通信回線を使ってケーブルテレビ(CATV)などの放送サービスを提供できるようにする「電気通信役務利用放送法」の施行規則(省令,2002年1月28日施行)の解釈を巡って,2002年初めにインターネット関係者の間で騒動が持ち上がった。

 インターネットを使った現行の映像配信サービスが適用対象になるのかどうか,という問題である。省令では,サーバーからの番組の送出速度が4Mbpsを超えた場合に適用対象になると規定している。適用されれば,番組審議機関の設置など,放送事業としての規制がかけられる。

総務省が公表した「ガイドライン」が業界に波紋を呼ぶ

 これに対して総務省は当初から,「適用対象になるのは,半ば強制的に公衆に向けて番組を配信する場合のサービスに限られる。現状のインターネットによる映像配信サービスで該当する事例はない」としていた。つまり,現行の映像配信サービスは新法の適用範囲外との整理だった。

 しかし総務省は,省令の施行前に公表した「通信衛星を利用した通信・放送の中間領域的な新たなサービスに係る通信と放送の区分に関するガイドライン」の改正版に,「インターネットによる映像配信サービスに関しては,電気通信役務利用放送法の関係省令により制度の適用関係について定める」という一文を盛り込んでいる。

 これにより,業界関係者に波紋が広がった。一部の関係者は,「やはり総務省は新法を利用して,現行の映像配信サービスに規制をかけようとしている」との疑念を持ったのである。

 「総務省がいくら口頭で現在の映像配信は対象外としても,省令の文面だけをみると現行のサービスでも送出速度が4Mbpsを超える場合は適用対象と読める。総務省が解釈を変えれば,すぐに規制がかけられる」というのがその理由である。

 一方で,新法によって利用放送事業者になれば,放送の枠組みで著作権処理が可能になるため,配信する映像コンテンツの調達が容易になると考える事業者も出てきたという。

経済産業省の配布文書で騒動はおさまったが・・・

 こうしたインターネット関係者の動揺を受けて,経済産業省が動いた。適用範囲に関する総務省の見解を文書にして,同省の確認を取ったうえで2002年1月中旬に経済団体連合会(経団連)や日本インターネット協会など関係各所に配布した。

 文書の具体的内容は,「現在行われているインターネットによる映像等配信サービスは,受信者から送信者に対して何らアクセスがないにもかかわらず,送信者が不特定多数の受信者に向けて,同時かつ一方的に送信する形態ではないため,電気通信役務利用放送法の適用対象にはならない」というものである。

 経済産業省には,総務省が新法でインターネットによる現行の映像配信サービスの規制に乗り出す可能性は否定できないとみて,その動きをけん制する狙いもあったようだ。こうして今回の騒動は,一応の決着をみた。

新法適用の判断基準は明確になっていない

 ただし総務省は,「テレビ受像機に接続して利用する高速インターネット用のセットトップ・ボックス(STB)などを使って,CATVと同等のサービス(送出速度4Mbps超)を提供するような場合は,新法の適用範囲になる」としている。

 将来的にこうしたインターネットの新サービスが登場した場合は,新法が適用される。しかし,どこからが「CATVと同等」といえるのか。その判断基準は明確とはいえず,個別の検討が必要になるというのが実状のようである。

 いずれにしても,通信か放送かの区別が難しくなるなかで,通信と放送に分けて規制をかけている現行の法体系が時代に合わなくなりつつあるのは確かといえる。

(渡辺 博則=日経ニューメディア)