「十分な教育の機会や制度がないこと」が,ITエンジニアが抱く「仕事,会社に対する不満」のトップ項目に――。

 日経ITプロフェッショナルは7月4日から,「ITエンジニアのスキルアップ/キャリアアップに関する意識調査」を実施中だ。調査は7月17日に締め切る予定だが,早くも3000人以上の方から回答を得られた。

 最終的な結果は「日経ITプロフェッショナル」9月号(9月1日発売)に掲載するが,ここでは中間報告として,その一部をご紹介する。

厳しい時代にどう立ち向かうか

 まずは本調査の目的を説明しよう。

 現在,日本は出口の見えない不況の真っ直中だが,相対的に見てIT業界は,これまでは堅調な成長を続けてきたと言える。だが,今後は予断を許さない。筆者が聞いた範囲内でも「昨年までとは比較にならない厳しい状況」と語る業界関係者が多数である。「昨年までは,悪い会社もあれば良い会社もある“まだら模様”だったが,今や業界全体が“土砂降り”だ」と直截に表現する人もいる。

 ITエンジニア個人にとっても,かつてない厳しい時代が到来することは容易に想像できる。「会社に頼らない」スキルアップやキャリア・メイキングの方法を持ち,文字通りのITプロフェッショナルにならなければ,淘汰の時代を生き残ることは難しいだろう。

 こうした状況下で,ITエンジニアが自身のスキルアップ/キャリアアップに関して,どのように考えているかを知ることが,本調査の目的である。

「中国やインド企業の台頭」を意識

 調査では全体的な状況として,「IT企業の今後」について聞いている。「現在よりも先行きは暗い」(41.1%,7月8日時点=以下同),「現在とほぼ同程度で推移する」(39.5%)の順になった。

 次に,その「理由」について聞いたところ,最も多いのは「中国やインドなど,アジア系新興IT企業が台頭するから」で21.1%。次いで「日本のIT企業は,“人貸し業”の意識から抜けられないから」という項目だった(18.8%)。
 
 実際,「意見欄」にも「経営陣は我々に,資格取得など,顧客に説明しやすい“形式的”なスキルアップは強要するが,競争力向上につながる構造改革,経営判断などしたことがない。このままでは近い将来,中国やインド企業に仕事を奪われるのは明らかだ」といったものや,「ソリューションとは名ばかりで,単に顧客先に送り込む人数の確保ばかりに血道を上げる,会社の現状に絶望した」といった意見が多く寄せられている。

 こうした状況下で,ITエンジニアは「現在の仕事に満足しているか」――。この問いに対する結果は,「まあ,満足している」(34.2%),「やや,不満である」(29.5%)の順になり,消極的ながらも満足と感じる人が不満足を上回っている。

 この設問で「やや,不満」「非常に,不満」と回答した人には「理由」も聞いた。こちらは「十分な教育の機会や制度がなく,スキルを高められない」(11%),「給与・賞与が十分でない」(9.8%),「自分の能力を発揮できるプロジェクトがない(参加できない)」(9.3%)という順。「長時間労働や休日出勤が常態化している」を選択した回答者は5.3%。理由としては,上から8番目にとどまった()。

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「会社にはもう期待できない」

 この結果を裏付けるように「意見欄」には,「当社には,人材教育に金をかけようという意識がそもそもない」,「我々,若手社員を教育しスキルアップさせる制度も,人材(先輩)も社内になく,自ら学ぼうにも時間も金もない」といった,教育・研修制度に対する不満や不信を表明する意見が,多数見られた。

 中には「知人の会社は,外資系に変わった途端に教育・研修制度が充実したと聞く。うちも早く外資系にならないかなどと,同僚と言い合っている」というシニカルな意見もあった。

 この他の「意見」を見ても,総じて「厳しい時代を生き抜くにはスキルアップが必須だが,会社にはもう期待できない(期待しない)」――という決意を持つITエンジニアが多いようだ。

 実際,今後ITエンジニアにとって重要なファクターになると思われる「市場価値(マーケット・バリュー)を高める方法」について聞いた設問では,「他人に負けない,自分がナンバーワンと言えるような得意分野を持つ」が23.6%でトップ。「とにかく,現在の仕事に全力を傾ける」という,従来型の方法は12.1%にとどまった。

 転職経験についても,全体の41.5%は「転職経験がある」。現時点で「転職経験がない」人も,29.6%は「過去に,転職を考えたことがある」,15.9%は「現在,転職を検討中」で,「転職を考えたことがない」という,ある意味で幸福な人は17%だった。

 このようにITエンジニアは,いっそう厳しくなる時代を感じ取り,戸惑いを感じながらも,その準備を着々と進めようとしているようだ。

 Webによるアンケートは現在も実施中なので,本欄をご覧の皆様にも,ご協力をいただければ幸いである(調査の概要閲覧とご回答はこちらのページからお願いします)。

(安倍 俊廣=日経ITプロフェッショナル)