デジタル・スチル・カメラ(デジカメ)の生産が好調だ。2001年末から2002年初にかけて生産量が急減したため,いよいよ「飽和状態に近づいてきたか」と先行きを不安視する見方も多かったが,結果としては季節変動の振れ幅がやや大きかっただけで杞憂(きゆう)に終わった。2002年通年では,日経マーケット・アクセス2002年8月号で報告したように対前年比36%増の2270万台に市場が拡大する。

 世界のデジカメ生産量の90%近いシェアを握るのは日本である。パソコン関連機器はもちろん,デジタル家電でさえも韓国や中国のメーカーの伸長が著しい中で,デジカメは日本メーカーが主役であり続ける数少ない機器の一つだ。その強さの理由を探ると,今後の日本の機器メーカーが進むべき一つの道が見えてくる。

画(え)作りへのこだわりが生き残りの鍵

 なぜデジカメで日本メーカーが主役であり続けているのだろうか。それは今日のデジカメ市場で大手として残っているメーカーを見ればよく分かる。

 1994年にカシオ計算機がパソコン周辺機器として使える低価格のデジカメを製品化して以来,国内外のパソコン関連,エレクトロニクス,カメラ関連と数え切れないほどの企業が参入してきた。しかし,大手として残ったのは,日本のカメラ関連メーカーとソニーである。

 日本メーカーが残った理由の一つとして,キー・デバイスを開発・生産しているのが日本メーカーだったということが挙げられる。カメラの目となるCCD(電荷結合素子),メモリー・カード用フラッシュ・メモリー,表示素子のTFT液晶ディスプレイと日本メーカーが先頭を走る部品ばかりである。

 加えてデジカメで日本が主役であるのは,もう一つ別の大きな要素がある。カメラやビデオ機器関連のビジネス雑誌である『月刊AVレポート』誌編集長の吉岡伸敏氏は,「画(え)作りにこだわる職人を大切にしているメーカーが強い」という。レンズ設計を中心とした,画作りにこだわりつづけたカメラ・メーカーが残った。

 同様にソニーも,デジタル画像への取り組みが早かった上に,ビデオ・カメラで培ってきた画作りへのこだわりがあると吉岡氏は解説する。こうした技術は設計や製造装置にノウハウとして簡単に組み込めるものでもない。

 1~2年ほど前から台湾メーカーを中心に低価格を売り物にしたデジカメ,いわゆる「トイ・カメラ」が生産台数を伸ばしてきた。しかし,主要市場である米国の2001年末の商戦を見る限りでは伸び悩んでしまった。

ユーザー層拡大に向けたインフラ整備と,より魅力的な機能提示が課題に

 もちろんデジカメもいつまでも日本メーカーが先頭を走り続けられる保証はない。低価格化競争も激化しており,収益は悪化している。そこで日本のデジカメ業界は,ユーザー層拡大に向けたインフラ整備と,購買欲を刺激するより魅力的な機能提示を行う必要がある。

 前者については,新たな動きが出てきている。非パソコン・ユーザーにとってデジカメは出力方法が課題だったが,デジタル画像をプリント出力するDPE店が増えてきた。さらに100万~200万円程度と低価格の業務用出力機が相次いで登場している。こうした出力機がコンビニエンス・ストアなどに設置されると,プリント代も銀塩フィルムより下がり,ユーザー層を広げていくだろう。

 一方,機能面の強化で注目されているのがMPEG-4[用語解説] を使った動画機能の取り込みである。ビデオ・カメラ市場が侵食されてしまうという見方もあるが,むしろ動画がより身近になって,ビデオ・カメラとの相乗効果が出てくる可能性もある。

 成長鈍化が見えてきたパソコン業界もデジカメとの相乗効果を期待する。米Microsoft社のAdvanced Strategy & Policy担当副社長の古川享氏は,6月に開催された「Windows Media Technology」の記者発表会の席で,「デジカメとパソコンが非常に面白い関係になっている」とした。デジカメ購入をきっかけにパソコンを購入するという可能性が出てきているという。

(中村 健=日経マーケット・アクセス編集委員)

■この記事は,日経マーケット・アクセス2002年8月号の「ビジネス・モデル」欄より転載したものです。