過去5年にわたって,幾度となくERPパッケージ(統合業務パッケージ)の導入事例を取材してきた。今やERPパッケージは,企業が会計や人事,販売管理などの基幹系システムを再構築する際に,当たり前の“道具”となっている。

 「ERPパッケージの導入は本当に大変だ」。どのユーザーも意見はほぼ同じである。“パッケージ”だからといって,そのままインストールしておしまいなら話が早いが,そんなにスムーズに行くケースはまずありえない。

 新しい業務プロセスとERPパッケージが備えるプロセスとの擦り合わせ,ERPパッケージの設定や追加プログラムの開発,データ移行,既存システムとの連携,テスト,新システムや新たな業務プロセスを根付かせるためのユーザー教育・・・。ユーザーがやるべき仕事は山ほどある。「もう二度とこんなプロジェクトはやりたくない」。ERPパッケージを導入したある製造業のシステム担当者は,こう打ち明ける。

 ERPパッケージの導入には多くの手間がかかる。確かにその通りだろう。しかし,その一方で,以下の疑問が頭から離れなかった。ERPパッケージを導入し,無事にシステムが稼働すれば,それでプロジェクトは終わりなのだろうか?

 この疑問を晴らすべく,ERPパッケージの先進ユーザー20社以上を取材し,各社におけるERPパッケージの“導入後”を追った。詳しい内容は,日経コンピュータ7月1日号特集1をお読みいただきたい。その結果,「ERPプロジェクトは,むしろ“導入後”こそが本番である」という確信を得た。ERPを導入したあとも,プロジェクトは終わらないのである。

業務改革と新システム構築を進めてこそERPが生きる

 なぜERPパッケージの導入後が重要なのか。その理由は大きく二つある。一つは,ERPパッケージの本来の目的である「業務改革」が,パッケージを導入するだけでは十分にできないこと。もう一つは,ERPパッケージの実力を発揮するには,ERPパッケージのデータを活用する新たな仕組みを作る必要があることだ。

 「業務改革ができていない」という課題は,先進ユーザーの多くが指摘する。各社は当初,「業務改革をしながら,ERPパッケージを導入する」ことを目標に掲げていた。ところが実際は,業務改革まで手が回らない場合が多いようだ。

 化学製品向け原材料を扱う海運大手,東京マリン(東京都中央区)は,ERPパッケージを導入したものの,「システム上の課題を解決するので手一杯で,業務改革まで手が回らなかった」(桑野訓社長)。そこで同社はシステムが全面稼働してから1年も経たない今年7月から,全社的な業務改革プロジェクトをスタートさせた。独SAPのERPパッケージ「R/3」の国内最大級のユーザーである九州松下電器の濱田憲一常務も,「ERPパッケージを導入した後も,より強い企業を目指して,永遠に業務改革を進めていくことが大事だ」と強く語る。

 二つ目の「ERPパッケージのデータを活用する新たな仕組み」とは,データ分析システムやSCM(サプライチェーン管理)システムなどを指す。「ERPパッケージを導入するだけで,企業競争力がアップするわけではない。ERPシステムに何らかの戦略的なシステムを追加してこそ,本業強化につながる」という考えからだ。パイオニアや九州松下電器,東芝,日本航空電子工業などが取り組んでいる。

システム部門の力量が問われる

 ERPパッケージの実力を引き出すための導入後プロジェクトをやり抜けるかどうかは,システム部門の力量にかかっている。「会社全体にとって最適なシステム」を実現し維持するには,会社全体を俯瞰できる立場にあるシステム部門が先頭に立たたなければならないからだ。ERPパッケージのバージョン・アップといった,システム運用管理の作業も並行して進める必要がある。

 すでに丸美屋食品工業や沖電気工業(沼津工場)といった先進ユーザーは,システム部門に業務指導の権限を持たせている。システム部門が中心になり,利用部門と対話しながら業務プロセスの見直しとそれに伴うシステム改善を進めている。

 当然,システム部門の要員はさまざまなスキルを身につけないといけない。ITスキルはもちろん,業務知識,利用部門や経営層に対するプレゼンテーション能力などが必要だ。米アクセンチュア戦略的変革研究所所長のトーマス・ダベンポート氏は,「導入後のシステム部門には『ERPシステムをビジネスに生かす』という観点で,システムを企画する力が求められる」と指摘する。

 特に大切なのは業務知識だ。ITスキルに偏ったシステム部門では,要件通りに情報システムを作ることはできても,作ったシステムを本業に生かすための作業は困難である。業務知識が乏しければ,利用部門や経営層とも対等に議論できない。システム部門の要員教育もERPプロジェクトと同様,“終わらない”のであろう。

 このテーマについては,今後も追い続けていこうと思っている。「我々もこんな苦労をし,こんな成果を出している」といった経験をお持ちの方は,こちらのメール・アドレスまでご連絡いただけないだろうか。お話を聞かせていただければ幸いです。

(戸川 尚樹=日経コンピュータ編集)