駅,空港,列車,ホテル,ファーストフード・ショップ,レストラン・・・。人の集まる場所で,無線によるインターネット・アクセスを提供するケースが増えている。こうした形態のインターネット・サービスは,つい最近まで“ホットスポット・サービス”と呼ばれていた。だが,最近は無線LANサービスと呼ぶことが多くなっている。2002年4月にNTTコミュニケーションズが同社の無線LANサービスの名称を「ホットスポット」としたためだ。

 ただ一般の人には,この“無線LAN”という呼び名からサービス内容を想像するのは難しいかもしれない。分かりにくいのは名称だけではない。サービスの提供方法も事業者によって違っていることが多いからだ。

 無線LANサービスの提供に関与するプレーヤは大きく四種ある。第1に,インターネット接続を提供するプロバイダ。第2に,無線LANのアクセス・ポイントを設置し,それを運営する企業。第3に,プロバイダとアクセス・ポイントを結ぶ接続回線事業者。最後に,アクセス・ポイントを設置する場所のオーナーである。

 もちろん,たいていの無線LANサービスは一つの企業がこれらプレーヤのいくつかを兼営している。例えば,NTTコミュニケーションズのホットスポットやモバイルアクセスインターネットの「Genuine(ジェニュイン)」は,いずれも実質的に1社単独で提供する。

 こうしたプロバイダ主導型の対極に位置するサービス形態もある。場所のオーナーが自ら無線LANサービスを提供するというものだ。オーナー自ら提供場所にADSL/FTTH回線を引き込み,アクセス・ポイントを設置する。初期費用に数万円かかるものの,運用費は月額1万円以下。これで集客効果が出れば安いかもしれない。

 まだ試験的な色彩の濃い無償サービスが大半だが,ユーザー認証をかけないので無線LAN機能を備えるパソコンやPDAを持っているユーザーなら誰でも利用できる。これがプロバイダのサービスと違うところだ。

43年前のロジックが通用するか

 無線LANサービスを普及させるために,サービス事業者は,ホテルやレストラン,ファーストフード店など,チェーン展開している企業と提携して,エリアの効率的な拡大を図ろうとしている。

 こうした中,エリア展開もユーザーの力を借りるというビジネス・モデルで,このサービスに乗り出す事業者が現れた。NTT東日本である。同社の無線LANサービス「Mフレッツ」のメニューには,一般ユーザー向けとアクセス・ポイント運用者向け(Mフレッツホスト)がある。Mフレッツホストの想定ユーザーは,レストラン,ホテルや飲食店など,無線LANサービスを集客ツールに役立てたいと考える企業。利用料は月額700円である。

 ユーザー自身にサービス・エリアの展開を手伝ってもらうというこのビジネス・モデル,その原型はNTT自身の過去のサービスの中にある。特殊簡易公衆電話,いわゆるピンク電話と呼ばれる公衆電話機がそれである。

 ピンク電話は,一般加入電話を公衆電話としても使えるようにした電話機のこと。人の出入りの多い場所のオーナーが,利用者の利便性を高めるために自らの意志で公衆電話を設置するための機器だった。一般加入電話としての契約であるため,通話料はすべて設置者が負担する。その代わり,ピンク電話の使用料(ピンク電話に投入されたお金)は設置者のものとなる。

 さて,このピンク電話が登場したのは1959年のこと。電話がまだ普及していない時代ならではの施策といえる。確かに,当時の公衆電話と今の公衆“無線LANアクセス・ポイント”の普及状況は似ているのかもしれない。

 だが,誰もがすぐに使える電話と違い,Mフレッツホストを使えるのは,Mフレッツの契約者だけである。果たして,一般ユーザーの機器を公衆サービスの展開に活用するというピンク電話モデルは,43年後に再び花開くのだろうか。

(林 哲史=日経バイト編集長)

■この記事は,日経マーケット・アクセス2002年7月号の「ビジネス・モデル」欄より転載したものです。