あなたは本を買うとき,どうやって探し,選び,注文し,支払い,受け取っているだろうか。私の場合,ほとんどが新聞の読書欄や広告で探して選ぶが,その後の行動はまちまちだ。仕事に必要な本は,5年くらい前からネット書店で購入している。早く職場で読みたいからだ。

 一時期,注文してから本が届くまで2~3週間かかってしまうこともあったが,今では2~3日程度でデスクに届くので気持ちいい。ただし,プライベートで読む本となると注文から受け取りまで様々なパターンをとる。

 週末に,自宅近くのショッピング・モールにある大型書店で買い求めることもあれば,市営図書館に車で出かけることも少なくない。最近では,思いついたときに自宅のパソコンからネット書店で注文することも増えた。

 先日,全国で約300店舗を展開する書店チェーン「宮脇書店」の宮脇富子社長にお会いした。同社は香川県高松市に本社を置き,FC(フランチャイズ・チェーン)本部の機能も併せ持ったユニークな企業である。もちろんネット販売も手がけている。宮脇社長は語る。

 「とにかく書店業界は激変しています。取り次ぎ(卸)が新規店を選定する目はますます厳しくならざるを得ない状況です。全国の書店売り上げを見ると,大都市では駅周辺の大型書店が伸びていますが,高松のような地方都市では郊外の大規模駐車場付き書店が急成長している。毎日現場から目が離せません」

どこまで通用するか「ツタヤ・モデル」

 宮脇書店が成功している最大の理由は「品揃えの多さ」である。FCチェーン機能を持つため,出版社との直接的な連携も密であり,ベストセラーを素早く潤沢に全国チェーンに配本できる。現在,店舗数を拡大しているが,「米国では大手書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルが1000店舗を持つと聞いています。人口比率を考えると日本では500店舗までは拡張可能でしょう」と宮脇社長は意気込む。

 書籍の「再販問題」が10年間は動かないと見られているので,当面は価格競争に巻き込まれることはない。品揃えと規模の拡充および整備された売り場作りに専念すれば成長路線は堅いとの読みである。「お客さんに喜んでもらえることを最優先に考えています」(宮脇社長)

 こうして築いた書籍チェーンがネット販売の強い武器にもなる。同社のネット販売は書店での代引きであり,送料はかからない。利用者はホームページから在庫の検索もできるし,最寄りの書店を検索して現金決済できる。
 
 このような話を聞くと,CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が全国1000店舗以上を展開するツタヤ・チェーンを思い出す。ツタヤはレンタルだけでなくセル(販売)にも力を入れており,扱う商品にはビデオやCDだけでなく書籍もある。

 ツタヤの書籍販売は好調だという。宮脇社長もツタヤとの競合を否定しない。今後,紀伊国屋や丸善などの都市型大手書店に対して多店舗展開の「ツタヤ・モデル」がどこまで対当できるのか。その鍵を握るのは,地方都市での購買人口と「ネット注文+店頭代引き」の増減だろう。

電子ペーパーやオンデマンド出版とは,時間の競争か

 いずれにせよ,再販制度が続く限り,大型書店とネット販売という「クリック・アンド・モルタル[用語解説] 」を実践できる企業だけが書籍市場で勝ち残れる。ただし,著作物を扱う市場のルールは常に流動的である。消費者ニーズを見方につけた企業の台頭によって,これまでの常識があっという間に崩れてしまう現象は,ここ数年数え切れない。書籍業界とて例外とは言い切れない。

 その起爆剤として注目すべきは,電子ペーパーだろう。限りなく「紙」に近い形状の電子ペーパーが,実用段階を迎えたからだ。米イー・インク社は早ければ来年にもモノクロ版を商品化する予定。同社に出資している凸版印刷は,来年春に登場予定の新型携帯情報端末向けに電子ペーパーの前面板の量産化を発表している。この分野で長年の研究実績がある米ゼロックス社も商品化のタイミングをはかっているようだ。
 
 ブロードバンドの急速な進展と相まって,電子ペーパーの使い勝手や価格が一般消費者に受け入れられれば,「書籍」の常識は変わるに違いない。これまで鳴かず飛ばずだった「オンデマンド出版」(顧客の注文に応じたコンテンツの配信)にも新たな可能性が生まれるだろう。

 かく言う私は「紙」へのこだわりが強い。先日の四国旅行では,図書館で借りた夏目漱石の文庫本を読破して旅情を満喫したのでありました。

(上里 譲=コンピュータ第一局・編集委員)