日経IT21では,7月号(5月29日発売予定)の特集企画の一環として,「実益に結びつく情報整理術」というテーマで取材をスタートさせた。“ずぼら”な人でも,簡単かつ長続きするオフィスの情報整理術を提案しようというのが目的だ。

 社員が作成するパソコン文書はもとより,日々交換する名刺の束,顧客から送られてくる問い合わせやクレームのファクス,ちょっとした打ち合わせの際のアイデア・メモ・・・。こうした情報は,とかく個人のパソコンや机,頭の中に埋もれてしまいがちである。

 これらを,うまく会社の共有財産として活用できれば,そこから顧客獲得や商品開発などの商売繁盛のヒントが得られるのでないか,というわけだ。

「このままじゃ,単なる“情報整理マニア”だ!」

 ここまで書くと,「これまで情報共有やらナレッジ・マネジメント[用語解説] だのと言っておきながら,何をいまさら」というお叱りをいただきそうだが,この企画の裏には,自戒を込めたテーマがある。それは「情報の収集・整理だけではダメ,自らの頭で“考える”プロセスが続かなければ意味がない」ということだ。

 筆者は,机周りの整頓や書類の整理,パソコン・ファイルの管理が得意な方だ。いただいた名刺はすべてパソコンに入力しているし,取材メモや資料も一定ルールで保管しているので,仕事のなかで欲しくなる情報はだいたいすぐに出てくる。米Visioneer(ビジョニア)社のスキャナ「PaperPort」で紙書類のイメージ・データを管理したり,IBMの「CrossPad」なるツールで,手書きメモすらも電子化したりしていた時期もあった。

 で,時に自分のやっていることがバカバカしく感じる瞬間がある。「欲しい情報がすぐに探し出せる」まではいいのだが,「情報を材料にあれこれ考える」という肝心なプロセスが極めてお粗末なのだ。

 外見の徹底した情報整理とは裏腹に,頭の中をうまく整理して新たな発想に結び付ける“考えるテクニック”が欠如し,いつまで経っても知恵が出てこない。情報を整理しようがしまいが,いつも出てくるのはマンネリのアイデアのような気がしてならない。これでは単なる情報整理マニアではないか。

とかく企業も“情報整理マニア”になってしまいがち

 こんな私を安心(?)させるのは,「なんだ,企業のIT化も似たようなものか」という事例を目の当たりにする時だ。取材先の方にはたいへん失礼だが,お話を聞いていると時々,情報整理マニアの私と同じ罠(わな)にはまっているのではないかな,と感じることがある。

 営業情報を共有しよう,社員の気付き情報を集めようなどと,様々なツールを導入した企業は数知れず。実際に取材してみると,「ボトムアップで様々な現場の生の情報が集まるようになった」とご満悦の声を聞くのだが,冷静に見つめると単に「情報を集めただけ」で終わっている事例が結構多いものだ。

 このような事例では,経営戦略に照らして仮説を立て,検証の方法を検討しながら実際の行動に移してみるといった「考える過程」がすっぽりと抜け落ちているような気がしてならない。

 自己弁護になることを承知で言うと,「考える過程がお粗末」と個人や企業が気が付いているうちは,まだましかもしれない。怖いのは,本当は何も頭を使っていないのに「自分は(自社は)考えている」と錯覚している現象だ。

 例えば,顧客の購買履歴情報を収集・整理した企業が,「定期的に買い物してくれる客は優良顧客」と短絡的に判断してしまうようなケース。もしかすると,「仲間をたくさん紹介してくれる顧客」や「ライバル店では決して買い物しない顧客」を,より重視して次の一手を打たなければならないかもしれない。

 稚拙な例かもしれないが,要は,情報整理の道具に踊らされるあまり,常識的で紋切り型の分析しかできない,ということだ。さらに,「実は何も考えていない」という状況に気が付かない場合もある。これは,かなり重症だろう。
 
 もちろん,情報整理が無意味だといってるのではない。整理することの目的,つまり,どういう情報を集めて,そこからどんなアクションを起こしたいのかという明確なイメージがなければ,せっかくの取り組みも効果は期待できない。また,本当に効果を生むのだ,と信頼されなければ,どんなに情報を整理しようと声をかけても現場はついてこないし長続きしない。

 実益に結びつく情報整理術とはどんなものか。この1カ月の取材で答えを探ってみたいと思う。

(川上 潤司=日経IT21編集)