最近になって,日本でも「PtoP型」[用語解説] と銘打った製品やサービスが増えてきた。コラボレーション・ツール,インスタント・メッセンジャ,コンテンツ配信サービス,開発ツール・キットなど,さまざまな製品/サービスが登場している。しかし,それらを紹介する記事を書いていくうちに,どうも納得できないことが出てきた。PtoPのいわゆる“魅力”が,魅力にみえなくなってきたのである。

 PtoPのモデルでは,各マシン(ピア)が対等な立場でつながって網の目状のネットワークを構成し,そのネットワークのなかで処理を分担する。このため,従来からのクライアント/サーバー・モデルと比べると,(1)構築・運用に多大なコストがかかるサーバーが不要になり,(2)各マシンの遊休資産(CPUやディスク,ネットワーク)を有効活用できる,というのがPtoPの魅力だ。

サーバーの負荷は本当に下がるのか?

 まず,サーバーが不要だという“魅力”。これがどうも安易に語られすぎているように思う。

 米Napsterの音楽ファイル交換サービスがそうだったように,PtoPが最も威力を発揮するのは,インターネットにつながる無数のマシンが互いにつながった形だろう。だが,このような形態で,本当にサーバーは不要になるだろうか。

 少なくとも,PtoPネットワークに初めて参加するときに接続するマシンは,安定して稼働している“サーバー”であることが必要だろう。接続しているマシンがすべてダウンしたとき,別の接続先を探すための“サーバー”も必要である。

 もちろん,接続先を探すという以外のほとんどの処理を,各ピアで分担して進められれば,サーバーの負荷が大きく下がるというメリットは出てくる。しかし実際のアプリケーションで,どんな処理を各ピアで分散実行できるだろう。例えば,情報を探すという処理。これを実際に分散処理するソフトにGnutella(グヌテラ)があるが,Gnutellaでは検索要求をすべてのピアに届けるため,検索処理に時間がかかり,通信コストが高くつくという欠点がある。だからこそNapsterは,ファイルの検索処理をサーバーで集中処理する形態を選んだといえる。

 コンテンツを配信するという処理なら,コンテンツのキャッシュを各ピアのストレージで持ち,各ピアがコンテンツ配信サーバーの代わりをするという形態で分散化できる。確かにこれならサーバーの負荷は下がりそうだが,本当にうまくいくだろうか。この仕組みでは,コンテンツのダウンロード時間が時に長くなる危険性がある。キャッシュを持つ各ピアが突然ダウンするかもしれず,そのたびに違うピアへの再接続が発生するからだ。

 こんなに不安定なサービスが本当に普及するだろうか。コストをかけてでも安定したコンテンツ配信サーバーを設置しないと,誰も使ってくれないのではないか。

 各マシンの遊休資産を有効活用できるという魅力も,実際にはなかなか生かしきれない。マシンのユーザーが自分の資産を「ボランティア」で提供するという動機付けがなかなかできないからだ。Napsterは,有償の音楽ファイルをタダで入手できるという強力な動機付けから,ファイルをボランティアで提供する多くのユーザーを作り出せた。しかし,それに続くアプリケーションは今のところ,なかなか見えてこない。

 こうして考えていくと,PtoPの魅力が本当に生きると思えるアプリケーションがどんどん少なくなっていくのである。実際のところ,Napsterを経験したPtoP先進国の米国からも,爆発的に普及しているPtoPアプリケーションというものはいまだ聞こえてこない。

期待は無線LAN付き携帯電話?

 それでも筆者は,近いうちに新しいPtoPキラー・アプリケーションがまず日本に登場するのでは,と期待しているところがある。ターゲットは,無線LANやBluetooth[用語解説] といった短距離無線通信機能を持った携帯電話だ。

 例えば,近くの携帯電話同士がPtoPネットワークを構成し,音声やメールのパケットを無償で交換するというアプリケーション。通信先が同じ無線LANサービスのサービス提供地点にいるか,近くにいる携帯電話がPtoP機能で次々とパケットを通信先まで中継してくれないと通信できないが,タダで電話ができるなら使いたいというユーザーは多いだろう。繁華街での待ち合わせ時の連絡にはもってこいだ。「ボランティア」への動機付けも十分に思える。ちなみに,これをサーバー集中型で実行するなら,すべての携帯電話ユーザーの居場所を管理する必要があり,多大なコストがかかる。

 PtoPの魅力を本当に生かせるアプリケーションは,こんなところから登場するのかもしれない。

(安東 一真=日経インターネットテクノロジー)