ぼんやり分かっていたつもりでいたことが,改めて考えるとまるで分かってなかったことに気がつき,愕然(がくぜん)とすることがある。つい最近,日経コミュニケーションで実施した「ブロードバンド本格活用時代の企業ネットワーク実態調査」の結果を見ていて,突然こう思った。

 「ユーザー企業のネットワーク担当者は,今後いったい何をすればいいのだろう――」

 疑問のきっかけとなった調査自体は,毎年7月ころに日経コミュニケーション誌が上場企業および有力な非上場企業約3000社を対象に実施しているもの。読んでいただければ現時点のネットワーク・サービスの利用実態や人気があるサービス,各社のサービス別人気度などが鮮明に分かるようになっている(日経コミュニケーション8月19日号に掲載。これ,宣伝)。

 例えば今回の調査結果のトピックは,「IP-VPNの利用率は昨年比4倍の30%に達し,2003年内には日本の上場企業の5割がIP-VPNユーザーになりそう」とか,「2番人気の広域イーサネット・サービスの人気トップはパワードコムのPowered Ethernet」だとか,はたまた「(禁止されているにもかかわらず)通信サービスを料金表通りに購入しているユーザーはほとんどいない」――など。企業ネットワークの在り方が大きく変化している実態が明らかになった。

 だが,むしろ筆者が目を引かれたのは,ネットワーク分野におけるアウトソーシング(外部資源の活用)の状況だ。前述の疑問も,そこから浮かび上がってきたものだ。参考までに,この部分に関連する調査項目と結果の一部を紹介しよう。

7割の企業がネット設計を外部に委託

 まず,企業ユーザーの業務を(1)ネットワーク設計,(2)ネットワーク機器/通信サービスの選定,(3)事前接続試験,(4)機器の設定/インストール,(5)運用/管理/保守,(6)トラブル・シューティングの六つに分け,現在アウトソーシングしているか/今後する気があるか,を聞いた。

 数字の羅列で恐縮だが,結果を正確に書くと,(1)のネットワーク設計は48.0%が既にアウトソーシング中で,さらに今後19.7%がアウトソーシングを希望(計67.7%,前年比+14.1ポイント),(2)は同様に40.9%と18.7%(計59.6%,+19.9ポイント),(3)は53.1%と21.7%(計74.8%,+24.1ポイント),(4)は63.1%と25.8%(計88.9%,+26.7ポイント),(5)は47.6%と34.9%(計82.5%,+18.3ポイント),(6)は43.4%と29.7%(計73.1%,+14.1ポイント)というものだった。

 全体のアウトソーシング比率の高さと昨年からの伸びにも驚いたが,筆者が特に「ん?」と感じたのは(1)の数値の高さ。「自社のネットワーク設計」を外部の事業者に委託中あるいは委託を希望する割合が,7割弱にも達しているからだ。

 これまで企業ネットワークに対し,筆者が漠然と思っていた考えはこうだ。「ネットワークは企業にとっての生命線。つまり自社で使うアプリケーションやサーバーの配置,今後の導入計画,工場や支社/支店の役割分担などを考慮した設計ができるのは,自社の業務を熟知している企業内のネットワーク担当者だけだろう。そのネットワーク設計を外部に任せることは少ないのではないか」。だが,実態は必ずしもそうではないようである。

ネットワーク人員はもう増えない

 理由をいくつか考えてみた。まずは,ユーザー企業のネットワーク担当者数の少なさだ。今回の調査結果によれば,ネットワーク担当者が1人の企業は28.2%(前年比+7.5ポイント),2~4人が56.6%(同-6.2ポイント),5~9人が8.3%(同-0.4ポイント),そして10人以上の企業は2.7%(-2.2ポイント)。

 上場企業ですらこの程度であり,しかも昨年より明らかに担当者数は減っている。「ネットワーク設計」をどこまで含めるかによっても見方は異なるだろうが,わずか数人の規模で詳細な設計をこなすのは,無理があるのかもしれない。

 もう一つは,IP-VPN(仮想閉域網)や広域イーサネット・サービスに代表される新型WANサービスの急速な普及にありそうだ。これらの網加入型サービスではネットワークの運用管理の多くを事業者に一任できるため,ユーザー側の管理負担は大きく軽減される。既にこれらのサービスを利用すること自体が一種のアウトソーシングだ。結果的に企業ネットワークの中軸はこれら通信事業者のWANサービスに移行していくため,ネットワーク設計のコア部分も通信事業者に負わざるを得なくなる。

 ユーザー側の意識変化もありそうだ。NTTデータの松田次博・法人ビジネス事業本部第二法人ビジネス事業部ネットワーク企画部長によれば,「ユーザー企業のネットワーク部門は明らかに二極化してきた。自分たちで出来る限りやり抜くこうとする企業と,できるだけ外部に任せようとする企業の2種類だ」と言う。

 「実際にネットワークを設計するには,最新技術から通信事業者側の内部ネットワーク構成にまでわたる膨大な知識がないと,必要な帯域すら決められないはず。現在の多くの企業ネットワーク部門には荷が重過ぎるのではないか」(同)

 ここでもう一度,冒頭の疑問にもどってしまう。では今後,企業のネットワーク担当者は何をすればいいのか,と。

 恐らく,「正しい」答えはないのだ。一つだけ確実そうに思えるのは,今後はもう,企業のネットワーク部門の規模が大きく拡大することはないということ。この中で各社は自分たちの企業風土などに合わせ,最適と思われる方策を採っていくしかない。徹底的に自社のネットワーク部門を技術のスペシャリスト群に育て上げるのもいいだろうし,逆に経営企画部門などと一体化させて「我が社は何をするべきか」という基本概念の形成だけに特化する手もあるだろう。

キーワードは「インデックス・スペシャリスト」

 もう7~8年も前の話になるが,米国のユーザー企業やコンサルタント会社の取材の中で,「インデックス・スペシャリスト」という用語を数度聞かされた。

 意味するところは「システムやネットワーク部門の担当者は,何でも自分で解決する必要はない。重要なのは,課題や問題ごとに,誰に(どの会社に)聞けば最適な答えが得られるのかを知っており,即座にアクションを起こせること」らしい。

 ただし実際にこれを実行するには,ある程度の技術知識は当然として,サービス提供事業者の動向,社内外にわたる幅広く深い人脈,「あんたに言われりゃ断れねえな」と相手に言わせるだけの人的魅力(?)――など,より広い能力が求められるだろう。「ネットワーク」とは「網」のことだから,知識に幅広い「網」をかぶせるということなのかな? というのは冗談にしても,筆者としては今後はこれが本筋と思えてならない。

 と書いて見て,これはなぜか,筆者ら専門誌記者に求められる能力とほとんど変わりがないことに気がついた。同時に,自分がこのレベルに全く到達していないことにも(ああ)。

 自分が出来ていないことを偉そうに人にカタルのも変な話で,少しハズカシイ。シゴトは誰にとってもいつの時代も変わることなくキビシイということか。でも日経コミュニケーションの8月19日号はどこに出しても全然恥ずかしくない自信作です。読んでみてください。

(宮嵜 清志=日経コミュニケーション副編集長)