先日,米国シアトル・タコマ空港でホットスポット[用語解説] を使った。乗り継ぎ時間が短く,乗り継ぎ便のゲート前に着いた時には,すでに搭乗が始まっていた。それでもノート・パソコンを広げ,無線LANを使ってネット接続し,メール・チェックをし,2,3本の返信を書くことができた。

 あらかじめホットスポット利用の申し込みをしていたわけではなく,その場でクレジット・カード決済で利用したのである。なんとも便利だった。アラスカの空港ではホットスポットは見つからず,改めてホットスポットの有効性を感じた。

 帰路。日付変更線を越える長時間フライトの中,行く手の日本のことを考えた。機内で配られた邦字新聞を見ても,パッとしないニュースばかり。株価は底を打ったようだが,まだ景気の先行きに明るさは見えない。IT業界もしかり。何か面白い話はないだろうか。

 新聞をめくると,サッカーのワールドカップ(W杯)本大会の記事が目に入ってきた。これじゃないのか? サッカー日本代表には,ぜひとも一次リーグを突破してニッポンを盛り上げてもらいたい。同時に,ニッポンITもW杯で盛り上がろう。

 W杯で盛り上がるのが,電機・情報系ではテレビと衛星チューナだけ,ではもったいない。そこで提案。W杯をホットスポット普及の起爆剤にしてはどうだろうか? W杯の前後にはマスコミ関係者を含め,多くの海外旅行客が訪れる。筆者のように,片時もインターネットと離れて暮らせない人も多いはず。こうした人々のために,W杯期間中,ニッポンを“ホットスポット・パラダイス”にするのである。

 なにをねぼけたことを,とあきれられるかもしれないが,ちょっとだけお付き合いいただきたい。今度の週末は,皆さんもニッポンITを盛り上げる“戦術”を考えてみませんか?

海外旅行者も手軽に使えるようにホットスポットを整備する

 ホットスポット・パラダイス提案は,具体的には以下のようなことである。

提案1.国内10カ所のW杯開催地でIEEE802.11b[用語解説]による無線LANアクセス・ポイント(ホットスポット)の整備を急速に進める。

提案2.無線LANが使えるエリアであることを示すプロバイダ業界統一ステッカを作り,ホットスポットに掲示する。

提案3.無線LANインターネット接続サービスに1日だけという料金コースを設け,ホットスポットのその場でオンライン決済,即利用ができるようにする。

提案4.W杯期間中,日本は“ホットスポット・パラダイス”になっていることを各国語版のWebページで告知する。

 なぜ,このような提案をするかというと,海外から来た人が日本でインターネットを使うにはIEEE802.11bによる無線LANが一番,便利になる可能性があるからだ。

 PDC[用語解説]の携帯電話やPHSは日本仕様なので,自国で使っていたものを持ち込むというわけにはいかない。海外で日本用携帯電話のレンタルをしているかもしれないが,多くの台数が用意されているか分からないし,電話機を接続するデータ通信カード,外国語版OS用のドライバ・ソフトが用意されているのか定かではない。

 特別な機器を用意しないで済むという点では,ワイヤレスではなくなるが電話線を使ってモデムでつなぐのが便利である。しかし,宿舎にある電話機にアナログ・ポートがついているか分からない。公衆電話を使う手もあるが,初めて見る電話機でパソコンから発信させるのはちょっとした試練である。これは,海外でインターネット接続を試された方なら分かっていただけると思う。

ワールドワイドに使える移動通信手段はIEEE802.11bが最有力

 そこでIEEE802.11bの無線LANである。国際標準規格なので,基本的には海外で利用しているものを日本でも使える。無線LANであれば,公衆電話機を探すような手間をかけずに,パソコンで最寄りのアクセス・ポイントをサーチできる。普段,無線LANを使っていれば,とくに準備することなく来日しても,なんとか利用できる。

 とはいえ,海外からの旅行者に手放しで無線LANを薦められる現状ではない。まず,アクセス・ポイントが少なすぎる。そこで提案1のアクセス・ポイントの急速な整備がまず必要となる。各競技場とその周辺,最寄り駅などの動線(人の動く道すじ)に配置する必要がある。また,成田などの国際空港,競技場に移動する際に利用する主要ターミナル駅などにも必要だろう。

 アクセス・ポイントを設けただけでなくも,そこにあることを知ってもらう必要がある。そこで,無線LANが使えるホットスポットであることを明示するステッカを掲示する(提案2)。無線LANインターネット接続事業者がまちまちのステッカを作っても,短期間しか滞在しない旅行者は混乱するだけなので,業界統一ステッカにする。

 もう一つのポイントは無線LAN事業者のサービス体系である。無線LANを利用したくとも,日本語Webページから月単位の契約を申し込まなければならないようでは,海外からの旅行者にはまず利用できない。米国ですでに始まってるように,1日限りのサービスを用意する(提案3)。英語など各国語のWebページでその場でクレジット・カードで決済すれば,そこのアクセス・ポイントが1日使えるようになる。

 日本代表か韓国代表が勝った翌日は,アクセス料が無料になると良い。日本や韓国のサポータに,海外からの旅行者も加わってくれるかもしれない(対戦相手国から来た人はだめだろうけれど)。

 最後に広報活動である(提案4)。いくら国内でインフラを用意しても,ノート・パソコンに加えて無線LANカードを持ってきてくれなくては,利用してもらえない。事前に“ホットスポット・パラダイス”を宣言して,各国語で利用案内を記したWebページを作成する。各国のサポータが見るようなサッカー関連サイトからリンクをはってもらう。

 また,海外メディアにも宣伝をして,ニッポンはiモードだけではなく,無線LANの国になっていることを印象づける。一番,恩恵を被るのは海外から日本に取材に訪れるマスメディアかもしれない。であれば,彼らにも良い印象を与えることになるだろう。

日本に住んでいる人も便利になる

 さて,海外からのサポータによる利用イメージは次のようになる。成田空港に到着して,ロビーに出たら,Webページに載っていたホットスポットのステッカを発見。さっそくノート・パソコンを開き,無線LANのアンテナをサーチしてみる。

 見つけたアクセス・ポイントに接続し,Webブラウザを開くと,英語で無線LANインターネット接続サービス事業者のWebページが表示される。「Buy A Connection」という選択肢が表示されるので,そこをクリックし,料金を確認した上で,クレジット・カード番号とカード名義人名,カードの有効期限を入力。オンライン決済完了の画面が現れ,アクセスできるようになった。

 さっそく電子メールをダウンロードしながら,Webブラウザで自国のスポーツ新聞サイトにアクセスして,チームの状況を確認。メッセンジャを立ち上げたら,1日遅れで訪日予定の仲間のサポータがいたのでしばらくチャット。日本は蒸し暑いとぐちってみる。やがて成田エクスプレスの発車時刻が近づいたので,駅に向かう・・・

 いかがだろうか。こうした無線LANインターネット接続サービスのインフラが整えば,便利になるのは海外からの旅行者だけではない。日本の居住者も便利になる。日本語版Webブラウザからのアクセスが来たら,日本語で「接続サービスを購入する」と表示するようにしておけば良いのだ。特に提案3の1日コースは,ホットスポット利用の敷居を下げるに違いない。毎月2000円を支払う気はしないけど,どうしても使いたいときに数百円で利用できるなら,使ってみようという人は多いはずだ。

 Jリーグを立ち上げるとともに,指導者層を育成して,少年時代からきちっと選手を育成し,W杯で決勝トーナメントを目指すという10年がかりの壮大な構想に比べれば,“ホットスポット・パラダイス”は付け焼き刃的な構想だが,IT業界はドッグ・イヤーで進んでいるのである。あと2カ月でも遅くはない。日本を“ホットスポット・パラダイス”にして各国からのサポータを迎えよう!

(和田 英一=IT Pro編集)