ケータイが壊れた。携帯電話会社のショップに持ち込んだところ,店員は申し訳なさそうな表情で「画像や着信メロディはたぶん消えてしまうと思います」と言った。仕方がない・・・。後日,修理から戻ってきた“まっさら”のケータイを家に持ち帰り,再度データを入れ直した。

 その3カ月後,また壊れた。憤慨しながらショップに向かうと,くだんの店員の表情が以前と違う。ちょっと自慢気に「データを救出できるかもしれません」と言うのだ。

 記者の契約している携帯電話会社はJ-フォン。後で同社に確認したところ,J-フォンでは写メールなど比較的大きなデータを扱うケースが増えたため,修理の際にデータを消さないでおく体制作りを以前から考えていた。そして端末メーカーの協力を得ることができて,2002年3月1日から,同社が扱う全メーカーの端末を対象に,この“全データ救済体制”をスタートさせたのだという。

 具体的には,端末を製造する各メーカーがそれぞれの修理工場に,データの吸い上げ/書き込みができる設備を用意する。ショップでは「工場でのデータ吸い上げを希望するか」とユーザーに尋ね,希望する場合はその旨を工場に伝えて,“できる限り”データを復旧しつつ修理するというものだ。

 このサービスの恩恵を受け,記者のケータイはメイン基板を交換したにもかかわらず,自作の着信メロディともども,元の状態で戻ってきた。

データ保全体制,au とJ-フォンが先行

 デジカメだ,Javaアプリだ,動画だ・・と,ケータイ側で保存しておくデータは日に日に増えている。なかには消えてしまったら大ショックというデータもあるだろう。今までのように,電話帳とメール・アドレスさえ復旧できればいいという時代ではなくなってきたのだ。こうした“大容量データ”の保全復旧を,そろそろ考えるべきだろうと思っていた矢先のことなので,J-フォンには拍手を送りたい気持ちになった。

 拍手を送るべき相手はJ-フォンだけではない。au(KDDI)でも,すでに同様のサービスが受けられる。KDDI の場合,端末メーカーと結んでいる保守契約に付帯する実施要領のなかに,「データ・フォルダの内容は極力保護するように」という一文があり,これをメーカーが自主的に努力・実行しているという格好なのだ。

 とはいえ,実際に au ショップなどに修理を持ち込めば,ほぼどのメーカーの端末でもデータを元の状態に戻す努力をして返してくれる。もちろん,データが読み出せないような故障では,いくら工場でも無理だが,その場合でもショップを通じてユーザーに「これこれは復旧できないがいいか」と連絡してくれる。パソコンなどバックアップ手段を持たないユーザーにはありがたいサービスだ。

 NTTドコモとTU-KAには,残念ながらこうしたサービスは今のところない。ただ,両社のために弁明すると,いずれも最近までデジカメ付きケータイにあまり注力してこなかった。このため,大きなデータを保存しておきたいというユーザーの声が多くなかったということはあるだろう。TU-KA は2001年10月に最初のデジカメ付き機種を出し,この7月に3機種目を出したばかり。NTTドコモはこの6月に最初のデジカメ付き機種を出し7月15日に新たな2機種を出した。

 デジカメ画像以外の“大容量データ”と言えば,着信メロディ,Javaアプリなど著作権がからむものが多い。そのバックアップを取るとなると神経質にならざるを得ないのも事実。とはいえ,J-フォンの言葉を借りれば「別の端末に移すのではなく“同じ端末”に戻すのだから,著作権のあるものでも問題ない」。こう考えれば,データ保全はユーザーにとっては便利なサービスだ。

 NTTドコモでは,ケータイのソフトウエア・バグが原因で端末を回収するといった場合を想定し,データ保全の方法を検討しているという。同社は,小さなドコモショップを除き,多くのショップに修理できるスタッフと設備を置いている。全回収の場合も,こうしたスタッフ/設備で対応するのだろう。このデータ保全の仕組みを,修理のときにも利用できるようにするといいと思うのだが,どうだろうか。

バックアップ取れるケータイはどれ?

 ここまで読んでくださった皆さんのなかに「故障時のサービスじゃ,大事なデータが保たれるとは限らないだろう。故障個所によっては,データを吸い出せるとは限らないんだから。それより自分でバックアップを取る方が重要じゃないか」と考える人がいらっしゃると思う。ごもっともである。

 バックアップには,パソコン用の携帯メモリー編集ソフトでパソコンに吸い出す方法や,J-フォンの「J-SH51」のようにメモリーカードを利用する方法がある。

 このうち,携帯メモリー編集ソフトを使うとなると,“大容量データ”をコピーできる機種/できない機種のどちらかということと,ソフトの対応状況で決まる。その対応状況を見る限り,携帯電話会社の評価は,先ほどの修理時のデータ保全体制とは,異なる順位となる。また,携帯メモリー編集ソフトでは著作権のあるデータはバックアップできないなど問題も残る。

 ケータイに蓄えたデータのバックアップについては,さらにつっこみを入れたい問題があるので,次の機会に詳しく書くことにしたい。

(橋本 敏彦=編集委員室 編集委員)

■本記事は,BizTechに7月24日に掲載したものです。BizTechではこの記事をはじめ,多彩な記事をコラム「視点」で掲載しています。ぜひ,ご覧下さい。