見知らぬ相手から携帯電話にメールが届く。開いてみると“出会い系”サイトの紹介や怪しげな投資への勧誘だったりする。携帯電話でメールを使っていれば,誰もがこんな“迷惑メール”を受け取ったことがあるはずだ。携帯電話各社では,迷惑メールに様々な対策を講じてはいるものの,まだ完全とはいかないようだ。

根本的な解決策はない?

 迷惑メールに関しては,送信者と携帯電話会社が“いたちごっこ”を繰り広げてきた。さまざまな対策が施されるにつれて,少しずつ携帯電話のメールは使いにくくなってきた,と私は感じている。

 まず迷惑メール対策として,電話会社が利用者に勧めたのはメール・アドレスの変更だった。電話番号から機械的に割り振られたメール・アドレスは,迷惑メールの送信対象となりやすいからである。しかし,メール・アドレスに使える文字・記号は限られている。変更したメール・アドレスが単純なものだと,容易にアドレスを推測してメールを送ることができる。このため,アドレスの変更は迷惑メール防止に一時的な効果を上げたが,迷惑メール防止の根本的な解決策とはならなかった。

 個人的には,電話番号とアドレスが別になったことで,手間が一つ増えた。友人と電話番号を交換するときに,メール・アドレスも別に伝えなければならなくなったからだ。

 最近,携帯電話会社では,「なるべくケタ数を多く,数字と英字を組み合わせた想像しにくいアドレスに」といった助言をしているところがある。ただ,これでも完全に迷惑メールが来ないという保証はない。私などは自分のアドレスを人に伝える手間を考えて,極端に長いアドレスやランダムに文字が並んでいるようなアドレスには絶対したくないと思っている。だいいち,“想像しにくいメール・アドレス”では,覚えていることさえできないではないか。

 アドレス変更を促す一方で,携帯電話会社はメール・サーバー側で迷惑メールの配信を阻止する措置も講じてきた。短時間のうちに同じアドレスから大量に送信されたメールや,使われていないアドレスを送信先の中に大量に含んでいるメールの配信を拒否するというものである。こちらも一時的な効果はあった。しかし,巧妙にこのブロックをすり抜けるケースが増えてきて,完全な対策にはつながらなかった。

 かえって,商用のメール配信サービスなどが,大量メール送信というフィルタに引っかかって送信されないという事態が現出した。実際,日経BP社が2002年5月10日まで実施していた携帯電話・PDA向けメール配信サービス「Mobile BizTechメール」では,一時これが原因で特定電話会社のアドレス宛のメールが送信されないというトラブルに見舞われた。

効果はあるが結構面倒なアドレス指定受信

 現在携帯電話各社が最も力を入れている迷惑メール対策が,利用者が指定したアドレスやドメインからのメールだけを受信する,もしくは指定したアドレスやドメインからの着信を拒否する方法である。

 これにも問題点はある。利用者自らが,いちいちアドレスを設定しなくてはならなず,これが結構面倒だ。特に,極端に長いメール・アドレスを設定している相手を登録するときは大変。しかも登録できるアドレス数は最大10~20件に制限されている。ただ,現実にはこの受信制限が最も効果がありそうだ。

 NTTドコモでは,2002年1月から従来のアドレス単位に加えて,ドメイン単位での受信アドレス一括指定も可能になった。これによって,設定の手間がある程度軽減され,登録数の上限も事実上拡大された。

 迷惑メールに悩んでいた私も,いち早くこの機能を使って,いくつかのドメインを登録した。その中には「@ezweb.ne.jp」(エーユー)や「@jp-t.ne.jp」(J-フォン)といった携帯電話のアドレスもあった。これが実は問題であった。その後,これらの携帯電話のアドレスを装って送信してくる迷惑メールが続々と届くようになったのだ。ドメイン指定機能を逆手にとって,堂々とNTTドコモのサーバーを通り抜けてきたわけである。

 当然NTTドコモも,そのまま手をこまねいていたわけではない,2002年4月にはこの「ドメイン指定」機能を強化。サーバー側で,本当に携帯電話・PHSのドメインから届いたのかどうかをチェックしてくれるようになったのだ。

 ところが,私の場合,しばらくたっても迷惑メールは一向になくならない。不思議に思って,説明をよく読んでみると,ドメイン指定受信の機能を選択すると,携帯電話・PHSのドメインは特に指定する必要はないとのこと。逆に携帯電話のドメインを指定してあると,携帯電話になりすましたメールも受信してしまう,という。あわてて,指定アドレスから携帯電話のドメインを削除すると,果たして迷惑メールがぴたりと届かなくなった。この方法は,かなり効果があったようだ。

ユーザーの手間を軽減する仕組みは必要

 迷惑メール対策は,その手法が確立されつつあると思う。ただ,本当にこれでいいのかな,と懸念される部分もある。受信するメールを制限することで,携帯メールのコミュニケーション・ツールとしての可能性が狭まるような気がするのだ。

 上で触れた弊社のMobile BizTechメールはこの5月でサービスを休止した。休止の直接の要因は登録者数が伸び悩んだことであるが,その原因として最も大きかったのが迷惑メールの存在なのである。同サービスの登録ユーザー数は,当初順調に伸びていったが,迷惑メールが流行した時期から解約が相次ぎ,結局,事業として続けるために必要な数のユーザーを集める前に頭打ちの状態に陥ったのだ。

 もちろん受信制限機能を使っていても,ユーザーがメール配信に使われるアドレスを登録しておけば,サービスは受けられる。ただ,そういった面倒な作業をユーザーに強いるしか打つ手はないのだろうか。提供側で,ユーザーが簡単な操作で安心してサービスを受けられるような仕組みを用意できないものだろうか。

 例えば,商用サービスでは,携帯電話向けWebサイトのどこかをクリックすると,受信許容アドレスとして自動登録される,といった仕組みが欲しい。メーリングリストの要領で,登録したいアドレスあてに特定のフォームでメールを送信すれば,自動的にその送信先アドレスが登録される,といった方法でもよいだろう。

 受信メール制限が最も現実的な迷惑メール対策である以上,携帯電話会社には,ユーザーの利便性をできるだけ損なわずに,電子メールを使った様々なサービスの可能性を広げつつ,サービスの強化や拡充を進めていただきたい。

(藤中 憲人=BizTech副編集長)

■本記事は,BizTechに6月25日に掲載したものです。BizTechではこの記事をはじめ,多彩な記事をコラム「視点」で掲載しています。ぜひ,ご覧下さい。
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■迷惑メール対策関連情報
・NTTドコモ http://www.nttdocomo.co.jp/docomolife/f/meiwaku.html
・J-フォン http://www.j-phone.com/h/information/020524.html
・KDDI http://www.au.kddi.com/ezweb/mail/mail_2.html