出先で使える無線インターネット接続サービスがようやく始った。東京,大阪,福岡,札幌などの都市部を中心に,それぞれ数100カ所というスロー・スタートだが,私のようにメガビット・クラスのモバイル接続サービスをかねてから心待ちにしてきたユーザーにとっては,とにかく朗報だ。
 
 早速,実サービスを始めたプロバイダ数社に加入し,ことあるごとに使い始めたが,やはりその高速アクセスはとても魅力だ。アクセス・ポイントによっては100kbps程度しか出ないところもあるにはあるが,大半は500kbps以上出る。東京都千代田区のモスバーガー麹町店では1.7Mbps,ホテルオークラのロビーでは1.8Mbpsも出た。

 自宅のサーバーに置いたでかい資料を出先で引き出したいなどというときに使えるが,何しろ,利用できる場所が限られているから緊急避難的にしか使えないのが悲しいところだ。
 
 数カ月前までは出先でそういうことをしようとすると,ISDN電話機を探すか携帯電話の通信カードなどを使って,せいぜい64kbpsで使うというのが一般的だったから,考えようによっては,暗やみに一条の光を見つけたような気分だ。

分かりにくいサービス案内

 サービスを提供する側のビジネス・ノウハウが足らないためか,アクセス・ポイント周辺にサービス案内が明示されていなかったり,サービス提供場所の従業員がそういったサービスを提供していること自体を知らなかったりと,商用サービスとしての満足度はかなり低い。

 NTTコミュニケーションズが展開する無線LANサービス「ホットスポット」は有楽町のビックピーカン5階でアクセスできるとサービス一覧にはある。しかし,そこにいる「NTTコミュニケーションズ」のユニフォームを着た販売員に聞いても,「そういうサービスはやっていません」という思いがけない答えが返ってくる。

 始まったばかりだし,そんな物好きなユーザーはまだ珍しい存在だからか,サービス自体,全く認知されていない状況だ。ここに常駐している「NTTコミュニケーションズ」のユニフォームを着た社員は同社のインターネット接続サービス「OCN」入会ための説明員であるとあとから聞いて分かったが,しかし,こんなことでいいのかとあきれ返ってしまう。

 無線LANカードの設定などに不慣れなユーザーなら,こんな場所ではまず接続できないのではないかと思われる。正しくパスワードを入れてもつながらないような場合,そもそもそのあたりで求めるサービスが稼働しているかどうか確認するすべが無いのだから。どのあたりにアンテナが設置されているかどうかなどの情報もトラブル時には必要となる。

  ショールームに設営したアクセス・ポイントの周辺などでは着席してパソコンを操作できるスペースが用意されていない場合が多く,パソコンを広げるわけにいかないところもある。例えば東京市ケ谷のシャープショウルームでは一般のパソコン・ユーザーが立ちよってメールをチェックするような雰囲気ではない。これでは,有料接続サービスの呈をなしていないと言われても仕方がないのではないだろうか。

 不便なのは,サービス会社ごとにアクセス方法が異なり,場所ごとに設定を切り替えなければならないことや,外からアクセスされてしまうネットワーク機能はこまめにオフにしておかなければならない点だ。例えばフォルダ共有機能などをオンにしておくと周りのユーザーから丸見えになってしまうことがある。
 
 現在有料サービスを行っている無線インターネットの中ではモバイルインターネットサービスの「genuine(ジェニュイン)」だけはそんな心配がないセキュリティ機能を備えているが,他は自衛する心構えがなければならない。

 genuineではさらに,アクセスごとに異なるWEPキーで接続する独自の認証システムを使うから,電波の盗聴に対してもセキュリティは比較的高い。しかし,無線LANのドライバ・ソフトは独自のものが必要だから,他のサービスと切り替えて使うには1ステップ余分にかかる。

アクセス・エリアをとにかく広げてほしい

 いろいろ戸惑い要素があるものの,世界が少しづつ広がっていくのは見ていてわくわくする。あとは提供地域を増やし,日本全国どこへ行ってもアクセスできる環境にどんどん近づけていってほしい。

 米国ではアクセス・ポイントを構成するためのソフトを無料で配布し,世界中にアクセス・ポイントを広げていくというビジネスが本格的にスタートしている。その一つのJoltage Networksの無線インターネット・サービスは無線LANのアクセス・ポイントを所有しているブロードバンド・ユーザーならば自ら有料あるいは無料のアクセス・ポイントを公開することができる。有料にするのなら課金業務はJoltageが引き受けてくれ,ネットの使用率により分配金がいただけるという素晴らしい仕組みだ。
 
 最近MITのメディアラボのディレクタであるNicholas Negroponte氏がボード・メンバーに参加,世界にこのネットワークを広げていくために積極的に活動していくと発表した(2002年5月1日)。

 日本でもこのようなビジネス・モデルを採用する企業が出てきてくれないだろうか?

(林 伸夫=編集委員室 主席編集委員)