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記者の眼

「速く,安く」が奪う技術者の“考える力”

志度昌宏 2002/07/09 ITpro

 情報システムに潜む危機が爆発寸前にまで高まっている。オープンシステムやインターネットが一般化したことで,情報システムがカバーする範囲が個々人でカバーできる範囲を超えてしまったことに加え,システム構築・運用に携わる技術者の“質”が低下しているからだ。

 ここで言う技術者の質とは,個別技術に対するスキルのことではない。技術スキルは過去に加え,むしろ高まっているとの評価が一般的だ。問題なのは,技術スキルの外側にあるべきシステム全体を“考える力”の低下にある。

 つまり「How to」はたまったが「Why」を問えなくなってきた。このままでは“なんとなく動いている”情報システムがまん延し,「経営を支えるツール」だとか「社会インフラ」などとは軽々しく口にできなくなる。

 こんな風に答える技術者が周りに増えたり,あるいは読者自身がそうした発想に陥ったりしていないだろうか?

例1:「Aというキーを押したらAという文字が画面に出ました。なぜですか?」と聞かれて「ソフトの機能です」と答えた。

例2:二つのネットワークをつなごうとしたがうまくいかない。理由を聞かれて「B社製品の場合は,こうすればつながる“はず”なんですが」と答えた。

例3:プロジェクトの一部にめんどくさそうな要求が含まれていた。「C社に頼めば大丈夫でしょう」と提案した。

 いずれも,既存の製品やサービスといったブラック・ボックスを受け入れるだけで,それぞれの基本的な動作プロセスを理解しようとしていなかったり,代替策を視野に入れていなかったりの表れ。「動くはず」「こうなっているはず」といったユーザー発想で情報システムと対峙(たいじ)していては,正常時には大丈夫でも,障害発生などの例外には対応できなくなる。

コスト,コストでユーザーの発注力が下がる

 “考える力”が低下した大きな要因の一つが,情報システムを「速く,安く」構築することが極端に美化されていることだ。「速く」作るためにミドルウエアや業務・業種パッケージなど既製品を多用することになるし,「安く」するためにシステムはぶつ切りになる。結果的に,多くの技術者はシステム全体を見据えるような場面に立ち会う機会が減り,ますます“考える”ことを忘れてしまう。

 加えて,情報システム構築の主導権が,情報システム部門から現業部門やマーケティング部門に移ったことや,アウトソーシングによる情報システム部門の削減・切り離しが「速く,安く」を加速する。システム工学的な複雑さや規模を無視した発注が増えているからだ。

 従来の情報システム部門が必ずしも十分に機能してきたとは言わないが,日本では少なくとも現業部門とITサービス事業者の間に立ち,情報システムが抱えるリスクを軽減させてきた。その機能が急に消失しているとなれば,ITサービス産業に属する技術者には,これまで以上に情報システムを安全に機能させるための“考える力”が求められる。

 このことが逆に,技術者の“考える力”を育てる機会を奪っている。困難な案件ほど優秀な技術者が駆り出され,次代を担うべき若手の周辺から,お手本となる人材が消えているからだ。

 かつて大規模システム構築に参画したある技術者は「尊敬できる技術者が目の前にいれば,その人を真似ることで技術の外側にある“考える力”を習得できた」と回想する。大規模システムをゼロから開発するような案件はないとされる今は,技術者にとってみれば不幸な時代でもある。

システム構築シミュレータで「なぜ」を考えられる人材を育てよ

 技術者の質の低下を危惧(きぐ)し,新人教育の内容にも変化が表れた。例えばITコンサルティング会社のフューチャーシステムコンサルティングは今春から, 5人一組にした新人に10万円の予算でパソコンを部品から組み立てるカリキュラムを採用。日本IBMは今年からソート(並び替え)や待ち行列といった基本技術や理論を「基本的・普遍的スキル」として教え始めた。

 だが新人技術者が育つのをただ待つわけにもいかない。その間,オープンシステムやインターネットを拒絶できないし「速く,安く」を望む声にも応えなければならないからだ。だから少なくともITサービス産業に身を置く“専門家”であるべき技術者の“考える力”の底上げを急ぐ必要がある。

 対策の第1は個別技術にとらわれない技術者像を定義することだ。これまで育成を急いできたのはデータベースやネットワークなど個別技術に強い専門家。しかも,製品ベンダーのマーケティング戦略に引きずられ特定製品にのめり込みがちだった。今,必要なのは自分が知っている技術,あるいは好きな技術の範囲にとどまることなくシステム全体の最適化を図る人材だ。「ITアーキテクト」と名付けて育成を急ぐ企業も増えている。

 第2は,仮想体験ができる環境を作ること。ジェット機のパイロットや電車の運転手など,多くの人命を預かる人材の育成ではシミュレータが活用されている。情報システムの技術者にも,巨大プロジェクトの流れや基幹ネットワークの保守現場などを身体で体験できる場所が必要なはずだ。これまでは顧客の実環境が,そうした体験場所だったわけだが,そんな余裕のある顧客はもういないし,そこでの失敗が過去にない大問題につながることは,先のみずほ銀行の例でも明らかだ。

 技術者にとって技術を追うことは楽しみの一つだし,技術を忘れた技術者も悲しい存在だ。だが,情報システム構築を担う技術者が技術だけを見ていては経営や社会は支えられない。常に利用者の側を向き「なぜ,この情報システムが必要なのか」「なぜ,この製品・技術を使うのか」などを“考え”続けなければならない。

 そんな技術者には,誰もが最大の賛辞を贈るはずだ。「ありがとう」と。ITサービス業界全体が「ありがとう」で包まれるほど魅力ある存在になれば,業界はもとより日本全体が再生に向けて動きだす。

 より具体的な事例や対策を日経システムプロバイダ7月5日号で「情報システムが危ない」と題した記事にしたので,こちらもお読み下さい。

(志度 昌宏=日経システムプロバイダ副編集長)

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