Xboxの高機能を謳い上げるMicrosoft,先行有利を説くソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE),独自路線を貫く任天堂・・・。先ごろ米国で開催されたゲーム関連展示会「E3」では家庭用ゲーム機大手3社が三つ巴の戦いを演じた。

 主戦場となったのは,ここでもやはり“ブロードバンド”だ。ところが,記者が会場で感じたのは意外にも巨人Microsoftの“焦り”。Xboxの命運を握るオンライン事業を,「世界同時展開」という壮大な構想を掲げて見切り発車せざるを得ないMicrosoftらしくないMicrosoftの姿だ。

 戦いはE3開幕前から始まっていた。E3に集まった報道関係者を自社の発表会に引き込んで,自社の強みと事業展開の方針をアピールする。Microsoftは「秋から始めるXbox向けオンライン・サービスでブロードバンド・ゲーム市場を制する」とRobbie Bach上級副社長がガッツポーズでアピール。

 その翌日には米SCEの平井一夫社長が「家庭用ゲーム機のシェア争いは終わった」と,突然のPS2(PlayStation 2)勝利宣言をぶちあげる。任天堂は,加熱するオンライン事業に対して「オンラインがビジネスになるには早すぎる」とクールにコメント。主要3社は“我こそがゲーム業界の主流”と報道陣に訴えかけた。

SCEと真っ向勝負を続けるMicrosoft

 3社の中で,特にMicrosoftにとっては特別な展示会,Xbox発売後初のE3,つまり檜舞台だった。これにMicrosoftは,「Xboxはブロードバンド専用機。ブロードバンドの拡大で新しいゲーム市場を制する」という方針をより明確に打ち出す戦略で臨む。

 思い起こすと,日本市場では,SCEのPS2は発売からすでに2年3カ月が経っているのに対し,MicrosoftのXboxは発売後3カ月半。家庭用テレビ・ゲーム市場では,Microsoftが後発は否めない。そこでMicrosoftは,他社がオプションで提供する予定のブロードバンド接続機能をXboxには標準装備として勝負にでた。

 発売当初の2002年春,MicrosoftのXbox担当者は「現段階では,まだスタンドアロンゲームしかないが,5月末のE3までにはXboxの実力を引き出すオンライン・ゲームの事業構想を披露する」と繰り返し説明してきた。実際に今回のE3では,今秋のXbox用オンライン・ゲーム世界同時開始を正式発表したほか,開発中の画面まで見せた。つい1カ月前には「Xbox用のゲームとしてスタンドアロンも大切にしている」という言葉も聞かれたのだが,今回のE3では強調されることはなかった。

 このように,2002年後半から各社が参入を予定しているオンライン・ゲーム・サービスの本格スタートを,どこよりも待ち望んでいるのはMicrosoftだ。

 MicrosoftはE3でXboxの強みである標準のブロードバンド接続機能を大きくアピールした。しかし,他社よりも早く具体的なサービスを提供できているか,といえば答えは“NO”である。

 家庭向けテレビ・ゲーム機へのブロードバンド接続サービスという点では,やはりSCEの先行を許した。SCEが,日本でPS2向けオンライン・ゲーム・サービス「PlayStation BB」を5月に開始したからだ。

 最初のタイトルは熱狂的なファンを多く抱えるスクウェアの「Final Fantasy XI」(FF XI)。家庭向けテレビ・ゲーム機初のブロードバンド対応サービスということもあって,世間の期待は高かったが,いざ始まってみると接続障害などのトラブルに見まわれた。予想を越える数のユーザーがオンライン・サービス開始とともに一斉に接続したのが原因だ。現在では正常に稼働しているという。

 SCEのオンライン・サービスは,当初の接続障害のほか,利用には別部品の購入やネット接続サービスへの加入など手間がかかることから,ユーザーからは一時期反発の声も多く聞かれた。

 開始当初はトラブルに泣いたとはいえ,オンライン・ゲーム・サービスでSCEが先行したのは事実である。この状況を巻き返すべく,Microsoftは秋からのオンライン・ゲームの世界同時展開で本格的な“攻め”の体制に入る。しかし,どうSCEに追いつき凌駕するのか,現段階では具体的な作戦が見えない。

オンライン事業の収益モデルを描けていないMicrosoft

 記者が“Microsoftの作戦が見えない”と評したのは,具体的にはオンライン・ゲームを提供するゲーム・メーカーへのマージン(手数料)設定について。

 任天堂は,オンライン・ゲーム会社に対して売り上げにマージンを要求しない方針を示している。また米SCEも,オンライン・ゲームを無料でユーザーに提供する場合はマージンを取らない旨の寛大な対応を表明している。ゲーム・メーカーに自社プラットフォーム上でのオンライン・ゲームの開発/サービス提供を促すためにも,マージン設定が重要なポイントになるからだ。

 ところがMicrosoftは,オンライン・ゲーム会社へのマージン設定とオンライン・ゲームの価格設定の双方を各国ごとに協議し,今後発表していくとしているに留まる。競合3社の中で,Microsoftがオンライン・ゲームに対する最も大きな構想を打ち出しているにもかかわらず,共同プレーヤーであるゲーム・メーカーに条件を明確に提示できていないのだ。

 オンライン・ゲームのビジネスモデルはXbox事業の成否を左右するほど重要であるにもかかわらず,将来の収益モデルを描ききれないままで,「世界同時展開」を発表せざるを得ない実態。記者が「オンライン・ゲームの世界同時展開」という発表を“巨人Microsoftの焦り”と感じるのはこの部分だ。

 と,ここまで書いたところで,奇遇にもMicrosoftからXboxカンファレンスの開催を知らせる案内が届いた。6月11日にオンライン・ゲームの日本での展開について紹介するというから,ビジネスモデルを具体的に発表することは間違いない。

(小川 計介=BizTech編集)

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