マイクロソフトを取材したときに,Windowsサーバーのマーケティングを担当する部長から,次のような質問を受けた。「Windows .NET Serverは非常にディープなところに改良を加えているので,消費者にどうやって訴求していったらいいか難しいところがある。どうしたらいいと思いますか?」――

 同氏に意見を求められて,私はとっさにプラモデルの歴史を書いた2冊の本,「田宮模型の仕事」(田宮俊作著,ネスコ/文藝春秋)と「プラモデル進化論」(今柊二著,イースト・プレス)の話をした。今日のプラモデルの繁栄をもたらしたのは,専門化と大衆化の両方を満足させるマーケティングにある。そこにサーバーOSとの類似性を感じたのだ。

専門化した技を大衆化する技術がプラモデルに進化をもたらした

 プラモデルの歴史は,木製模型に端を発するという。プラモデル以前の木製模型は,木材を芸術的な技で加工できる人だけが,リアルな戦艦などの模型を楽しむことができた。そこにプラスチックという素材が登場する。細部を成型したプラスチック部品を組み合わせることで,特別な技を必要とすることなく,誰もが手軽にリアルな戦艦や飛行機を作れるようになる。

 その後のプラモデルは,リアリティの過剰なまでの追及,これにこたえるマニアの専門化した技,さらにそれを大衆化する新技術の登場,というサイクルを繰り返しながら発展し,現在の「ガンプラ」(人気アニメ「ガンダム」に登場するロボットをプラモデルにしたものの通称)に代表される高度なプラモデルへ進化する。

 いまの30代後半から40代の人たちの中には,子供のころに接着剤で手をべたべたにして,ゼロ戦や戦艦大和を作った人も多いのではないだろうか。しかし,現在のガンプラは,吹けば飛ぶような細かい部品をパチパチとはめていくだけで,あらゆる関節が動き,細部まで再現されているロボット・プラモデルが出来上がる。

 私は本を読んだ後に実際に作ってみて,あまりの変わり様に感動した。ここには専門化された技だけしか到達しえないリアリティを,素人も手軽に味わうことができるすばらしさがある。

Windowsサーバーがガンプラになる日は来るか

 翻ってWindowsサーバーはどうだろうか。かつてのNTサーバーには,UNIXを置き換えるという“頂上作戦”もあったが,一方でNetWareという当時DOS風のサーバーOSを,Windowsのユーザー・インタフェースを備えたサーバーOSに置き換えるすばらしさがあった。

 しかし,Active Directoryやグループポリシーはどうだったろう。高機能にはなったが,既存ユーザーにはだんだん難解な代物になっているような気がする。

 今年登場する次世代サーバーOS「Windows .NET Server」は大規模ネットワーク向けの機能拡張や,運用の利便性を追及した改良が行われる予定だ。弊誌「日経Windowsプロ」としても今後,正式出荷に向けて数多くの新機能の詳細を,分かりやすく伝えていきたいと思っている。

 前述した「訴求の難しさ」とは,製品のメリットを知るためにそれなりの前提知識が必要,ということである。例えば,Active Directoryの設定が,従来よりもどれだけ簡単になったのかを,いままでActive Directoryを使ったことのない人(依然残るNT Server 4.0のユーザー)にも理解してもらわなければならない。あるいは,IIS6.0の可用性の高さを従来バージョンとの比較の中で,世間に納得してもらわなければならない。

 なかなかメリットが伝わらないということは,それだけ専門化が進んでいるということだ。

 難しさの問題はマイクロソフトよりもユーザーの方がもっと切実だ。弊誌が毎月行っている読者調査のアンケート用紙を読むと「もっと初心者向けに」「もっと基礎的な内容を」といった要望が,2割ほどある。ほとんどが,情報システム部門以外の「にわか管理者」と呼ばれる方々である。弊誌の努力不足もあるのかもしれないが,にわか管理者と専門家の間には,知識やスキルに大きな差があって,その差がますます開こうとしているのが実態だ。

 マイクロソフトがWindows .NET Serverをたくさん売るには,サーバーの達人に受けるセールス・トークだけではなく,にわか管理者もすばらしいと感じるポイントがなければいけない。マニア・マーケティングとビギナー・マーケティングの両にらみが必要なのだ。私がそれをマーケティングの専門家に唱えるのは釈迦に説法で,だからこそ訴求の難しさを感じているということなのだろう。

 もちろん,Windows .NET Serverが製品として“ガンプラ”のレベルになっているかどうかと,セールス・トークとして“ガンプラ”として売るかどうかは,別の問題だ。ただ,マーケティングというのはその両方が影響を与え合うことであるはず。プラモデルがそうだったように,「専門化した技を大衆化する新技術の登場」を求める市場が,Windows .NET Serverに進化をもたらすはずだ。

 Windowsサーバーがガンプラになることを切に願っている。

(木下 篤芳=日経Windowsプロ副編集長)