今を去ること7年前だったと思う。「OMT法[用語解説]開発者のJames RumbaughがRational社に移籍!」というニュースを聞いたのは。こう考えるとずいぶん前の話だ。そしてGrady Booch氏と統一方法論(Unified Method)の開発に向けて乗り出した。

 そして,最初のUML(Unified Modeling Language,[用語解説] )が制定されたのは1996年。ここに至っても,もう6年も前の話ということになる。10年一昔,というくらいだから,普通に考えても6年前といったら「半分昔」くらいの感じだろう。しかもこの業界はドッグ・イヤー(おぉ。もはや死語だ)で進むとさえ言われている。その伝でいけば,UMLが出来たのは業界的にははるか昔の話ということになる。

今になって注目を集め始めた

 そのUMLが,今注目を集めている。昔からオブジェクト指向に傾倒していた人々からすれば,「何を今さら」というのが正直な感想だろう。例えば豆蔵の代表取締役社長兼CEOの羽生田栄一氏なども,「正直言ってなぜ今,という感じがする」らしい。

 実際,彼にUMLの解説を依頼したのは1996年。もうそのころからUMLに取り組んでいる人はいたわけだ。もうちょっと早く,UMLに注目が集まってもよかったような気がする。もちろんUMLが流行すること自体は,非常に歓迎すべきことだ。オブジェクト指向に基づくシステム開発をするうえで,正しい設計をするのにUMLを用いるのが有効であるのは間違いないからだ。

 ただ問題は,どうもブームっぽい認識されかたが多いような気がすることだ。その結果として,「UMLを知っていれば,もうオッケー」という雰囲気が醸し出されているように思える。今度出る日経バイトの9月号にも書いたが,これはちょっと,由々しきことだ。なぜなら,UMLは設計や分析に使う図の表記法を定めたにすぎないからだ。UMLでオッケーとなるのは,ごく一部のことにすぎない。

UMLは開発方法論ではない

 まず第一の問題が,UML=開発方法論であるという誤解が多いことだ。UMLを導入するのは,正しくシステムを分析・設計するためであることは確かなのだが,UMLを使ったからといって正しく分析や設計ができるわけではない。そのためのさまざまなガイドラインを定めたものが開発方法論である。UMLを覚えても分析や設計などできない。分析や設計をするためには,別途開発方法論を習得しなければならないのである。ちなみに,弊社が発行している雑誌の記事の中にも,「UMLで開発方法論を統一」といったフレーズが出てくるものがあった。困ったものだ。

 どうも気になるのが,こういった状況が数年前の「CASE(Computer Aided Software Engineering,[用語解説])」の流行に似ているところだ。CASEがもてはやされたころ,CASEツールを導入すればそれだけでうまくシステム開発できるという誤解が広まった。しかしCASEツールだけではどうしようもない。有効活用するには,そのツールが基づいている開発方法論を正しく理解している必要があった。「CASEツール」を「UML」と置き換えれば,現在の状況が当てはまるような気がしてならない。

正しいモデル作りとUMLの知識は別のもの

 そしてもう一つ重要なことは,UMLを使って開発方法論に従ってモデルを作成したからといって,再利用性や保守性の高いシステム構築がすぐできるわけではない,ということだ。絵の具とキャンバスを揃え,さらに構図の選択方法などを学習したとしても,誰もが名画を描けるわけではない。モデリングもそれと同じだ。よいモデルを作れるようになるには,経験やセンスが必要である。だから,誰もがよいモデルを作れるわけではないのだ。

 ただ幸いなことに,システム開発に携わるすべての人間がモデリングできる必要はない。極端なことを言えば,一人優秀な技術者がモデルを作れさえすれば,あとの開発メンバーはそのモデルを読む能力さえあればよい。だからUMLに関する知識は当然として,さらに上を目指す開発者がモデリングの能力を身につけていく,ということになるのだろう。

 逆に言えば,UMLは必須の知識である。UMLを読めることが,システム開発に携わる人間の必須の条件となる。そうでないと,システムに関する知識を共有できなくなってしまうからだ。

 こういったことは以前から言われていたことではある。今や時代はアスペクト指向だとか,オブジェクト指向にプラス・アルファしてうまくやっていこうという考え方が出てきている。しかし6年前と比べてみると,一番大きな変化は豆蔵のようなオブジェクト指向専業ベンダーができるようになったことかもしれない。つまり,オブジェクト指向でトップを走ってきた人が,起業できるようになってきたということだ。まあ,時代がやっと追いついてきた,と考えればよいのだろうか。

(北郷 達郎=日経バイト副編集長)


【おわびと訂正】
記事掲載当初,終わりから3行目に「一番大きな変化は羽生田氏が独立して豆蔵を設立したことかもしれない。」と記述しましたが,豆蔵の設立は1999年,羽生田氏の参加は2000年でした。このため,当該個所を「豆蔵のようなオブジェクト指向専業ベンダーができるようになったことかもしれない」とさせていただきます。以上,おわびして訂正します。