やることなすことチグハグになってしまう――スポーツ競技や勝負事で「悪い流れ」に入ってしまったときに生じがちな現象だ。いまの米国,まさにその感じ。

 1月末から2月初旬にかけて,米国シリコン・バレー界隈とニューヨークを回ってきた。シリコン・バレーは,すっかり元気がない。筆者が会うのはベンチャー・ビジネス関連の人々に限られているが,今回会った人すべてが,レイオフしたか,されたか,どちらかの立場にあった。

 レイオフした方もされた方も,どちらも同じ様に傷ついている。現在のベンチャー企業の人減らしは,ITバブルの時に付いた贅肉(ぜいにく)を絞っているのとは訳が違う。贅肉を絞って冗長度がほとんどなくなった上で,さらに限界状況まで操業を縮退しているといった感じだ。

 本来なら成長を競うはずのライバル同士が,生き残りを競う,あるいは,ライバルの撤退を願うといったネガティブなマインドを抱いている。経営者がそんな風だから,職を失った人はなかなか次が見つからない。2~3年前,あきれるほど楽観的だった人が,自分の方向性を深刻に思い悩んでいる。

ベンチャーへの投資が止まり,“怪しいビジネス”が注目を集める

 転じてニューヨーク。こちらには意気軒高な人々がいた。カネをもってカネを生み出す金融業界の人々である。こちらでも筆者が会うのは,ベンチャー・キャピタリストを中心とした未公開企業投資の専門家に限られている。

 景気後退に加えて,テロ以来一段と落ち込んでしまったIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)の減退ぶりにげんなりしているのかと思いきや,意外にハツラツとしている。 株式市場の不振は彼らにとっては「織り込み済み」の過去の事象なのだ。

 すでに関心は,M&A(買収・合併)や資本再構成の手法を使っていかに儲けるかという方向に動いてしまっている。あるいは,本来未公開企業に投資する目的で集めた資金を,相対的に安定回収が見込める公開企業振り向けている投資家もいる。財務的に行き詰まった企業を狙い撃ちして「リサイクルする(本人の表現による)」怪しいビジネスが注目を集めたりもしている。

 この人々の習性は,「カネが儲かるならどんな方向にも行く」ということで,現在の成り行きは極めて自然なこと。しかし,ベンチャーへの投資というカネの流れからはソッポを向きつつあることも事実だ。だから,西海岸の人々は明るくなれないのである。

 一方,政治の中心,ワシントンD.C.では何が起こっているか。ここは筆者のカバー範囲ではないが,過去半年の事実を積み重ねて展望する限り,共和党ブッシュ政権は「戦争的緊張」を拠り所にし続けたい考えと見える。

 先日は改めてイラクを仮想敵国としてアピールするような場面があり,「武力行使を辞さない」との発言が報道された。戦争が経済を消耗させることはあっても回復に役立った事例は,少なくとも近代にはない。加えて,クリントン政権時代に比べて,IT(情報技術)は政策キーワードとしての地位が大きく後退したことは明らかだ。

「米国頼みの回復」には期待できない

 筆者が注意して見ているITを軸にしたベンチャー・ビジネスという範囲で言えば,米国の技術と,カネと,政治とが一体感を失っている。それが今後どのような結果をもたらすかは安易に断じることはできないが,少なくとも様相がはっきり変わったことだけは十分に実感できた。

 今週は,ブッシュ大統領が来日した。何を土産に,何を求めて来たかはともかく,わが国側として「米国頼みの回復」を強く期待できるような状況に彼の国はない。

 米国経済について明るい面は,消費の腰が強い点なのだが,日本が供給国として助かる場面が,もはやそうそう無いことはご承知の通り。いよいよ個別企業や個人の「自助努力」以外に実効性のある解はないだろう。

 これは改革だ痛みだという議論より,はるかに重いものを跳ね飛ばすエネルギーが要る。それを楽しいと思えるか,ただただつらいだけとあきらめるのか――そこで大きな差が生じる。

(小口 日出彦=日経E-BIZ編集長)