少し前の話になるが,ドメイン名の取り扱いに関する重要な判決が出された。インターネットの世界で何かと話題になっていた,「goo.co.jp」ドメインに関する判決である。

 4月26日,東京地方裁判所民事第47部(森義之裁判長)は,「goo」という名前のついたドメイン名の使用権はNTT-X(本社:東京都千代田区)にあるとの判決を下した。これはNTT-Xが運営する検索ポータルサイト「goo.ne.jp」と酷似したドメイン「goo.co.jp」を使用している岡山県倉敷市の「ポップコーン」が「goo.co.jpの使用権は我々にある」ということの確認を求めた訴えに対して出された判決だ。

 東京地裁は「ポップコーンは,goo.co.jpのドメイン名を不正に使用している。goo.ne.jpにアクセスしようとしたユーザーが誤ってgoo.co.jpにアクセスすることを狙い,このドメイン名を使っていることは明白。従ってポップコーンはgoo.co.jpの使用権を有しない」と判断した。

 事の経過と判決文を読む限り,東京地裁はインターネットのドメイン名のありかたを正しく判断したものとして高く評価できる判決,と記者は見た。また,「ドメイン名は誰のものなのか」について判断基準を示したという点でも重要と言えよう。

 確かにgoo.co.jpのドメイン名はポップコーンがNTT-Xに先駆けて取得していた。当初ポップコーンはこのドメイン名を使ったサイトを女子高校生のコミュニティ・サイトにする目的で立ち上げた。しかしこれは失敗する。アクセスしてきたのは,女子高校生目当ての成人男性がほとんどだったのだ。

 ポップコーンはこれに目を付け,ドメインを変えずに,「www.goo.co.jp」というWebサイトにアクセスすると,自動的に別のアダルト・サイトにジャンプするような設定とした。

 記者も一度だけ引っかかったことがある。検索サイト「goo」にアクセスしようとして,誤って「goo.co.jp」というURLを打ち込んでしまった。すると,とんでもないアダルト・サイトが表示された。しかも次から次へと猥褻な画像が掲載されたウインドウが開き,にっちもさっちも行かなくなってしまったのだ。ウインドウを閉じても閉じても,新たなウインドウが開く。記者が自宅で使っている5年前のパソコンは搭載メモリーも少ないためか,とうとう途中でハングしてしまった。
(現在は,自動的に別サイトにジャンプする設定とはなっていない)

 このようにポップコーンが当初とは別の目的で「goo.co.jp」を使いだしたころ,すでにNTT-Xは多額の宣伝費を使い検索サイト「goo.ne.jp」を多くのインターネット・ユーザーに認知させるのに成功していたのである。

●NTT-X,goo.co.jp所有権移転を申請

 記者と同じような経験をしたユーザーがたくさんいたのだろう。「goo.co.jp」がアダルト・サイトへの転送目的だけに使われるようになってから,NTT-Xにはユーザーからの苦情が殺到した。困ったのはNTT-Xだ。そこでNTT-Xは日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が策定した「JPドメイン名紛争処理指針」に基づき,2000年11月,工業所有権仲裁センター(現・日本知的財仲裁センター)に「goo.co.jp」ドメイン名の所有権をNTT-Xに移すことを申し立てた。

 仲裁センターは2001年2月,NTT-Xの主張を認め,「goo.co.jp」の所有権をNTT-Xに移すよう命じる裁定を出した。仲裁センターの裁定理由は次の通りだ。

(1)NTT-Xは「goo」という商標を持ち,企業努力によって「goo.ne.jp」をポータル・サイトとしてインターネット・ユーザーの間で著名なものとした。そして「goo」および「goo.ne.jp」の名称は高い顧客吸引力を獲得しており,NTT-Xはこの商標を継続して使用する正当な権利を有している。
(2)インターネット・ユーザーが「goo.ne.jp」と「goo.co.jp」を誤認してアクセスする機会が多くあり得る。
(3)間違って「goo.co.jp」にアクセスしたユーザーはアダルト画像に接することを避けられず,NTT-Xの「goo」がアダルト・コンテンツを発信していると誤認してしまうことがあり,NTT-Xの社会的信用が毀損されるおそれがある。
(4)「goo.co.jp」は独自のコンテンツを持たず,ユーザーをアダルト・サイトに誘導することのみを目的としている。

 まったくもって記者から見れば仲裁センターの裁定は的確なものであると思われた。ところがポップコーンはこれを不服とし2001年2月,東京地裁に「goo.co.jp」のドメイン名使用権は自分たちにあることの法的確認を求める,との裁判を提起したのだ。

 判決結果は最初に述べた通り。NTT-Xの主張を全面的に認め,「goo.co.jp」の使用権はNTT-Xにあるとした。判決理由も仲裁センターの裁定理由とほぼ同じである。この判決,NTT-X側の代理人である横山経通弁護士も指摘していることだが,インターネットにおけるドメイン名の使用方法に関して明確なルールを示した点で重要だ。

 たとえ先に取得していたとしても,結果的にドメイン名を不正な目的――今回の場合は「goo.ne.jp」と誤認させ集客する――で使用した場合,そのドメイン名の使用権はなくなる,という判断を下したのである。

 また,この判決では,「goo」という名称をNTT-Xが商標登録している点も,NTT-X勝訴の決め手となった。

●ドメイン名の重要性を再認識

 今回の裁判で重要なポイントとなったのは「ドメイン名は,いったい誰のものか」,そして「どのような目的で使うべきなのか」の2点だ。判決では「goo」という商標登録された名称について,たとえ先に「goo」の名称でドメイン名を取得していたとしても,ある特定の目的以外ではドメイン名として使うべきでない,とした。

 この判断に,記者としてはまったく賛成である。今やドメイン名は企業や団体,サービス,あるいは個人を特定する重要な“記号”になっている,と記者は考えている。

 ところがユーザーに対するJPドメイン名の付与を担当している日本レジストリサービス(JPRS,本社:東京都千代田区)では,「ドメイン名はあくまでも記号ととらえている。登録に際して商標等のチェックはしていない」(企画部)というのが現状だ。

 「そのかわり,日本知的財産仲裁センターによる仲裁制度を設け,ここでドメイン名の不正使用などの紛争を処理する仕組みを作っている」(同)。たしかに,JPRSがドメイン名付与に際して,すべての商標などのチェックをするのは不可能で,仲裁制度に頼るほかはないのかもしれない。

 ただ,ドメイン名そのものがこれだけ重要な存在になっている今,取得に際してもう少し厳密な規定があっても良いと記者は考える。例えば,申請されたドメイン名について,類似するドメインを自動的に探し出し,新ドメイン名が申請されたことをメールで連絡するといった予防策はだめだろうか? ドメイン名の付与に際して,何らかの方策を立てる時期に来ていることは間違いない。

 なお,ポップコーンは今回の東京地裁判決を不服として,東京高等裁判所に控訴した。最高裁判所までも争いそうな雰囲気だ。記者としては東京高裁や最高裁が東京地裁同様の判決を出すことを期待している。

(田中 一実=BizTech副編集長)

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