1カ月にわたるサッカーのワールドカップ(W杯)が幕を閉じた。私は4月5日に「W杯期間中はニッポンを“ホットスポット・パラダイス”に!」という記事を書いた。この約2カ月の間に,まさに雨後の竹の子のように数多くの無線LANアクセス・サービスが始まった。これまで無料の実験ベースだったものが相次いで,商用サービスとして有料化したのがこの間の傾向である。

商用ベースの無線LANアクセス・サービスの例
サービス開始時期 会社名 サービス名 初期費用 月額費用
4月1日 モバイルインターネットサービス Genuine 2000円 2400円(年間契約時2万4000円)
4月 BeB協議会 @Moblie 無料 無料
5月15日 NTTコミュニケーションズ ホットスポット 1500円 1600円
6月6日 NTT東日本 Mフレッツ 2000円 200円(フレッツ・ADSLなどのフレッツ・ユーザー限定)
7月1日 NTTドコモ Mzone 1000円(Webから申し込みの場合は無料) 2000円
7月1日 NTT西日本 フレッツ・スポット 2000円(高セキュリティ・プラン3000円) 800円(フレッツ・ADSLなどのフレッツ・ユーザー限定)

 BeB協議会の「@mobile」は商用とはいえ無料で利用できる。これはフランチャイズ方式でアクセス・ポイント設置場所から費用を徴収しているためである。

 こうした商用サービスのほかに,引き続き無料の実験サービスも行われている。6月28日には,ソフトバンク・グループ(ビー・ビー・テクノロジーヤフーソフトバンク・コマース)と,東日本旅客鉄道(JR東日本)および日本テレコムの2グループがそれぞれ実験期間の延期を発表した(下の表を参照)。Yahoo! BBモバイルは6月末まで,「無線による,駅でのインターネット接続実験」は7月末までだったが,引き続き無料の実験サービスとして継続する。どちらも現段階では終了時期を明らかにしていない。

 一方,7月1日に発表になったエヌ・ティ・ティ エムイー(NTT-ME)など18社によるネオモバイルサービスのトライアルサービスは携帯情報端末を使って音声通話もやってしまおうという野心的なものである。ネオモバイルサービスは11月から有料サービスを始める予定だ。料金は月額1500円程度の見込み。

実験ベースの無線LANアクセス・サービスの例
実験期間 会社名 実験名
2月7日~未定 JR東日本,日本テレコム 無線による,駅でのインターネット接続実験
5月10日~12月31日 みあこネット みあこネット実証実験
5月20日~未定 ソフトバンク・グループ Yahoo! BBモバイル無料試験サービス
7月15日~9月25日 KDDI 公衆無線LAN実験
8月上旬~11月 エヌ・ティ・ティ エムイーなど18社 ネオモバイルサービスのトライアルサービス

 このように有料,無料の形で,ここ数カ月のうちに公衆の場で無線LANを使える環境が一挙に整ってきたのである。

 ちなみに,4月5日の記事では「ホットスポット」と書いていたのに,この記事では「無線LANアクセス・サービス」という用語を使っている。これを疑問に思われる方もいるだろう。最近,各種マスメディアでも「ホットスポット」という単語を見かける機会が減ってきたと感じている読者もいらっしゃるに違いない。

 これには訳がある。「ホットスポット」がNTTコミュニケーションズの登録商標になっていたことが,同社のサービス発表時点で判明したためである。マスコミでは原則,固有名詞を普通名詞としては使わないのだ。ただし,US NEWS FLASHでは英文記事でhotspotと使っている場合,そのままホットスポットと訳している。

成田空港,成田エクスプレスでも使える

 さて,海外からのサッカー選手,サポーターを出迎え,見送った成田空港,そして成田エクスプレスでも,無線LANアクセス・サービスの無料実験が行われている。この実験は「無線LANによるインターネット接続実験@成田エクスプレス&成田空港」という看板で,IPv6普及・高度化推進協議会トレインモバイルSGが,新東京国際空港公団,JR東日本,WIDEプロジェクトの協力を得て実現した。5月27日から7月31日まで実施する。いかめしい看板の実験だが,無線LAN機能の付いたノート・パソコンや携帯情報端末があれば,誰でも無料で利用できる。

成田エクスプレスからFOMAでインターネットへ

 まず,成田エクスプレスからの無線LAN利用について説明しよう。成田エクスプレスのグリーン車両に無線LANのアクセス・ポイントを設置した。グリーン車に乗車した利用者は自分のノート・パソコンや携帯情報端末から,このアクセス・ポイントに接続する。アクセス・ポイントにはNTTドコモの次世代携帯電話FOMA用のアンテナが接続されていて,FOMAを介してインターネットに接続している。つまりノート・パソコン-無線LAN-車内アクセス・ポイント-FOMA-インターネットという接続形態になる。

 また車内にはサーバーが設置されていて,そこに蓄積された新聞ニュース速報,天気予報,駅・空港案内,観光情報などを見ることができる。こちらの方は,FOMAを利用しないので,無線LANの速度でアクセスできる。

つなぎっぱなしという訳には
いかなかった

 IPv6普及・高度化推進協議会主催の体験会に参加し,成田エクスプレスに乗車して,このサービスを試してみた。東京駅から成田空港駅に向かう約1時間。インターネット接続はFOMAを使うので,東京の地下駅から,錦糸町駅の手前で地上に出るまでは利用できない。沿線に建物が建ち並ぶ,千葉駅過ぎまではたいてい,接続できた。しかし,沿線に緑が多くなってくると,つながらなくなることも何度かあった。

 RBBTODAYの速度測定サイトで通信速度を測定してみた。Pentium III 600MHzのノート・パソコンで下り156.86kbps,上り52.29kbpsが出た。しかし,成田駅の手前当たりでは下り77.8kbps,上り45.24kbpsまで低下した。インターネットは終えて,降車する準備をしなさいということか。

 こうしてみると,車中で,つなぎっぱなしにして動画やインターネット・ラジオを聞くのにはつらいが,メール・チェックなどには充分,利用できそうである。帰国時に山とたまったメールを取り込んで,帰路,メールを読むというのにはいいかもしれない。成田エクスプレスでの実験については,IPv6普及・高度化推進協議会によるWebサイトも参照されたい。

  成田エクスプレスのグリーン車の中 車両の端の荷物棚にネット接続機器は格納される



成田エクスプレスに搭載されるネット接続機器 体験会では,特別に荷物棚から出してもらった



ネット接続機器の上部 手前にある2本の黒い棒が無線LAN用のアンテナ,後ろにある白い棒がFOAM用のアンテナである

審査場の先で使える成田空港

 成田空港駅もしくは第2ターミナルの空港第2ビル駅に到着すると,いよいよ成田空港である。ちなみに両駅では,JR東日本と日本テレコムによる「無線による,駅でのインターネット接続実験」サービスを利用することができる。

 成田空港では,第1ターミナル,第2ターミナルそれぞれに4カ所,8カ所の無線LANアクセス・ポイントが用意されている。具体的には,出国する際には,出国審査を通った先の搭乗ゲート前のラウンジ,帰国した際には,税関審査の先の出迎えを受ける到着ロビーだ。詳しくは新東京国際空港公団のWebページに地図が掲載されているのでご覧いただきたい。

 利用者の立場からは,出発階のチェックイン・カウンターや飲食店街にも,アクセス・ポイントを用意していただきたいものだ。集合時間を待っているときだって結構,無線LANを利用したいものである。

  第2ターミナル到着ロビーにある無線LANアクセス・ポイント 赤丸の中の白い縦棒がアンテナである


搭乗前に無線LANを用いる某誌編集長

吹き抜けではない所だと速度低下

 第2ターミナルの到着ロビー(1階)で接続実験をしてみた。到着ロビーはAゾーン,Bゾーンの二つに分かれているが,それぞれに一つずつアクセス・ポイントが用意されている。どちらも税関からの出口の部分は吹き抜けになっていて,天井は高いのだが,地下駅に降りる中央とは反対側の宅配便受付窓口などがある両端は吹き抜けになっていない。こうしたところにも電波が届きやすいように,アクセス・ポイントは到着ロビーの端の方に設置されている。

 それでも,吹き抜けではないところにくるとアンテナを見通すことはできず,電波強度は下がる。国内線カウンターが併設されてるAゾーン側で試してみると,吹き抜け部分では100%だが,宅配便カウンターの前で40~60%,喫煙コーナーで20~40%,国内線カウンターあたりに来ると接続できなくなるか良くても20%程度だった。

 通信速度は,Aゾーンでは下りが780kbps前後,上りは390kbps前後だった。これに対してBゾーンでは2M~3Mbpsの下り速度が出た。これは調査時点の一時的なものなのか,常時そうなのか確認できていない。

さりげなくIPv6も使える

 成田エクスプレスでも,成田空港でも無線LAN接続の際に,さりげなく先端技術を利用できる。これらのアクセス・ポイントはIPv4だけでなく,IPv6でも提供されているのである。IPv6対応端末を持っていれば,無料でIPv6を利用できてしまうのである。IPv6先端国,日本の表玄関ならではのことだろう。

 もっとも,ほとんどの利用者には現段階ではIPv6は関係ない。IPv6を見せびらかすことができるのは,7月3日から5日にかけて幕張メッセ(千葉県)で開催されるネットワーク関連の展示会「NetWrorld+Interop 2002 Tokyo」や,7月14日から19日まで開かれるネットワーク関連の国際会議「IETF横浜会議」の時だろう。海外から集うネットワーク技術者たちに対して,日本に着くやいなやIPv6をデモできるのだ。

 これらの実験は7月31日で終わってしまうが,新東京国際空港公団はその後もe-エアポートとして無線LAN環境の提供を続けていく考えだ。海外出張などで成田空港を利用する際には,一度利用されてはいかがだろうか。

(和田 英一=IT Pro編集)