マイクロソフトが1世代前のサーバーOSであるWindows NT Server 4.0のライセンス供給(販売),サポート体制を段階的に縮小している。2001年12月に同社のWebサイト上で販売とサポート期間のガイドラインを示した後,2002年4月からは登録ユーザーに対してWindows 2000 Serverへの移行,アップグレードを促すダイレクト・メールを郵送する念の入れようだ。

 Windows NT Server 4.0は,ちょっと知識がある各部署の“にわか管理者”が手軽に導入できるサーバーOSとして,部門のファイル/プリント・サーバーや小さなシステム用に数多く導入された。現在でも現役として稼働しているシステムは多いだろう。

 2002年4月に日経Windowsプロが実施したWebアンケート調査では「現在利用中のサーバーOSは?(複数回答可)」の問いに,発売から2年以上が経過して普及期に入っている最新のWindows 2000 Serverと答えたユーザーが58%にとどまったのに対して,発売後5年経つNT Server 4.0は依然75%ものユーザーが利用していると回答した(関連記事)。

 1年前の調査がそれぞれ44%,85%だったので,やや乱暴だが10%前後のユーザーしか2000 Serverへ新規に移行していない計算になる。NT Server 4.0ユーザーが思いのほか2000 ServerへアップグレードしないのはActive Directory[用語解説]の壁が高いことだと,多くのシステム・インテグレータは指摘する。“草の根OS”として好き勝手にNTドメインを構築できたNT Serverに比べて,2000 Serverの大きな特徴であるActive Directoryはマイクロソフトの強力な布教活動の成果で「1企業1ドメイン」が深く浸透し,導入の意思決定が部門管理者の手を離れてしまったのだ。

そのまま使い続ける手もあるが・・・

 マイクロソフトのサポートがなくなってもNT Server 4.0が稼働しなくなるわけではないので,そのまま使い続けるのも一つの選択肢である。困るのは別料金を払って高度なサポートを受けているユーザー向けの新規ホットフィックスの開発要求ができなくなること(2003年12月終了)や,新規のバグ・フィックスがされなくなることだが,正常稼働しているマシンを維持する分には問題ないように思える。

 NT Server 4.0は登場して5年がたちService Pack 6aが配布され“枯れた技術”の製品になり,今後致命的なバグが発覚する可能性は少ない。さらにマイクロソフトはWebでのサポート技術情報は少なくても2004年末までは提供する上,セキュリティにかかわるパッチの開発は継続するとしている。

 しかし,マイクロソフトがOSのサポートを止めれば,ほとんどのハード/ソフトウエア・ベンダーもそれに追随する。一番の問題はドライバ・ソフトが提供されなくなることだ。コンパック・コンピュータは,アーキテクチャが大きく変わらない限りドライバの提供は続けるといっているが,今後登場する新しい規格のインターフェースなどのNT用ドライバが提供されない可能性は高い。

 したがって新規ハードウエアの追加や新システムの構築は難しくなる。たとえ現状に不満がなくても,マシンが故障したとき新しいハードウエアに載せ替えられない情報システムは,いずれ使い物にならなくなるのは火を見るより明らかだ。直接の恩恵はなくても,メーカーのサポートはやはり不可欠なものだ。

新OSの開発時には,移行のしやすさを意識してほしい

 マイクロソフトとしては,新技術を実装した新OS(ここではActive Directoryを実装したWindows 2000 Server)を出荷し,古いOS(NT Server 4.0)のサポートを減らしてきたいと考えたいところだろう。マイクロソフトはActive Directoryを活用することでユーザー/システムの管理,アプリケーションの連携が便利になると説いている。確かにその通りだが,その恩恵を享受できるのはユーザー企業の情報システム部門であり,NT Serverの多くを導入した部門の“にわか管理者”ではない。

 マイクロソフトは現在,Windowsをメインフレーム・システムやUNIXに対抗して基幹システムや,ミッション・クリティカルな業務に向くOSにバーション・アップさせている真っ最中だ。その視野からは,NT Serverが成功した手軽に導入できる部門のファイル/プリント・サーバー向けOSという市場が完全に抜け落ちている。Windows 2000 Serverを,部門サーバーとしてActive Directoryのないワークグループ構成で導入するという方法もある。ただし,その場合アカウントの管理が煩雑になり,Windows 2000 Serverの全機能を使えなくなるなど移行の魅力も減ってしまう。

 「初心忘れるべからず」。WindowsがサーバーOSとして成功した初期の市場を思い出してもらいたい。そして,NTユーザーがスムーズに移行できる道筋を用意してほしい。

(茂木 龍太=日経Windowsプロ編集)