家庭に光ファイバを引き込んで,最大100Mビット/秒ものインターネット接続を可能にするFTTH(fiber to the home)の加入者数が急増している。2002年3月末の加入者数は2万6400で,前月比8212人の増加(45.2%増)。1~2月末の1カ月間の加入者は5851人だったので,新規加入者数は明らかに勢いを増している・・・

 と書いておきながら,文章のあまりの誇張ぶりに少し恥ずかしくなってきた。現在のブロードバンド回線の主役であるDSL(digital subscriber line)の4月末の加入者数は,なんと前月比32万490人増の269万9285。3月末の伸びも,1カ月間で純増が30万を超えていた。FTTHよりケタが二つ上だ。

 FTTHの伸びが鈍いのはなぜか。答えははじめから分かっている。(1)料金が高い,(2)提供エリアが狭い,(3)開通が遅い,(4)FTTHの高速性を生かせるコンテンツが少ない――の4点だ。

 日経コミュニケーションでは5月6日号の特集で,FTTHの最新サービス動向とともに,これらの問題を再検証してみた。興味のある方は,ぜひ御一読頂きたい。ここでは特集のエッセンスを,筆者が日ごろFTTHについて考えていることも交えてお伝えしたい。

NTTのサービスは月6000~7000円が下限

 FTTHの最大の魅力が,その速さにあるのは言うまでもない。カタログ・スペックでは最大100Mビット/秒と,同8Mビット/秒(最近は10メガ級のものも登場しつつあるが)のADSLより10倍以上も高速だ。

 一方の料金は,例えばNTTの「Bフレッツ ベーシックタイプ」で月額1万100円。プロバイダ料を含めれば1万3000~1万4000円程度。やはり高いなあ,と思われる向きには,関西電力子会社のケイ・オプティコムの月6000円(プロバイダ料含む)や,九州通信ネットワーク(QTNet)の月5500円のサービスもある。このように地域によっては,ADSLより月2000円~3000円を多く支払うだけで,100メガ級のFTTHサービスを購入できる。

 もちろん,多くの方々が気にするのは,最も身近なNTTの動向だろう。東西NTTは電力会社系通信事業者のサービス開始を受け,大幅な値下げを検討している。NTT東日本は6月から,100メガで月6900円(回線終端装置,屋内配線料含む)の新メニューを追加。NTT西日本も月5500円前後(同)のサービスを準備中。どちらもプロバイダ料を別に支払う必要があるが,料金面の敷居はぐっと下がる。

 しかし,これには代償を伴う。料金を下げられるのは,光ファイバを加入者線部分で4人分に分岐させて共用するからだ。めったにないことかもしれないが,これらの人たちが「同時に」大量のダウンロードを始めれば,単純に速度は25メガに落ちる。

 さらに,NTT局内に入る時点で8回線を集線しているので,もともとすべての人に同時に100メガを提供できるわけではない。8回線の共用から4×8=32回線の共用へと集線率がさらに高くなり,その分,スループットが落ちる。現行のサービスの集線率はもっと低く,16回線程度と見られる。

 NTTは当面,これ以上の分岐で料金を下げることはしない方針。「通信速度をADSL並みに落としてまで,FTTHサービスを安くするつもりはない」(NTT東日本幹部)方針をとるからだ。つまり,プロバイダ料を合わせると,月額6000円~7000円程度がNTTのFTTHサービスの料金の下限となる。

「ADSLの寿命はあと数年」とは思えない

 結局のところ,FTTHの料金は月額3000円程度が目白押しのADSLと比べて,約2倍程度に落ちつくだろう。利用目的が明確で,通信コスト削減を狙う「企業」なら,月額数千円程度のFTTHは魅力的に映るはずだ。しかし,FTTH本来の需要層である家庭(FTTHのHは家庭の意味)の場合,使うかどうか微妙な線。高いか安いかは,それぞれの判断によるしかない。

 なお,「NTTの光化が進めばADSLは不要になる」あるいは「ADSLはあくまで暫定的なもの。寿命はあと数年」という意見もあるが,筆者はそう考えていない。ADSLの加入状況がこのまま続けば(今もなお加速している!),今年度中に600万,2年後には1000万加入に手が届くかもしれない。一部はFTTHに移行するとしても,「料金が2倍」のサービスに全員が移るはずがない。

 ADSLにしても,米チップ・メーカーのグローブスパンビラータの新技術「C.X」などの登場で,高速化が続いている。今は距離に制限があるにしても,すぐに解決されるだろう。一度出来あがった数百万もの市場には,必ずその層に向けて膨大なカネや新技術が流れ込む。

 そもそも,まだADSLの提供地域ですらなく,ISDN程度で「がまん」されている方々も多いはず。一刻も早くブロードバンド環境を享受できるとすれば,やはりFTTHではなくADSLの方が早道となる。NTTも,光化の進展に合わせてADSLの命綱である銅線を撤去しようとする気は今のところ全くない。

FTTHを導入したくなる条件は?

 個人のことで恐縮だが,筆者はCATVインターネットのユーザーだ。パソコンを買い替えたら,スループットは4M~6Mビット/秒は出るようになった。しかも最近,料金は多チャンネルのCATV放送と合わせて7000円台にまで下がった。むずかる子供には,CATVの「カートゥーン・ネットワーク」を見せるに限る。もちろんインターネットは使いたい放題。エリア外の方々には誠に申し訳ないが,これ以上望む気はまったくない。

 友人に聞いてみた。「インターネット接続だけで5000円以上払うかだって? バッカじゃないの。会社にいればインターネットなんてタダで使いたい放題。家ではたまに趣味のサイトを見るくらいだよ。オトナのサイトも見飽きたし」。変わった友人をお持ちで・・・との突っ込みは甘受する。でも言う通りかも,と思う私。

 長くなって申し訳ない。結局,インターネット接続だけで5000円以上というのは,家庭で払う絶対額として高すぎるのだ。筆者だって,CATVと一体でなければ,とても現在の利用料を払う気はしない。

 インターネット以外で情報収集やコミュニケーション用としてカネを払ってもいいもの,あるいは既に払っているものと言えば,筆頭は固定電話で,次に(有料)テレビ放送。新聞や雑誌もそうだ。ぜんぶひっくるめると,現在でも3万円近く払っている。これが全部光ファイバで供給されることでグンと安くなるなら,直ちにFTTHの導入を考えたい。

 固定電話は分かるが,新聞や雑誌は「ポータビリティ」や「ページめくる悦び」がある,FTTHなどとは全く別・・・という意見に対しては,むしろ誰よりも強く賛同する者である。でも実際,家計が厳しくそれぞれの価格が高ければ,購入自体を止めてしまうかもしれないのだ。

なぜ「サービス多重」をしないのか

 もともと,FTTHの威力はここにあったのではないだろうか。電話もデータも何もかも,全部多重して家庭に届ける。あらゆる情報を送り込む「ビッグ・パイプ」。いつのまに「高速インターネット接続回線」なんて狭い分野に閉じ込められてしまったのだろう。

 だが本格的に電話を多重しようとすると,問題は複雑になる。電話は広くあまねく国民に提供する義務がある。だから事業者にとって不採算エリアでしかなくても,必ず提供しなければならないからだ。NTTが電話の光多重を口に出せない理由の一つはこれである。移動電話を除けば,NTTにとって最後の「虎の子」である光ファイバ(FTTH)にまで,強い規制がかかりかねない。

 しかし,FTTHの将来は,このような電話をはじめとる「光サービス多重」にあると断言したい。「インターネット接続料はいくらまで下がるか」などの話には興味はなくとも,「家庭で支払っている“情報・コミュニケーション料”の総額がいくらまで下がるか」に関心を持つ層の方がはるかに多いだろう。

 最後にもう一度繰り返すけど,日経コミュニケーション5月6日号の「FTTH特集」,ぜひ読んでみてください。私の駄文よりずっと面白いから。

(宮嵜 清志=日経コミュニケーション副編集長)