SEが供給過剰になってきた――。「本当? 新聞にはSE不足の記事がたくさん出ているのに」と思われる方もいるだろうが,これは最近,システム・プロバイダ業界の関係者の間でよく話題に上るテーマである。

 バブル崩壊後,ITサービス業界は一時的に人員削減に踏み切ったものの,その後の10年間は増え続け,約10万人増の60万人弱にまで増加した。プログラマや運用要員を含めて,一説には数%が過剰といわれている。

海外への生産シフトや値下げ競争が激化

 この数年間,IT産業の売り上げは伸び悩み傾向にある。ハード/ソフト価格の下落。そこにユーザー企業のIT投資抑制,一案件当たりの単価下落が押し寄せた。

 追い打ちをかけたのはコスト削減を図ろうとして大手コンピュータ・メーカーやシステム・インテグレータが中国やインドなど海外生産にシフトする動きを活発化させたことだ。最低でも10%,中には50%を海外で,と考えているインテグレータは少なくない。ユーザー企業の情報システム子会社が生き残りのために本格的に外販に乗り出したことも,ITサービス業界の競争激化を生む。

 富士通系SE子会社の社長から,この4月にシーイーシー(CEC)の社長に就任した宮原隆三氏も,それを強く感じている一人だ。「ソフト/サービスは儲かると言われていたが,それは幻想だ。いろいろな業界からのITサービス産業参入もあり,競争は激しくなっている」

 もう一つ大きな問題がある。値下げ競争だ。ITサービスの市場規模は約6兆円といわれている。60万人で割れば一人当たり1000万円,月にすれば約80万円になる。その相場が大幅に下がり始めている。業界関係者によると,大量の人員を抱えた企業などが仕事を確保するために値引き提案をし始めたからだという。

 インテグレータやソフト会社などのシステム・プロバイダがこうした中で生き残りを図るには大手,中堅・中小企業を問わず得意技を明確にすることしかない。技術,業種,業務なんでもいい。もちろん価格だけで勝負する戦略もあるだろうが,長続きはしない。中国などが控えているためだ。

システム・プロバイダ業界を覆う閉塞感

 厳しい状況を打開するのは自社の強みを鮮明し,ユーザー企業が求める本物のITサービスを見つけ出すしかない。これが,SEが供給過剰になってきた,という技術者の不安を払拭するための唯一の解である・・・。

 このように一言で済ませられればことは簡単だ。だが,現実にはそれは難しい。筆者は日ごろ,システム・プロバイダの経営者に会うことが多いが,解を明確に語ってくれる経営者は少ない。「ゴールが見えない。どこへ向かって走ればよいのか」・・・。こんな閉塞感が業界全体を覆っているのだ。

 しかし,問題の本質をとらえ,解決策を提示しようと努力する経営者ももちろん存在する。最近では,フューチャーシステムコンサルティング社長,金丸恭文氏の「本当は下流工程で技術革新が起きている」という言葉が印象的だった(金丸氏へのインタビューは日経システムプロバイダの8月30日号に掲載した)。

 システム・プロバイダの多くは,アプリケーションの実装を下流工程と呼ぶ。この“下流”という呼び方の良しあしはともかく,実は今,本当にイノベーションが起きているのはこの下流工程だ。例えば,Javaを基本としたシステム設計などがその例だろう。こうした技術革新と,技術革新をうまく活用できる人がユーザー企業の情報システムに大きな価値を与えることができる,と金丸氏は語る。

 ところが,業界を見渡すと「いちばん仕事をする人が末端になってしまっている。それを付加価値の低い下流工程と称して軽んじてもいる」(金丸氏)。元請けとなるシステム・プロバイダがJavaで受注すると,下請けとして“安いJavaプログラマ”を探して送り込む・・・。このような構造の中で仕事をする限りは,システム・プロバイダが“ユーザーが求める本物のITサービスを見つけ出す”努力を続けたとしても限界がある。

 解決策の一つは,金丸氏の語るように,人月単価でサービスの価格が決まるといった構造自体を崩す努力をすることだろう。あるいは,下流工程では金はとれない,とあきらめて業務分析など上流工程に活路を見出すか。実はここでもシステム・プロバイダは壁に突き当たっている。

 最近会う多くの関係者が,異口同音に本音を語る。「ユーザー企業自身が,今後,どのような情報システムを作っていけばよいのか,方向性を見失っている。情報システム部門の弱体化が進んだこともその一因だろう」――。いくら“ユーザーが求める本物のサービス”を提示しようとしても,肝心のユーザー自身に自分の求めるものが見えていない。これがシステム・プロバイダ業界の閉塞感にもつながっている,というのだ。

攻めの姿勢でビジネス・チャンスを見つけよう

 “下流工程”が軽んじられる業界の構造や,ユーザー企業自身が情報システムの方向性を見失っている,という問題は,確かにシステム・プロバイダ側だけで変革できることではない。ユーザー企業も変わっていかなければならない。だが,システム・プロバイダ側もそれを待っている受身の姿勢ではだめだ。

 技術革新が起きている下流工程で得意技を身につけ,ユーザー企業にその価値を強く訴えて理解を勝ち取る。下請けに甘んじず,自ら新規顧客の開拓に乗り出す。ユーザー企業を巻き込んで業界の構造を変える努力を続ける。方向性を見失ったユーザー企業を支援し,その対価を得る。このような攻めの姿勢に期待したい。

 システム・プロバイダ業界を覆う閉塞感は相当なものだ。だが,このような時にこそ,新たなビジネス・チャンスが見つかるものだと考えたい。私たちも,そのヒントになるような情報提供に努めたいと思う。

(田中 克己=日経システムプロバイダ編集長)