企業情報システムの重要性が,バックオフィスのサポートからフロント系にシフトしてきている状況の中で,私は最近,基幹業務システムの役割について再考すべきだと感じている。

 これまでは,後方の業務処理をサポートするという目的が中心であったため,仕事のコスト削減やスピードアップを図るなどが具体的な導入目標に掲げられ,一応の成果を挙げてきた。当然,システム導入のコスト削減も重要事項であった。

 こうした目的においては,汎用の業務パッケージ導入が賞賛され,他社と同じものを使ってでも,コストが安くなり,業務効率が上がれば「よし」,とされた。基幹業務システムで他社との差異化を実現し,競争優位を手にする,という考え方はいつの間にか忘れ去られてしまった。

ERPパッケージ導入の意味も見直しが必要に

 基幹業務処理パッケージは,データの統合性を備えるようになり,ERPパッケージと呼ばれ急激に普及してきている。ERPパッケージを導入するメリットとして,(1)開発期間(導入期間)の短縮,(2)開発コスト(導入コスト)の削減,(3)業務の標準化,(4)優れたビジネス・プロセス導入,などがメリットとして挙げられ,ユーザーに受け入れられてきた。

 だが,こうしたメリットは1995年以前の状況に基づくものであることを,今,強く認識することが必要である。これからも,こうしたメリットが継続されるのか。それについてはいくつかの疑念があり,厳しい見方をしていくことが必要ではないかと,私は考えている。

 21世紀のビジネス環境を考えると,過去のERPパッケージのメリットが,今後のビジネスを展開する上でデメリットになることもあり得る。

 例えば,過去の優れたビジネス・プロセスを取り込んだものであっても、それが21世紀にも等しく競争力をもたらすという保障はない。また,業務の標準化ができても,現場のきめ細かなノウハウやニーズが取り込みにくく業務レベルが後退する可能性がある,ということは従来から指摘されてきた通りである。

 これまでは,「基幹業務システムそのものは企業の競争優位をもたらすものではない」,という考えが主流であった。しかし,ビジネス・プロセスを支援するのが基幹業務であり,新しいビジネス・プロセス(またはビジネス・モデル)がビジネス戦略と密接不可分となっている状況を考えると,「基幹業務システムは企業の競争優位を創出するために貢献するもの」との位置づけが今後,必要になってくると思う。

 ERPパッケージの導入そのものを否定するつもりはないが,競争力を強化することを最優先とするならば,オーダーメイドで基幹業務システムを開発することをためらわないことも重要であろう。また,ERPパッケージを導入するとしても,BtoBやBtoCなど新しいアプリケーションへの展開が容易か,競争優位を創出するためのカスタマイズが容易か,携帯電話からアクセスできるなど利用できるプラットフォームに柔軟性があるか,など,新たな価値観が求められる。

 価格破壊の時代に,コストを下げるために,オーダーメードではなくてパッケージを導入したい,と考えているユーザーは圧倒的に多い。だが,現状のERPパッケージは「あまりにも高くつく」とするユーザー企業が多くなっている現実を今,冷静に見つめる必要があるのではないだろうか。

(上村 孝樹=編集委員室 主席編集委員)