銀行の大型合併相次ぐ中,支店の統廃合などで銀行の「店名・店番号」が変わってしまい,関係各方面に連絡するのに面倒な思いをしたかたも多いと思う。

 私の場合も,クレジットカード会社の届け,銀行自動引き落としの変更,インターネット・バンキングやオンライン・ショップの事前登録銀行などを更新するのに,手間のかかること。インターネット・バンキングの登録振込先の変更は文書でやりとりしなければならない銀行が多く,その作業にかかった時間は待ち時間を含めると延べ何週間にも及ぶ。

 店名・店番号変更に対しては3カ月間に限り全国銀行協会(全銀)のコンピュータシステムにより自動読み替えサービスが行われているが,3カ月を過ぎると「旧店名・旧店番号」あての振り込みは実行されずにはね返ってくる。

たった3カ月で経過措置終了

 しかし,こうした読み替え作業はまさにコンピュータの得意とする仕事だ。なぜ,サービスを3カ月間だけで打ち切ってしまうのだろう。こんなデータの読み替え作業などは今やパソコン・レベルでも処理できる仕事だし,十分なアドレス空間を用意したコード体系を使えば,店番も含め永久に有効な口座番号体系が構築できる。そうすれば,そもそもこんな不便は起きなくなるはずだ。

 大口ユーザーは銀行からテープで取り寄せた店番の変更データを支払いシステムに読み込ませ,3カ月の移行措置期間内にシステムを更新しなければならない。銀行の自己都合による手続き変更に付き合わされるユーザーはそのために多大なコストを支払っていることになる。

 銀行間の振り込み事務は各銀行の間に位置する,全銀の「全国銀行データ通信システム」(全銀システム)が仲を取り持つ形で動いている。各銀行は全銀システムに振込先の銀行コード,店番を指定して送り込むと,指定銀行にデータが転送されていく。

 この全銀システム,稼働開始したのは1973年4月。その後何度か改良され,1995年には「第四次全銀システム」が稼働開始している。しかし,仕組み自体は古い考えを引きずっており,さまざまな不便を引き起こしている。銀行コードは4桁,店番号は3桁で指定するため,統廃合を繰り返していくと,店番号が枯渇してしまう恐れがあるから廃止した店番号は抹消,統合によって店番号が重複してしまえば変更する。変更した店番号については3カ月間だけは全銀システムが読み替えてデータを流してくれるが,経過措置後はユーザーが何らかの手を打たなければならない。

 シェアウエア作家など,全国に取引先が散らばり,しかも,全体を把握するのも難しい,などといったユーザーはほとほと困るだろう。そのための決済代行サービスもあるが誰かがどこかで作業をしているのに変わりはない。
 
顧客サービスの視点が欠ける

 しかし,なぜ3カ月しか,読み替え作業をしてくれないのだろうか? いろいろ取材したら,面白いことが分かった。

 全銀協に確かめたところ,「全銀システムは銀行各社の意向をもとに仕組みを用意している。そもそも銀行から3カ月が短すぎるから伸ばしてほしいという要請は受けていない」という。「平成4年にそれまで2カ月だった経過措置を,銀行各社の合議で3カ月に伸ばした」ともいう。さすがに2カ月ではせわしないが,3カ月もあれば,ユーザー側で対応できるだろうという考えからだという。

 全銀システムの誕生はまさにITの夜明け前にさかのぼる。記憶容量は極力へらし,遅い通信回線でも機能するようにそもそものシステム設計が始まった。支店番号も3桁もあれば十分だろう,と仕組み作りが進んでいった。

 銀行同士の合併など考えられない時代からの仕組みだから,合併で店番号を振り替えなければならない事態など想定はしていない。結局,その仕組みの上で大型合併をその都度乗り越えることになってしまったのだ。

 ここまで記憶装置が安く大容量になり,通信回線も飛躍的に高速化した今となっては,顧客が本当に満足して使ってもらえる仕組が作れるはずだ。

 ちょうどIPv6の考え方のように,個人の口座番号にユニークな値を割り振り,これですべてを処理する。支店の統廃合が起きて,○○銀行A支店が△△B支店となっても,システム的になんの変更もしなくても無事相手先に送金できる仕組みはいくらでも考えられる。当然,既存システムとの互換性を保たなければならないが,上位互換を取る仕組みも工夫次第だろう。

 こうしたITシステムを顧客の満足度向上のためにどう使えばいいのか,といった原初に帰った発想がないから,不便はいつまでも放置されることになる。

ユーザーももう一度ITの効能を考え直そう

 使う側も「銀行システムはこういう仕組みになっているもの」,とあきらめている節がある。大量の銀行自動引き落としをしている企業でも,銀行の統廃合があった場合は3カ月以内に銀行コード,支店コードを書き換えることにしているという。「だって,銀行システムってそういうものなんでしょ?」

 しかし,ユーザー企業の担当部署はそれが仕事と割り切ってしまわずに,ITが使われているのになぜこんなくだらない仕事をこなさなければならないのかと考えてもいいだろう。銀行業務に関する不都合を相談する「銀行よろず相談所」にも店番号変更作業に対する不満はほとんど寄せられていないという。しかし,それは大型合併だから仕方がないとあきらめているだけのように見える。

 6月下旬には,みずほ銀行が新聞各紙に「店名・店番号変更のお知らせ」を全面広告で掲載,膨大なコストをかけて利用者に不便を詫びた。しかし,これだけの膨大なコストは無駄以外の何者でも舞い。ITシステムを上手に作ればいらなくなるはずのものなのだ。

 例えば住所変更などを行った場合,郵便局は1年間の転送サービスをやってくれる。コンピュータで打ち出した新住所袋にまとめて送ってくれる場合もあるが,時には手書きでラベルを貼ってくれ転送されてくるものもある。友人,取引先などへは転居の案内を出しているから,だいたいは数カ月で落ち着くが,各種DMなどはどこからか拾ってきた住所で送ってくるから,1年経っても転送サービスのお世話になってしまう。くだらないことでお手数かけて申し訳なく思うが,本当に古い友人が思い立って連絡してくることもあり,1年でサービスが打ち切られるとつらいこともある。

 郵便事務と違って,銀行振込は完全に電算処理できる業務だ。ならば,番号の振り替えも,期間限定の転送サービスも避けられる。

 IT技術を何のために使うのかを,こうした歴史あるシステムでは特に考える必要がある。やはりITはみんなの最大幸福が得られるよう考えて行くべきだろう。
 
 2003年11月にはこの全銀システムが改良されるという。ぜひ,素晴らしいものになることを願いたい。

(林 伸夫=編集委員室 主席編集委員)