今回の「記者の眼」には,宣伝文が含まれている。記者の眼への読者の方々の書き込みを読んでいると,「最後まで読んだらセミナーの宣伝だったのでがっかり」といった指摘が時折ある。そこでいっそのこと,あらかじめお断りしておくことにした。

 本題に入る。テレビ,新聞,雑誌などマスメディアは,みずほ銀行の「動かないコンピュータ」について一斉に報道している。筆者も17年前に記者になって以来,日経コンピュータの看板コラム「動かないコンピュータ」の取材を続けてきたが,情報システムのトラブルがこれだけ連続して報道されたのは初めてのことと思う。

 みずほ銀は昨日4月10日の夜に,バッチ処理のピークを迎えた。主としてクレジット・カードの引き落としである。4月1日の開業日より処理件数は多かったはずだ。ここを乗り切ったとしても,月末に最大のピークが来る。給料日後の公共料金引き落としである。4月の間,みずほ銀の情報システム部門と事務部門,協力しているソフト会社各社のメンバーの方々は文字通り,不眠不休で活動を続けざるを得ない。なんとしても頑張っていただきたい。

 今回は,みずほ銀のトラブルから何を学ぶべきか考えてみたい。トラブルの渦中に,教訓話を書くのはどうかと思ったがあえて書かせていただく。過去の例を振り返ると,トラブルの最中は報道が過熱するが,収束するとなんとなくうやむやになり,結局は忘れ去られてしまう。これでは同じことがまた繰り返される。

本来はトップがすぐに謝罪すべきだった

 みずほ銀行もUFJ銀行も,当初は情報システム部門を管掌している役員が記者会見をして事情を説明し,謝罪した。だがどちらの件も,頭取または社長が障害後ただちに記者会見すべき案件だった(みずほホールディングスの前田晃伸社長は9日の記者会見で謝罪した)。みずほ銀行はいったん決めた「2002年4月に勘定系を一本化する」という計画を全うできなかった。これは,経営トップに計画を推進するリーダーシップがなかったからである。

 UFJ銀行の場合,本来は3月末を予定していた新システムの稼働時期を3カ月前倒し,1月15日に早めた経緯がある。これは相当に無理なことであった。前倒しの要請をした責任者は頭取である。

 もっともシステム統合計画を決めた,旧第一勧業銀行,旧富士銀行,旧日本興業銀行の3頭取,前倒しを決めた旧三和銀行の頭取は現在,いずれも一線を退いている。引退した方を攻撃するのは気が引けるが,今回の混乱を招いた責任が自分たちにあることを自覚していただきたいと思う。

 誤解があると困るのでしつこく書くと,記者は「頭取は銀行の最終責任者である。だから責任がある」と言っているのではない。「頭取が情報システムに積極的にかかわっていなかった」点にこそ責任があると言いたい。

 みずほ銀もUFJ銀も,前頭取たちは情報システムに関心などなかった。いや,これは言い過ぎであった。昨今の経営者は「ITが今後の競争力の源泉」と言うことになっているからである。思い起こせば,みずほグループの3行が統合した理由は,「ITへもっと投資するため」であった。

 しかし本音は,「コンピュータのことなどよく分からない。現場の責任者に任せる。よきにはからってくれ」というところだろう。各行の前頭取たちは,「システムのことは任せていたのに,うちの情報システム部門はなにをやっているんだ」と思っているのではないか。

現場の声に耳を傾け,彼ら彼女らをねぎらうべきだ

 残念ながら,この問題は両行に限ったことではない。悲しいかな,たいていの頭取は情報システムなんぞに興味はないのである。これが悲劇の根本原因である。頭取はもっともっともっと情報システムにコミットしなければならない。

 もちろんコンピュータの仕組みを知る必要などない。電子メールは秘書に任せておけばよい。やらなければならないのは,経営トップとして,情報システムに何をさせたいのか,宣言することである。システムの仕様を巡って意見対立がおきたら,それをさばいて,決めることである。

 また,ある新商品を出すとしたら,どのくらいのシステム開発期間とコストがかかるのか。開発プロジェクトのどの辺に落とし穴があるのか。トラブルが起きたらいかなる事態が起き,どう対処するのか。こうした「動かないコンピュータ」対策を頭取は知っておかなければならない。

 もう一つ,大きなお世話を書く。みずほ銀とUFJI銀の新経営陣は,まだ行っていなければ自行のコンピュータ・センターを視察すべきである。間違ってもセンターの要員を叱ってはならない。叱る相手は前頭取たちである。

 センターに行ったら話を聞く。口座の引き落とし処理であるセンターカットはどういう仕組みで,そこに起きたトラブルを修復するということは,どのくらいたいへんなことなのか。徹夜の連続をどう切り抜けたのか。現場の担当者の声を聞いた上で,彼ら彼女らをねぎらうべきである。ついでに情報システム部門・事務部門が経営陣に対し,どんな意見を持っているか聞くことをお勧めしたい。