富士通がフレックスタイム制の廃止で労使合意に至ったという。いささか旧聞ではあるが,1月16日の日本経済新聞朝刊の記事を覚えている方も多いと思う。私は,見出しを見て眼を疑い,中身を読んであきれてしまった。

 読者の皆さんには,富士通グループに所属する方も大勢いらっしゃると思うが,今回は失礼を承知で書かせていただきたい。フレックスタイム制そのものではなく,その根底にある意識が富士通に限ったことではないと思うからだ。

 日経の報道によれば,「中核事業がコンピュータなどハードから,迅速な顧客対応が求められるソフト・サービスに移る中で,自主的に就労時間を決める同制度の枠内では顧客満足度を上げにくくなっていた」のだという。

どこかで問題がすり替えられていないか

 これは,本当なのだろうか。定量的なデータを基に客観的に判断した結果なのだろうか。私には,そうではないように思えた。顧客満足度を上げるためには,勤務時間の縛りは邪魔になる,という方がよほど自然に聞こえる。

 8時40分に始業して12時10分まで働き,昼休みを50分とる。その後,1時ちょうどから17時30分まで働く。これが,フレックスタイム制導入前の平均的な勤務時間であったろう。30分休憩後の18時からが,いわゆる残業時間である。このような時間割に関係なく働かなければならないという点で,本来,フレックスタイム制は厳しいものなのだ。もちろん,勤務時間の自由裁量部分が増えることで,成果がシビアに問われるのも当然だ。もっとも,フリーランスにとってはごく当たり前のことではあるのだが。

 本来はフレックスタイム制ではあっても,定時出社・退社を頑なに守っているような人(これは,人それぞれの事情もあろうし,個人の選択だから尊重するけれど)もいれば,上司やトップの「ツルの一声」でフレックスタイム制が有名無実化しているところもあるだろう。逆にSEのように,客先での作業が中心になるような場合は,勤務時間を客先のそれに合わせなければならないことも多いはずだ。実際にはかなりの職場で,業務の要求に応じた勤務時間となっているであろう。

 さらに富士通の場合,コアタイムは9時から14時だという。フレックスタイム制をやめて元の勤務時間に戻すのだとすれば,20分の違いである。それがなぜ「顧客対応の時間帯と勤務時間のズレが生じる」という話につながるのであろうか。頻繁に14時に退社して連絡が取れない,といった社員がたくさんいるわけでもあるまい。

 顧客満足度が上がらないのは,フレックスタイム制が原因ではないのではないか。もっと根本的な問題があるのに,どこかで問題のすり替えが行われたような気がしてならない。根本的な問題というのは例えば,(1)フレックスタイム制の下で成果を正当に評価するシステムが機能していない,(2)そもそも製品やサービス,技術力などの競争力が衰えているために顧客満足度が上がらない,(3)トップの経営方針が社内にちゃんと伝わっていない――というようなことである。

 社内の関連部署などとの「意思疎通や協力作業にマイナスになる」というのもうなずけない。ITベンダーがコミュニケーション・ツールの生かし方を工夫できないのでは,顧客に何も提案できないではないか。例えば,時給単価の高いエンジニアが1時間の会議のために片道1時間かけて集まってくる,といったことの非効率性をもっとよく考えるべきであろう。

 普段は顔を合わせないバーチャルな組織であっても,インターネットなどを利用して成果を上げている例はたくさんある。そしてそこでは,9時~17時というような「定時」の感覚は希薄である。インターネットを駆使して編集された坂本龍一監修の「非戦」(幻冬舎)にかかわったグループなどは好例と言えるのではないか。

ワークスタイルについてもっと多様な取り組みをすべき

 フレックスタイム制だけではない。SOHOやリモートオフィス,ワークシェアリング(これも本来の意味をかなり歪められていますが...)などを含めたワークスタイルについて,もっと多様な取り組みをすべきだと思う。例えば,共働きやシングルであっても子供を育てられるべきだと思うし,これからは老人介護のことも考慮すべきだろう。その中で顧客満足度を上げる工夫をし,業績に結び付けるべきなのではないのか。

 ブロードバンド・サービスをはじめとして道具はそろっている。しかも,道具であるコンピュータも通信サービスも,フレックスタイム制を始めたころよりはるかに安く高性能になっているのだ。

 現在,電機メーカー各社の業績の落ち込みは大変なものである。危機意識を煽りたい気持ちも分からないでもない。しかし,社員を信頼していないかのようなやり方やトップの言動,タイムカード以外では成果を正当に評価できない体制,こういった姿勢のままで乗り切ることができるのだろうか。フレックスタイム制の廃止が本当に必要なことであるとは到底思えないのである。

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 昨年春,自宅でADSLを使い始めたことで,私自身,ワークスタイルの変化を痛感している。特に,昨年10月末まで在籍していた本サイト(IT Pro)の編集作業では,時差を利用して米国発のニュースをオンエアするなど自宅での作業が不可欠だっただけに,ADSLによる高速常時接続は有り難かった。

 自宅のADSL回線は,年末には1.5Mから8Mビット/秒に移行した。予定よりも1カ月ほど待たされたがトラブルなく移行できた。電話局からは2キロ強あるが,3.5Mビット/秒前後でリンクが確立している。FTPなどの実効速度は,最高で2Mビット/秒の後半である。もちろん,Webサーバーによっては実効速度は数百kビット/秒程度である。アクセス回線だけが速くなっても,という面があるのは間違いない。今後,ブロードバンド対応サイトが増えてくれば,8Mの価値がもっと出てくると思っている。

 現在,そのブロードバンド対応サイトやコンテンツ・ビジネスをテーマにした新しいサイト「ブロードバンドビジネス・ラボ」を企画・準備中である。2月25日にプレオープンを予定している。下記のURLのページをご覧いただいた上で,ぜひプレビュー・メールにもご登録いただければと思う。

http://nwi.nikkeibp.co.jp/nwi/lab/

(田邊 俊雅=ブロードバンドビジネス・ラボ編集長)