2002年2月6日から8日まで,千葉市幕張メッセで開催された弊社主催の情報通信ネットワーク総合展示会「NET&COM 2002」のフォーラムでは,イーサネットを広域網に利用した通信サービス「広域イーサネット・サービス」を取りあげた講演が目を引いた。

 講師の方々が広域イーサネットに着目した理由は,その柔軟性にある。プロトコルをIPに制限しルーターの設定にもルールがあるIP-VPNサービスに比べ,広域イーサネットはシステムを柔軟に構築できるのである。

 1本の回線を引き込むだけで,あとはネットワークで各拠点向けのデータを交換処理してくれる。LAN上で使えるプロトコルならすべて利用できる。ユーザーによってはルーターをまったく使わないで全国規模のネットワークを構築しているケースもある。

 しかし,現状の広域イーサネットはまだWANサービスとして成熟していない。なぜか。カギは,通信事業者の局とユーザーのオフィスや家庭を結ぶアクセス回線にある。

 そこで,アクセス回線部分に焦点をあてたイーサネット規格の標準化がいま進んでいる。それが,EFM(Ethernet in the first mile)である。

 今回は,今日と明日の2回に分けて,EFM推進の目的で2001年12月に発足した業界団体「EFMA」(Ethernet in the first mile alliance)の会長を務める米エクストリーム・ネットワークスのクレッグ・イーズリー氏へのインタビューを交えて,EFMのねらいと可能性を見ていきたい。

 今日はまず,なぜEFMが必要なのか,そして,EFMがユーザーや通信事業者にどんなインパクトをもたらすのか,を見ていこう。

■イーサネット技術を使ったアクセス回線はすでにあるが・・・

 EFMを簡単に説明すると,ユーザーのオフィスや家庭と通信事業者の局を結ぶ回線でそのままイーサネットのデータ・フレームを伝送する規格といえる。IEEE(米国電気電子技術者協会)802委員会のワーキング・グループP802.3ahで2003年9月の標準化を目指して作業中だ。

 EFMAは,P802.3ahによるEFMの標準化を支援する業界団体。「機器メーカーやシステム,インテグレータ,通信事業者などが参加し,EFMの標準化をバックアップしていく」(EFMAのイーズリー会長)

 では,なぜEFMが必要なのか。

 広域イーサネット・サービス以外でも,ユーザーのオフィスや家庭から通信事業者の局まで,イーサネット・フレームをそのまま送る回線のニーズはある。10Mや100Mビット/秒でインターネットに接続するFTTH(fiber to the home)がその典型例だ。広域イーサネットやFTTHで使われているアクセス回線は現状,大きく分けて3種類ある。

 それは,(1)高速デジタル専用線やATM専用線などの既存の通信サービス,(2)通信事業者の基幹網で使われている高速伝送技術のSONET(shynchronous optical network)リング,(3)既存のイーサネット仕様である100BASE-FXや1000BASE-LXなどを長距離伝送できるように拡張した仕様――である。ただし,これらはそれぞれ課題を抱えている。

 例えば,(1)はイーサネットと同等の速度の回線を用意しようとすると膨大な料金を請求されるはめになる。(2)は,エリアがほんの一握りの都市部に限定されてしまううえ,SONET伝送装置は広域イーサネットで利用するLANスイッチに比べ割高。(3)は既存のイーサネット技術の拡張なのでコスト的には申し分ないが,決定的な弱点がある。それは,WANサービスを前提とした技術でないということだ。

■LANとWANの要求仕様の違い

 イーサネットはもともとLANの仕様で,WANで利用することを想定していない。そのため,単純に光ファイバを使うイーサネット規格の100BASE-FXや1000BASE-LXをベースに伝送距離を延ばしても,WANで利用するには不十分なのである。

 どういった点が不十分なのか,簡単に説明しよう。

 例えばNTT東西地域会社や電力系通信事業者などが提供している高速ディジタル専用サービスで使う回線終端装置(DSU)や光終端装置(ONU)などが持つ保守機能が規格にない。DSUやONUが備える回線の折り返しテスト機能すらないのである。これでは,いざという時に障害原因の切り分けに手間取ることにもなりかねない。

 また,ケーブルのコストを抑えることも視野に入れていない。既存のイーサネット仕様では,送信と受信に別々の光ファイバを使う。これが1本のファイバで実現できるのであれば,ファイバのコストは半分で済むだろう。WANのアクセス回線部分のように,膨大な長さの光ファイバを敷設する場面では,この差は大きい。LAN環境で使うだけならこうした点に注意する必要がなかったが,WAN向けとなると話は別だ。

 さらにもう一つ欠点がある。それは,アクセス回線向けのイーサネット規格が標準化されていないことである。イーサネット・フレームをそのまま長距離伝送する装置「メディア・コンバータ」は,各メーカーが独自に拡張したイーサネット規格を採用しているのである。そこで,こうした各種仕様に代わって広域イーサネットで標準的に使えるアクセス回線規格の座を狙っているのがEFMなのだ。

 EFMが標準化されることで,WANで利用する上での要求仕様を満たしつつ,メディア・コンバータなどのアクセス機器の低価格化を図れる。「保守や管理を可能にするOAM(operations, administration,and maintenance)機能など,今までイーサネットが持っていなかった機能を盛り込むので装置は複雑になる。しかし,それでも各社が同じ仕様のものを開発・販売することで,価格は安く抑えられるだろう」(EFMAのイーズリー会長)。

 つまり,通信事業者側は低コストでイーサネット用のアクセス網を構築でき,ひいては,ユーザーが負担する通信料金の低減にもつながるのである。

 明日は,標準化の進捗状況や残された課題を見ていこう。

(藤川 雅朗=日経NETWORK副編集長)