2月6日~8日にかけて弊社が主催した展示会「NET&COM 2002」で「インターネット電話体験コーナー」を企画・運営した。ご協力いただいたのはイー・アクセス,インターリンク,ソフトフロント,ブレインリンクス,ワールドアクセルの5社である。会場では来場者にインターネット電話についてのアンケートを取り,回答していただいた(有効回答数は273)。

 今回はその結果から,ユーザーのインターネット電話への評価と期待などを報告しよう。なお,インターネット電話の基本について知りたい,という方は是非,以前この欄に掲載した「料金だけじゃない,インターネット電話のチェック・ポイント 」をご覧いただきたい。

半数がこのコーナーで初体験

図1●インターネット電話の利用度 インターネット電話体験コーナーで初めて使ったという人が半数を占めた。回答数=273

 まず最初にインターネット電話の利用度を尋ねた。半数近くの51.3%を占めるのが当コーナーで初めてインターネット電話を体験したという人である(図1)。「日常的に使っている」人は3.7%,「たまに使っている」人は9.5%で両者を合わせても13.2%に過ぎない。インターネット電話はまだまだこれからのアプリケーションと言えよう。逆に言えば,半数の人に当コーナーで初めてインターネット電話を体験してもらったことになり,このコーナーを設けた意義があったと思う。

 なお,「まだ使ったことがない」を選んだ人でも,続く設問で体験したインターネット電話について回答しているケースが多かった。こうした人は本当は「このコーナーで初めて使った」と回答してもらいたかった。そこで「まだ使ったことがない」と回答していても,続く設問でいずれかのインターネット電話を体験した人は「このコーナーで初めて使った」として集計した。

音質,使い勝手ともに「良い」

 当コーナーでは5社のサービスを体験してもらったのだが,それぞれのサービスについて音質と使い勝手を「大変良い」「良い」「悪い」「大変悪い」の4段階で評価してもらった。評価結果は「大変良い」という回答に4ポイント,「良い」に3ポイント,「悪い」に2ポイント,「大変悪い」に1ポイントを割り当て回答者数で割って加重平均を求めた。最高は4.0,最低が1.0になる。

図2●音声の評価 各社のサービスについて「大変良い」「良い」「悪い」「大変悪い」という評価をそれぞれ4,3,2,1ポイントととして加重平均を求めた。全社の全体の回答数=494
 
図3●使い勝手の評価 ポイントの付け方は図2と同じ。全社の全体の回答数=442

 5社全体では,音質の評価が3.03,使い勝手が3.02で「良い」という評価を得た。ただ個別に見ると若干の違いがある。音質の評価がもっとも高かったのはソフトフロントの3.13だった(図2)。

 一方,使い勝手ではソフトフロントの評価がもっともよく3.04だった。低かったのはイー・アクセスとワールドアクセルでともに3.01だった(図3)。しかし,音質に比べると小さなばらつきと言える。

複数経験者が評価するソフトフロントの音質

 この音質と使い勝手の評価を,Q1の経験値ごとに見てみた。当コーナーで初めて使った人を「初体験」(水色のグラフ),展示会などで何度か体験した,たまに使っている,日常的に使っている人をまとめて「複数体験」(やまぶき色のグラフ)とした。

 音質では,ソフトフロントのサービスは複数体験グループが初体験グループよりも高い評価を付けたが,その他のサービスでは,複数体験グループの方が低い評価だった(図2)。何度か体験している人は,他のサービスには辛口の評価を付けたが,ソフトフロントだけは別だったと言えよう。ソフトフロントは音声コーデック「NOSKI Engine」を自社開発し,外販もしており,力を入れている。

 使い勝手については,ブレインリンクスをのぞいては複数体験グループの方が,初体験グループよりもいい評価を与えている(図3)。複数体験グループが初体験グループよりもぐっと良い評価を与えたのはインターリンクである。今回の5社の中で唯一テレビ電話を体験できるようにしていたのが,影響しているのかも知れない。

8割以上が通話料金の安さを求める

 インターネット電話に対して求めるものとしては「通話料金の安さ」がダントツだった(図4)。85.7%もの回答者が「安さ」を挙げていたのである。2番目に多かった「アドレス帳などによる電話機能の操作性の良さ」は26.0%で大きく引き離している。

 専用の回線が必要なため今回は出展依頼をしなかったがヤフーの「BB Phone」の3分7.5円という値付けに反応した人が多かったことも考え合わせると,価格指向で業者間の競争がこれから激化することが考えられる。


図4●インターネット電話に対して“求めるもの” 複数回答可でインターネット電話に対して求めるものを選んでもらった。母数=273
 
図5●インターネット電話の体験度別に見た“求めるもの” これまでに何度かインターネット電話を体験しているグループは他のグループよりも操作性に対する要求が高い。母数=273

 なおアンケート回答用紙に「音質」という項目はなかったが,その他の自由記入欄に「音質」という回答が多かったので,6番目の選択肢として「音質」を設け,その他から引いて集計した。

 この求めるものも回答者の経験値でクラス分けして見てみると,興味深い結果が浮かび上がった(図5)。回答者が10%以上いた「通話料金の安さ」「アドレス帳などによる電話機能の操作性の良さ」「ビデオ会議機能」「ファイル転送機能」の4項目についてみると,経験値によって程度が違うのである。

 通話料金の安さがもっとも多いのは3グループとも同じだが,初体験グループは9割を超している一方,複数体験グループは8割以下である。料金の安さに期待して,このコーナーでインターネット電話を体験してみた初体験グループ。何度かインターネット電話を体験していて,料金の安さだけでないことに気がついている複数体験グループという見方ができるだろう。

 初体験グループは他の2グループに比べて「操作性の良さ」に対する期待は少ないが,「ビデオ会議機能」には期待をかけている。逆にある程度使っている複数体験グループは操作性を重視していることが伺える。

 ファイル転送機能では未体験グループの突出が目立つ。他の2グループに比べて倍以上の期待をしている。これは一度,使ってみるとファイル転送は別に必要ではないと思えてくるからだろう。

 その他の自由記入欄では,「ド素人にも設置・操作が可能なユーザインタフェース」といった簡便さを求める意見が複数あったほか,「三者通話」「どこでも使えること」「モバイル対応」「NTT電話を不要とする信頼性」「電話機端末があること」といった意見があった。

経験者ほどハンドセットを指向

図6●望ましい受話器の形態 経験が多いほど,通常の電話機のような手に持って使うハンドセットを好む割合が高い。回答数=273

 4番目の質問はインターネット電話の受話器の形態だった。ここではインターネット電話に経験者ほど,通常の電話機のような手に握って使うハンドセットを希望していることが分かった。前述と同じように経験度によって3グループに分けて見てみると,経験度があがるほどハンドセットの希望が増える(図6)。逆にマイク付きヘッドフォンの希望は減っている。

 ハンドセットは,通常の電話機を用いるインターリンクなどのUSBアダプタ・タイプとワールドアクセルなどのルーター・タイプ,そして専用機を使うブレインリンクスなどの専用電話機タイプでは,自然に用いられる。

 これに対して,イー・アクセスなどのソフト・タイプでハンドセットを用いようとするとパソコン・ショップの店頭ではほとんど見かけないため,難しく思いがちである。しかし,クラウン無線(イー・アクセスとNECのdialpadの動作確認機器を販売)ただTELなどがネット販売をしている。

 1280円くらいから購入できるヘッドセットに比べて,ハンドセットは安いもので2980円する。ハンドセットのユーザ・ニーズはあるので,大量生産によってヘッドセットに近い価格まで下げて,パソコン・ショップなどでも販売するといいのではないだろうか。

一般電話との接続が課題

 最後に自由記入で意見を記入してもらった。その中で目立ったのが,「田舎の両親と話をしたいが両親側は通常電話でないと使いきれないので,一般電話への接続を重視したい」「一般電話,携帯等とシームレスにつながるようになってほしい」といった接続性である。

 この点については,2002年中に品質条件をクリアした事業者に電話番号が与えられ,一般電話から直接かけることができるようになる見込みだ(関連記事)。

 また,操作性という点では,パソコンなしで使いたいという声がある一方で,アダプタや専用電話機などの初期投資を嫌う声もある。パソコンを使わないでとなると,こうした専用ハードを使わざるを得ないのは確か。大量生産による専用ハードの低価格化を待つしかないだろう。

 音質についての意見も多かった。「思ったよりも品質はよかった」というポジティブなコメントがある一方,「もう少し音がよくならないかと思う」といったネガティブな意見もあった。「センテンスが長いと,とぎれる時がある。スムーズに会話できることが望ましい」という具体的な指摘もあった。

 1件しかなかったが「家族での利用を考えるとブロードバンド・ルーターが使えることが必須」というものがあった。これはインターネット電話は双方向通信を行うため,ブロードバンド・ルーター経由だとうまく通信できない場合があるということに基づいた指摘である。

 この体験コーナーでは各端末にグローバルIPアドレスを割り振って,直接通信できるような準備をした。しかし実際の家庭での利用では,回答者の指摘にあるようにブロードバンド・ルーターを用いて,その配下にパソコンをつないでいるケースが多いだろう。

 これに対処するためにサービス事業者,ブロードバンド・メーカーがそれぞれ対策を講じだしている。ソフト・タイプのNECの「dialpadインターネット電話」ではブロードバンド・ルーター経由でも利用できるようになった。NECやNTT-ME,メルコ,ハイウェスト・ブレインネットなどのブロードバンド・ルーター・メーカーはルーター経由でWindows Messengerを使えるようにファームウェアをバージョン・アップする予定だ。

 また,ソフトフロントが展示したようにIPv6アドレスを用いるようになれば,ブロードバンド・ルーターを用いずとも,多数の端末をインターネットにグローバルIPアドレスで接続できるようになる。IPv6で使えるインターネット電話機器はソフトフロント以外に大井電気も開発を進めている。将来的な解としてIPv6はあり得るだろう。

 このようにようやく一般に名前が浸透してきた「インターネット電話」だが,まだまだ進化の余地はある。今後も動向を見守りたい。

(和田 英一=IT Pro)