携帯電話らしさって一体何だろう? 今さらの疑問かもしれない。が,携帯電話向けのWebサイト構築・運用をテーマにした特集記事(日経インターネット テクノロジー9月号)の取材・執筆を進める中で,こんな疑問に行き当たった。

 iモードが登場して以来,携帯電話向けのWebサイト(以下,携帯サイト)は急激に増加した。ただ,その中には,単にPC向けのサービスを携帯用に変えただけというサイトが少なくない。通常のPC向けWebサイトでさえ,ビジネス的な成功につなげることが困難な昨今,PC向けサイトと同じような内容の携帯サイトで,どれだけビジネス的な効果を期待できるだろうか。

“携帯らしさ”を意識したサービス作りが大切

 そこで重要になりそうなのが,“携帯らしさ”を意識したサービス作りだ。携帯電話でなければ実現できない,あるいは携帯向けに提供するからこそ価値が高まるサービスである。実際,いくつかのユーザーは,携帯らしさを意識したサービスを提供し始めている。

 当然と言えば当然だが,携帯らしさのポイントは,ユーザーがほぼいつでも肌身離さず携帯電話を持ち歩くことにある。つまり,どんなシチュエーションでもWebアクセスが可能になる。

 この点に着目した例が,フジサンケイリビングサービスが手がける携帯向けの通信販売サイト「iディノス」だ。ユーザーは,ソファーなどでくつろぎながら紙媒体のカタログ誌を見て,気に入った商品があれば,その商品番号を携帯電話で入力するだけで注文できる。漢字やアルファベットならば入力しにくいこともあるが,数字だけなら携帯電話でも楽に入力できる。携帯電話のキー操作性の低さというマイナス面の“携帯らしさ”を逆手に取り,いつもユーザーの身近にあるという携帯らしさを生かしたアイデアである。

 ジョルダンが提供している最終電車の時刻表に特化した時刻検索サービスも,ユーザーがいつも持ち歩いているという点を強く意識している。居酒屋で終電が気になったそのときに,手元にある携帯電話を使って時刻表をチェックするという,利用シーンは容易に目に浮かぶ。

 携帯電話の特徴としては,位置情報を把握できる点も挙げられる。携帯電話の通信は,必ず基地局を経由する。このため,携帯と基地局との通信から,携帯所有者の現在位置がわかる。例えば,サービス提供者がユーザーの位置情報を把握できれば,自動的にその地域に関連した情報を自動的に抽出して,ユーザーに提供できる。たとえば経路検索サービスでは,ユーザーが今いる場所からの最寄り駅を,位置情報を使って探し出し,候補として提示することが可能になった。

PCにはない携帯電話の機能を生かす

 PCにはない機能を生かすと,さらに違った携帯向けサービスが可能になる。たとえば,携帯電話を会員証やリモコンの代わりに使うアイデア。NTTドコモが2002年5月に発売した504iシリーズには,赤外線通信機能が標準搭載されている。この機能を生かしたサービスである。

 携帯電話にレンタル・ビデオの会員情報を持たせ,レンタル時にレジに設置した機器と携帯電話の間で自動的に会員の認証を実行する。携帯電話上で稼働させるJavaアプリケーションの作り方次第で,決済も実現できるし,クーポン券のような付加サービスも提供できる。電子チケットも可能だ。インターネットでチケットを購入し,携帯電話にチケット・データを記録する。イベント会場のゲートでは,携帯電話を使って入場チェックできる。実際,ぴあは電子チケットの事業を計画中。2002年度中にはサービスを開始する予定だ。

 どの場合にも共通しているのは,利用するシチュエーションをはっきりとイメージしていること。PC向けサイトのような汎用的な情報提供との大きな違いだろう。携帯電話は,いまや老若男女を問わず,多くのユーザーが持ち歩く。ユーザーの生活にマッチした情報や携帯電話の使い方を提示できれば,大きなビジネス・チャンスを見出せるかもしれない。

 冒頭で紹介した日経インターネット テクノロジー9月号の特集記事では,携帯サイト構築・運用のポイントと,携帯らしさを生かしたサービスの例をまとめた。興味を持たれた方には,ご一読いただければと思う。

(山崎 洋一=日経インターネット テクノロジー)