XML(Extensible Markup Language,[用語解説])などの標準技術を活用し,外部のアプリケーションから低コストで利用可能にしたWeb上のアプリケーションである「Webサービス」。この技術を活用したシステムの構築に取り組む企業が増えてきた。「日経インターネットテクノロジー 2002年5月号」(4月22日発行)に掲載した特集のために,各社を取材して分かったことである。

 筆者はちょうど1年前にも,本誌特集のためにさまざまな企業を取材した。その当時はWebサービス技術の採用について消極的な姿勢を見せていた企業も,最近では「構築中」,「検討中」など姿勢が変わってきた。Webサービス・システムの構築に携わったSI業者からは,「Webサービス技術はすでにシステム間連携を実現するうえで採り得る現実的な選択肢の一つになった」という声が聞かれるようにさえなった。この1年で,Webサービス技術は急速に“市民権”を得たようだ。

 長引く不況の影響で,企業間連携を低コストで実現したい,必要な期間だけ接続したい,複雑な分析や手間のかかる入力処理などはコンピュータ・システムに肩代わりさせて自動化したいなどの企業ニーズが,従来よりも強まっている。かといって,新たに大規模なシステム投資をする余力もない。既存のアプリケーションなどをできるだけ生かしつつ,問題を解決したり,現状を打開したりすることが求められている。こうした企業にとって,Webサービス技術は有力な選択肢になり始めているのだ。

 「動的なアプリケーション連携など未来の話」,「Webサービス技術の相互接続性はまだ十分でない」――と考えている読者も多いと思う(筆者もそう思っていた部分はあった)。だが現実には,その時代を見据えて,すでに全力で走り始めた企業も登場している。まずは,その中から3社の事例を紹介しよう。

社内アプリから接続しやすく

 例えばリスクモンスター。同社は,Webサイト上で運営している信用情報提供サービス「e-与信ナビ」を5月にもWebサービス化する。「社内の債権管理システムからリアルタイムに信用情報を取得し,自動的に債権状況を分析できるようにしたい」というユーザー企業の声に応えて,Webサービス化に踏み切った。すでに4社との接続が決まっており,2003年3月までに10社との接続を目指している。Webサービス接続用に,年額固定料金のライセンスを新たに用意した。

 Webサービス技術を採用した理由は,「よく知らない企業との取引を支援するWebサービスと,企業の信用情報は親和性が高い」(取締役の藤本 太一氏)と考えたからだ。Webサービスを活用する企業に,信用情報を提供するリスクモンスターのWebサービスを利用してもらいたいという狙いがある。

 サービスの開始当初は,ユーザー企業が指定した企業の決済限度額や企業格付けなどの情報を提供する機能だけをWebサービス化する。しかし今後は,その企業の仕入先や販売先,関連企業などの信用情報を,連続して検索できるような機能も付加する計画だ。これによりユーザー企業は,コンピュータ・システムを活用して,人間には困難な掘り下げた検索や複雑な分析が可能になる。

物流に加え,“情報流”を新ビジネスに

 ある物流会社は,運送貨物の状況を確認するためのシステムをWebサービス化した。ユーザーとなるのは,インターネット上でECサイトなどを提供する企業だ。

 ECサイトがこのWebサービスを利用すれば,エンドユーザーの使い勝手がよくなる。具体的には,そのECサイトで購入した商品が現在どこにあるのかなどを,エンドユーザーが把握しやすくなる。従来は,貨物番号などを頼りに,エンドユーザーがECサイトや物流会社のサイトなどを検索する必要があった。ECサイトが貨物追跡Webサービスから情報を取得するようになれば,エンドユーザーはECサイトを検索するだけで物流会社の管理下にある情報まで参照できるようになる。

 この会社は従来,在庫管理と物流という“実業”のみをビジネスの柱にしていた。しかし今後は,「“実業”を支える,あるいは支援する“情報流”をビジネスの柱に育てたい」と考えている。つまり,インターネット上で提供する情報提供Webサービスを新たなビジネスと位置づけ,ユーザー企業に売り込んでいく計画である。

社内外の情報を統合

 社内外の情報を効率よく統合するのに,Webサービス技術を採用した企業もある。リコーテクノシステムズである。もともと社内ネットワーク内に点在していた情報を一元化するために,Webサービス技術を使う。

 ここでいう情報とは,Javaやネットワーク技術などを学習するための教育コースの情報。従来,同社では,教育コースの情報提供システムを部署ごとに構築していた。そのため,データベース・サーバーやアプリケーション・サーバーなどがバラバラで,一元的に検索できないという問題を抱えていた。

 そこで,社内に点在する教育コースの情報提供システムを,すべてWebサービス化し,同じXMLのデータ形式(XMLスキーマ)で情報提供できるようにした。構築したWebサービスの情報は,社内に設置したUDDI([用語解説] )レジストリで管理する。

 UDDIレジストリは,Webサービスのディレクトリであり,同じXMLスキーマに基づいて情報提供しているWebサービスを簡単に検索できる仕掛けになっている。同社は,UDDIレジストリの検索結果に基づいてWebサービスを順番に呼び出し,教育コースの情報を取得する検索システムを新たに構築した。

 さらに同社は,教育コースを提供しているパートナ企業にも協力を依頼。同じXMLスキーマに基づいて教育コースの情報を提供してもらうことにした。これら社外のWebサービスは,インターネット上に公開されたUDDIレジストリに登録してもらう。

 この方法のポイントは,将来,教育コースの情報提供Webサービスが増えても,リコーテクノシステムズの社内に構築した検索システムにはいっさいの変更が必要ない点だ。パートナ企業などが,それぞれ構築したWebサービスの情報をUDDIレジストリに登録するだけで,自動的にリコーテクノシステムズの検索システムで検索可能になる。

ビジネス上でどう生かすのかが課題に

 Webサービス技術を採用した理由や,具体的にどのように活用しているのかは,各社ごとに様々であるが,共通している点もある。それは,「技術面はもちろん,ビジネス面のノウハウを競合他社に先駆けて蓄積したい」(リスクモンスターの藤本氏)ということだ。

 Webサービス技術を利用すれば,システム間接続のコストは飛躍的に安価になる。しかし,接続コストが安価になればなるほど,他社サービスへの乗り換えも容易になってくるという現実がある。従来の企業間連携は,システムをつなぎ込むコストが馬鹿にならず,いったん接続したら他社のサービスに乗り換えることは難しかった。これに対してWebサービス技術を使えば,必要に応じて利用するサービスを切り替えることが容易になる。

 Webサービスを提供する企業側から見ると,自社サービスからの乗り換えを防ぎつつ,自社サービスを常に利用してもらえるように工夫していかなければならない。顧客を囲い込むことで安心できた従来とは,ビジネスのしかたが変わってくる可能性がある。そこで,他社よりも早く,ビジネス上のノウハウを蓄えることが重要になってくる。

 例えば,どんな機能を提供するのか,どんな機能単位にすると使いやすいのか――といった点も,ビジネス上のノウハウになってくる。コンピュータ・システムが利用するWebサービスでは,「人間が利用するWebサイトとは異なる“ユーザビリティ”も求められる」(日立ソフトウェアエンジニアリング インターネットビジネス推進部 部長の中村 輝雄氏)。こうしたノウハウをためていくことが,Webサービス時代の競争力を高めることにつながる。

 企業は,Webサービス技術を利用するかどうか,利用するとしたら,どの技術を,どのように利用するのか――などを,真剣に検討し始めるべき時期にきている。あせってWebサービス・システムを構築する必要はないが,のんびりと見ているだけというわけにはいかなくなってきた。不況の時代だからこそ,浮揚の材料になるかもしれない波を注視し,必要とあらば,確実にその波を捉えられるように備えてもらいたい。

(実森 仁志=日経インターネットテクノロジー)

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