企業のクライアントOSとしてWindowsは事実上の標準になっている。しかし,一口にWindowsといっても,いろいろな種類がある。最新版のWindows XPを使っているユーザーもいればWindows 2000のユーザーもいる。もちろんWindows Meや98,中にはWindows NTやWindows 95というOSを依然として使い続けているところもまだまだ多い。

 マイクロソフトは,過去にリリースしたクライアントOSに対して順次サポートを縮小するという方針を以前から表明している。正式サポートが終わっても,セキュリティ・ホールが見つかった場合にはパッチを提供し続けるため,企業ユーザーに大きな問題は生じない,という立場だ。しかし,それとは別に,サーバーの機能面でも企業のクライアントOSとして古いWindowsを使い続けようとするとさまざまな制約が増えてきそうだ。

Software Update Servicesを利用できるのはWindows XPとWindows 2000のみ

 マイクロソフトは,企業ユーザー向けに有用な新しい機能をサーバー向けに続々と提供してきている。しかし,それを利用できるのは基本的に最新のクライアントOSに限られるケースが増えている。

 例えば,今年の6月に公開したMicrosoft Software Update Services(SUS)というツールがある。これは,セキュリティ・パッチなど「重要な更新」として公開された情報を,社内のクライアントに半自動的に適用できるというもの。簡単に言うと,管理者がコントロールした“独自のWindows Updateサイト”を社内に用意できるようにするツールだ。

 このSUSを利用してパッチを自動適用するには,「自動更新クライアント」という新しいサービスを,対象とするクライアントに追加する必要がある。しかし,この自動更新クライアントのモジュールは,Windows XPとWindows 2000向けにしか提供されていない。このため,Windows NTはおろか,発売後まだ2年も経っていないWindows Meでさえも,SUSを使ってパッチを自動配布することはできない。

 自動更新クライアントの機能は,実はWindows XPでははじめから搭載している。しかし,SUSを利用するには,そのための最新コードを改めてインストールする必要があるし,そもそも自動更新クライアント機能を装備していないWindows 2000には対応モジュールを新たに用意するのだから,同様に他のWindows向けのものも開発して良さそうなものである。

 これについては,マイクロソフトの側には以下のような事情があったのだろうと解釈することも不可能ではない。Windows XPやWindows 2000のベースとなっているNT系と,Windows Meがベースとする9x系とではレジストリ構造をはじめ,システムの中核となる部分が大きく異なる。そのため,システムを自動アップデートするという微妙な作業をMeなどの9x系で実行するのは,もしかすると難しい問題があるのかもしれない,という解釈である。

.NET Serverの一部機能はWindows 2000クライアントでも利用できない

 しかし,このような解釈がしにくい例もある。

 例えば,来年早々に出荷を予定している新サーバーOSのWindows .NET Serverで提供する新機能の一つである「共有フォルダのシャドウコピー」だ。簡単に言うと,サーバー上の共有フォルダで削除したファイルを簡単に復活させる機能である。

 Windowsサーバーのファイル共有を利用したことのあるユーザーはご存じだと思うが,サーバー上にあるファイルに対して削除の操作をすると,ごみ箱に入らずそのまま消えてしまう。

 ローカルにあるファイルならば,削除の操作をしてもごみ箱に移動するだけで「ごみ箱を空にする」という操作をしない限りファイル本体がなくなることはない。そのため,誤って削除した場合でも,すぐに気づけばごみ箱から簡単に復活できた。しかし,共有フォルダにはこのごみ箱の機能がないため,誤って削除してしまった場合には,わざわざシステム管理者に頼んでバックアップのテープなどから復活させてもらう必要があった。

 これに対し,Windows .NET Serverでは,ある一定時間ごとにフォルダの内容を自動的にコピーしておく。このため,誤ってファイルを削除してしまった場合でも,そのコピーしておいたファイルを復活させることができるようになっている。一定時間ごとにコピーしているため,ごみ箱では無理だった上書き前のデータを復活させることもできるという便利な機能だ。

 驚いたのは,この機能を利用するためのクライアント環境を聞いたときだ。この共有フォルダのシャドウコピーを利用するには,SUSと同様に新しいクライアント・モジュールを追加でインストールする必要がある。このモジュールをインストールすると,共有フォルダのプロパティ上に[Previous Versions]というタブが追加され,そこから任意の時点のファイルが取り出せるようになる。

 このクライアント・モジュールの提供を予定しているのが,なんとWindows XPのみということで,Windows 2000でさえも利用できないのである。

クライアントの寿命は延びる傾向に。新サーバーもそれを考慮してほしい

 SUSの例では,対象クライアントを限定したのは何らかの“事情”があったと解釈することもできた。しかし,「共有フォルダのシャドウコピー」については,前述の説明からも分かるように,この機能を実現するのはほとんどサーバー側の機能で,クライアント側に複雑な処理が必要になるとは思えない。.NET Serverに新たに用意したシャドウコピーの領域を,Microsoftネットワークを使って画面上に見えるようにするだけでよいはずである。

 そう考えると,Windows 2000はおろか,Windows MeでもWindows NTでもWindows 98/95でもほとんど問題なく簡単に開発できそうなものである。つまり,Windows XPにしかクライアントのモジュールを提供しないのは,それがマイクロソフトの“メッセージ”だということになる。

 言い換えると,マイクロソフトが考える標準クライアントOSは,現在はWindows 2000とWindows XPだが,Windows .NET Serverの提供と同時にWindows XPのみにしたいというメッセージとも取れる。

 改めて思い出してみると,Windows 2000が登場したときも,新機能のActive DirectoryにWindows NTも参加できるようにするはずだ,という“噂”があった。Windows NTのマシンからでもIntelliMirrorなどActive Directoryがウリにする機能を利用できるようにするのでは,と思われたからだ。しかし,現在になっても,そういったNT向けのモジュールは提供されていない。

 クライアントに高い処理能力を求めるニーズは以前よりも弱まっており,機能的にも現行OSで十分と考えるユーザーが多い現状を見ると,クライアントの寿命は今後,さらに長期化する可能性が高い。機能的に壁が高いものに関してはある程度しかたがないが,シャドウコピーのように簡単に対応できそうなものは,どのWindowsでも使えるように考え直してほしいものである。

(根本 浩之=日経Windowsプロ副編集長)