2001年は無線LANが飛躍的に普及した年だった。ノート・パソコンなどを無線LANに接続するためのPCカードは1万円を切り,標準で内蔵するパソコンも出てきた。駅構内やホテル,展示会場などからインターネットへアクセスできるようにするホット・スポットの実験サービスも盛んである。こうした無線LANはどれもIEEE802.11bという規格に準拠している。2.4GHz帯の無線周波数を使い,最大11Mビット/秒の伝送速度で通信できる規格だ。

 このIEEE802.11b対応製品については,低価格化の波もおさまり,一段落したように見える。今年,この分野で熱くなりそうなのは,次世代規格の主導権争いだ。

先行するIEEE802.11aだが,屋外で使えない

 先行しているのは,5GHz帯の無線を使って54Mビット/秒の伝送速度を実現するIEEE802.11aという規格。2001年11月にソニーが製品出荷を始めたのを皮切りに,インテルやプロキシムなども今年になって新製品を出してきた。価格も出始めにしては比較的安く,IEEE802.11b製品の2~3倍程度である。量産効果などにより,従来製品並みまで安くなる可能性は十分ある。

 これだけの情報から考えると,IEEE802.11aが,現在主流のIEEE802.11bの後継になりそうだが,そうすんなりとは決まりそうもない。

 IEEE802.11aには,IEEE802.11bを完全に置き換えることができない決定的な制限がある。5GHz帯の無線LANを屋外で使えないのである。日本国内では,IEEE802.11aが使うのと同じ周波数を衛星携帯電話,アメダスの気象レーダー,有料道路の自動料金徴収システム(ETC)などが利用している。電波の周波数帯域を割り当てている総務省は,これらの既存システムとの相互干渉を避けるために,IEEE802.11aの屋外利用を禁止している。

 したがって,最近盛り上がりつつあるホット・スポットにIEEE802.11aを利用する際には,制限が出てくる。ハンバーガー・ショップのような店内利用だけに限れば問題ないかもしれないが,駅構内のようなオープン・スペースでの利用は禁止されている。

既存規格と同じ2.4GHz帯を使うIEEE802.11gのほか,独自規格の製品も登場

 一方,IEEE802.11aほど高速ではないが,IEEE802.11gという規格の策定も進んでいる。IEEE802.11gはIEEE802.11bと同じ2.4GHz帯の無線を使って24Mビット/秒の伝送速度を実現する規格だ。まだ対応製品は出ていないが,同じ周波数帯を使うので,無線LANカードやアクセス・ポイントが従来製品の上位互換になる可能性がある。アンテナなどは従来製品のものと共通にできるからだ。当然,従来規格と同じように屋外での利用もできる。

 さらに,IEEE802.11gではないが,独自技術で20Mビット/秒以上を実現する製品も出ている。2002年2月にメルコが発売する製品や,ソニーと日本テレコムが東京都のJR大崎駅近くで実験的に始めるホット・スポットで採用する技術だ。

 メルコの製品は,従来規格と同じ周波数帯を使い,最大22Mビット/秒の伝送速度になる。IEEE802.11b対応製品とは最大11Mビット/秒で通信できるという。ソニーと日本テレコムの実験サービスで使う技術は,2.4GHz帯で最大36Mビット/秒になる。

 この次世代規格の主導権争いは,これからますます激化しそう。今年末くらいまでは,混沌とした状況が続くのではないだろうか。筆者個人としては,最も高速な次世代IEEE802.11aに期待したい。それには総務省というお役所の英断も必要になってくるだろう。

(三輪 芳久=日経NETWORK副編集長兼編集委員)