NTTドコモがホットスポット・サービスに参入する(発表資料へ)。「果たしてこれはフェアなのか?」という観点からちょっと考えてみたい。

 言うまでもないことだが,私はホットスポット(公衆無線LANサービス)が普及してほしいと思っているし,今も無線LANを使っているユーザーの一人としてぜひ使いたいサービスでもある。だからこそ,公正で健全な競争市場の下で,ユーザーが事業者を選択できるようになってほしいと考えている。

 数日前の当欄でホットスポット事業者間でのローミングに言及した記事があったが,そうなればもっと使い勝手が良くなるだろうとも思っている。その上で,あえて疑問を投げかけておきたい。

垂直統合型のビジネスが許されるのか,について議論が必要

 何が気になっているかというと,以下の2点である。

(1)限られた企業グループだけが持つ携帯電話用の電波利用権とそこから得られる収益を背景にした事業であること
(2)携帯電話とホットスポットを連携させることを売り物にする可能性があること

 まずはっきりさせておきたいのは,「携帯電話とホットスポットは無線であるという共通点はあるもののまったくの別物である」ということだ。私は,ホットスポットは移動体通信(モバイル)ではないと思う。固定アクセス回線の最後の数十メートルを無線で実現しているという性格だからだ。これは,本来ドコモが手がける範疇(はんちゅう)のサービスなのだろうか?

 さらにもう一つ押さえておくべきなのは,2.4GHzの無線LANは免許が不要で誰でも利用できる,ということである。

 NTT東西地域会社やNTTコミュニケーションズをはじめ,回線設備を持つ第一種電気通信事業者(キャリア)が,こぞってホットスポットに参入しようとしている。しかし,信頼性や品質がベストエフォートで良いならば,また,インターネットへの接続を実現するだけならば,ADSL程度の回線を引いた個人や店舗などであってもホットスポットを提供することは可能だ。だからこそ,ホットスポットは注目されている。

 ビジネスモデルを説明するのに「垂直統合」と「水平分業」という考え方がある。まずビジネスを下位レイヤーから順に,(1)インフラ,(2)サービス,(3)アプリケーション,(4)コンテンツ――の4階層に分けて考える。すべて,あるいは複数のレイヤーを1社で手がけるのが垂直統合,個々のレイヤーごとに複数の企業で分担するのが水平分業である。

 iモードやYahoo! BBなどは,できるだけ多くのレイヤーを統合して提供する垂直統合的なサービスの例である。水平分業の場合は,インフラは電話会社,インターネット接続(ISP)事業はプロバイダ,検索エンジンやIP電話などはその専業ベンダー,コンテンツはコンテンツプロバイダ――あくまで一例ではあるが,こんなイメージの市場構造になる。

 基本的に水平分業では,あるレイヤーに別のレイヤーでの収益を使って参入し,そのレイヤーの他の企業をつぶすようなやり方を不公正であると考える。レイヤー内に閉じた公正な競争の環境が実現することで,各レイヤーに参入するプレーヤの数が増える。それがさらなる競争につながり,ひいては利用者のメリットにつながる。

 垂直統合の場合は,特定レイヤーへの参入意欲がそがれるだけでなく,プレーヤが垂直統合サービスを提供できる企業に限定されるため,サービスや料金が硬直化しやすいということにつながる。

 もちろん,新規参入者が垂直統合型サービスを武器に,既存勢力に対抗するということはある。Yahoo! BBもその一例である。ただし,Yahoo! BBにしても,シェアが大きくなるなど,支配的事業者という側面を持ちつつあるので,今後も垂直統合型が許されるかということは議論すべき問題なのである。

ホットスポット市場はオープンでフェアな市場であるべき

 話をホットスポットに戻すと,水平分散を是とするならばホットスポットをキャリアが手がけること自体は悪くない。無線インフラはキャリア,ISPはユーザーが選択,その上でさまざまなプレーヤがアプリケーション系のサービスやコンテンツの競争を展開すればよい。

 つまり,「携帯電話の存在をホットスポット・ユーザーの囲い込みに使わなければ良い」のではないかということである。ドコモというプレーヤが増えるのは良いことだが,限られた事業者だけに許されている携帯電話での電波利用とその電波を使ったサービスを背景にホットスポットに参入するのは,私には「アンフェアではないか?」と思われる。

 折りしも,その垂直統合型モデルが批判されたiモードがISPに開放されようとしているが,ドコモのホットスポットも,ドコモが自らサービスを提供するだけでなく「インフラはドコモであるが,サービスはMVNO(移動通信再販事業者)のような事業者も提供できる」,あるいは「FOMAやiモードとの連携機能はオープン化してあり,他のホットスポット事業者もドコモのインフラを使った携帯電話連携サービスを提供できる」というようなサービス形態が望ましいと思う。

 そうしないと,「垂直統合&バンドル型」という従来の反省をまったく踏まえないビジネスモデルが当たり前になってしまいそうである。その企業にしかできないことで他社に勝つのがビジネスであるが,その「他にはできないこと」が限られた事業者しか持たない電波利用権に立脚するとなれば話は別だと思う。

 さらにこの観点を突き詰めると,ユーザー側も単に便利だからといって「ホットスポット/携帯電話」などのハイブリッド端末を安易に求めてはいけないのではないかとも思う。もちろん,「端末の仕様はハイブリッドでも,事業者を選択できる」ようなオープン仕様なら問題はない。

 結果的にあまり売れていないようではあるが,私は携帯/PHSを統合した「ドッチーモ」さえアンフェアであると考えている。もっともPHSと携帯電話の場合は,競争他社もすべて電波利用権を持った上での競争だったので,まだマシなのかもしれない。しかし,ホットスポットは免許不要であるだけに気にかかる。

 フェアな条件(と言うのは簡単だがこれが一番難しい・・・)での料金やサービスの競争の結果としてキャリアが勝ち残るなら良いが,独立系などの企業が新規参入しようとした時に「携帯電話連携は実現できないし,資金面でもかなわない。キャリアに任せておこう」としか考えられないようでは,ホットスポット市場はオープンでフェアな市場であるとは言えないと思う。

 というように,いろいろと書いてきたが,本当は規制などないほうが良いのは当然だ。携帯電話バンドル型のホットスポット・サービスと対等に渡り合える,あるいはまったく別の訴求ポイントで勝負するようなさまざまなビジネスモデルが出てきて,お互いに競争する方が理想に近いとは思っている。

(田邊 俊雅=ブロードバンドビジネス・ラボ編集長)

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