列記してみよう。
(1)分からないことは人に聞かず,必ず自分で調べる(人に聞かれてもすぐには教えない,という周囲の人々の“親切さ”も必要)。
(2)2~3時間かかっても,とことん調べる。
(3)1つの情報で満足しない(他にもっといい情報があるのではないかと考え,調べ直してみる)。
(4)調べた後は,必ず「手を動かして」,動作を確かめてみる。
(5)英語の技術文書を嫌がらない(マイクロソフトの技術情報は英文のほうが豊富)

 当たり前のことのように感じる読者もいるだろうが,実行している人は意外と少ないのではないだろうか。最近の現場は結果だけを重視する傾向があるようなので,こうした地道な取り組みは「時代錯誤」あるいは「非現実的」と受け取られても不思議ではない。人は足りないし納期も短い,とくれば,こういう寄り道はできるだけ避けたい,という気持ちも分からなくもない。

「労を惜しまない」とはなんと苦しいことか

 なにより,これらを実践することの苦しさを,自分で挑戦してみて身に染みるほど感じた。この手の調べごとを始めると,1時間や2時間はあっという間に過ぎてしまう。目は痛くなるし,本来の業務に影響すること甚だしいのだ。

 例えば,Windows OSに関する技術情報は,他のどのOSよりも豊富に公開されていると言っていいだろう。それゆえに,必要とする情報にたどり着くまでに,かなりの根気がいる。Windows 2000 Serverに関する技術情報なら,まず全8巻の分厚いリソース・キット(マイクロソフトの公式な技術解説書)があるし,マイクロソフトのWebサイトにも膨大なサポート技術情報(バグ,トラブル・シューティング,利用テクニックなどを検索できるデータベース)やホワイト・ペーパー類が存在する。

 ニーズにぴったり合うものと出会えるかどうかは分からないが,関連書籍も多数ある。検索対象をインターネット上の全サイトに広げると,それこそ無数の情報があふれている。信ぴょう性に欠ける情報もままあるが,非常に良質な情報も多い。検索エンジンGoogleの偉大さを何度も体験した。ただし,情報が多すぎるので,目を通すページ数が100や200で済まないこともある。

 それでも,必要な技術情報がなんとか見付かるため,Windowsのエキスパートたちは皆,根気強く調べていくという(慣れると,土地勘が働いて検索時間は短くなるらしい)。そして,こうした行為が3年後の実力に大きな差をもたらす,とエキスパートたちは考えている。

 自分自身の実践経験では,学習効果をはっきり自覚したことはないが,明らかなのは目にした情報の多さである。人に聞いたら結果しか分からないが,自分で調べると,OSやネットワークの内部動作に関する情報に多く触れていることに気付く。

 今日から実践できて,お金もさほどかからなのはメリットだが,モチベーションを維持するのはなかなか難しい。それでも,「本物」を目指すWindows技術者には避けて通れない道である。

(渡辺 享靖=日経Windowsプロ)