東京23区の市内通話より,大阪市内の通話のほうが電話料金が高くなる――。「なんでやねん!」と突っ込みが入りそうだが,実際,こういう時代が来るかもしれない。

 というのも,NTT東日本とNTT西日本が他の電話会社から徴収する「接続料」に差がつく可能性が高くなったから。総務省の諮問機関である情報通信審議会が9月13日に出した「長期増分費用モデルの見直しを踏まえた接続料算定の在り方について」という答申案に盛り込まれたのである。この答申案のまま話が進むと,2003年度からNTT東日本とNTT西日本で異なる接続料が設定されることになる。

 では,東西で接続料が違えば,本当に東京と大阪で電話料金に差が出るのだろうか。また,これが,先々にどんな影響をもたらすのか。今回はこの点を調べ,考えてみた。

コスト比率の高いNTTの交換機使用料

 そもそも接続料とはなんだろう。まず,そこから見ていこう。

 接続料とは,東西NTTの電話設備を他の電話会社が使うときにかかる料金のこと。KDDIや日本テレコム,東京通信ネットワーク(TTNet)などの電話会社と契約しているユーザーが家庭の電話機から電話をかけると,NTTの電話局にある電話交換機につながり,そこから各家庭が契約した電話会社に送られる格好になっている。

 このとき必ずNTTの電話交換機などの設備を利用するので,その分の利用料金を各電話会社が東西NTTに支払っている。これが接続料である。ユーザーからは直接見えない,電話サービスの卸売り料金だと考えればいいだろう。

 仕入れ値が変われば売り値も変わりそう。特に,仕入れ値が原価総額に占める割合が高ければ高いほど,売り値に影響が出る可能性も高くなる。原価の95%を占めるものの仕入れ値が1割高くなれば,現状の売り値のままでは赤字になってしまう。逆に安くなれば,シェア拡大をねらって売り値を安く設定することも可能になる。

 電話料金における接続料の割合は高い。KDDIや日本テレコムなどの電話会社の市内通話料は3分8.5円。割引サービスを使うともっと安くなる。それに対して,2002年度の接続料は3分換算で4.5円もしくは4.78円になる見込みである(つなぐ電話局の種類の違いで二つの接続料がある)。これが電話をかけた側と受けた側の両方にかかるので,3分間の通話があった場合,電話会社がNTT東西に支払う接続料はその2倍の9円~9.56円になる。

 単純に比較すると逆ざやになっているが,接続料自体は秒単位に課金されるので,短時間の通話だと利益が出る。しかしそれでも接続料の比率は高い。

 この接続料がNTT東日本の局につなぐ場合とNTT西日本の局につなぐ場合で異なるということになりそうなのだ。冒頭で紹介した情報通信審議会の答申案では,NTT東日本の場合,3分換算で3.59円または4.57円。NTT西日本では同じく,4.75円または5.95円になると試算している。その差はおよそ30%もある。

背景には離島などの地理的要因の違い

 では,なぜNTT東日本と西日本で接続料に差が出てしまうのだろうか。情報通信審議会がこうした答申を出した理由は,サービスを提供するエリアの事情が東西NTTで違うからだ。例えば,NTT西日本のエリアには離島が多く,同じ電話サービスを提供するにしてもNTT東日本に比べて多くのコストが必然的にかかる。規模の小さい電話局が多いのも,コストがかかる一因だという。技術革新や業務の効率化では改善できない要因でコストが多くかかるという判断だ。

 2002年度までは,NTT東日本からNTT西日本に「特定費用負担金」という名目のお金が流れていたので,全国一律の接続料が決められていた。しかし,2003年以降はこの仕組みがなくなる。NTT東日本とNTT西日本は別の会社なので,接続料に差が出て当然というわけだ。

 さらに言えば,KDDIや日本テレコムなどの電話会社が仕入れ値を売り値に還元するなら,東京23区の市内通話料が大阪市内の通話料金より安くなってもおかしくないということになるのである。

電話会社各社の反応は・・・

 東西NTTの接続料に差をつけるという方針はまだ答申案の段階。正式にそうなると決まったわけではない。しかし,電話会社各社もすでに,NTT分割議論の段階で「NTT東日本とNTT西日本は別会社になるのだから,接続料などに差が出て当然」という共通認識があったという。接続料に東西格差が盛り込まれるのは必至と見ていいだろう。

 では,実際にユーザーが支払う電話料金はどうなるのだろうか。その点をKDDI,日本テレコム,TTNetなどの電話会社に聞いてみた。

 まだ決まっていない話なので明確な回答は得られなかったが,どこも「拙速に,東西格差のある電話料金にするつもりはない」という答え。東西格差が出ても,現在の全国一律の料金体系を変えるつもりはないという。「接続料の差を全国でならせば,現状の料金を変える必要はないだろう」というのが多くの意見である。

 市内電話サービスも提供する当事者の東西NTT両社に聞いても,「現状で市内電話料金を変えるという計画はない」とのこと。両社は接続料に関しても全国一律にすべきという立場をとっている。「ユーザーは全国一律の料金体系を望んでいる」というのがその理由だ。

 確かに,NTT東日本とNTT西日本という枠組みだけでユーザー向けの通話料に差をつけるというのはおかしい気がする。接続料に差が出る根拠がコストの差にあるなら,例えば大阪とNTT東日本のエリア内の人口密度の低い地域を比べて,大阪の方が通話料が高くなるのはおかしな話だろう。当然大阪のほうが実際にかかるコストは少ないからだ。

 さらに,東西でバランスを取るためにNTT西日本のエリアに組み込まれた静岡県のようなエリアもある。NTT西日本のエリアだからという理由だけで静岡県内の市内通話料金がNTT東日本に比べて割高になったら,静岡県民はやりきれないだろう。

 そう考える一方で,接続料の差が全くユーザー料金に反映されないということにも違和感をおぼえる。先にも書いたが,仕入れ値が下がっているのなら,1社くらい他社を出し抜いて料金体系を変える電話会社があってもいいのではないだろうか。各社とも「市内3分8.5円」という水準を守ろうという姿勢が見え隠れするようでは,本当に競争がある市場とはいえない。

ブロードバンドの普及に影響はないか?

 ここまで読んでいただいた読者のなかには,「いまさら電話でもないだろう」と感じる方もいるかもしれない。「もう家じゃIP電話を使っているよ」という読者もいるだろう。

 確かに,ここまで見てきたのは電話の話だが,これは電話に限った話で済まないかもしれない。コストの違いを前提とした接続料が認められれば,いま急激にユーザー数を伸ばしているブロードバンド・サービスの進展にも影を落とすことになりかねない。電話サービス以上に地域差によるコストの違いが大きいブロードバンド・サービスで地域格差を容認すると,永遠にブロードバンド・サービスを受けられないユーザーが出てきてもおかしくないからだ。

 市場競争とは別の次元の仕組みがないと,「日本全国にブロードバンド回線を」なんてのは夢物語で終わってしまう。電話の接続料の格差がどういった形で一般ユーザー向けの価格に反映されるのか,ブロードバンド・サービスの進展に照らし合わせて今後もウォッチしていきたい。

(藤川 雅朗=日経NETWORK副編集長)