常時接続環境を手に入れてからというもの,ホーム・エレクトロニクス機器を外のインターネットからアクセスし,コントロールするノウハウを模索している。最初はフレッツ・ISDNだったから映像系やPCのダイレクト・コントロールには力不足だったが,最近はADSLの威力で外出先からでも自宅のPCを直接扱うことができ,かなりのことができるようになった。

 個人レベルでこの種のソリューションにチャレンジしてみたい人にも参考になるネタを集めようと,できるだけお金をかけないソリューションを狙っている。しかし,なかなか適当な製品が手に入らず,一部ソフト/ハードの自作を強いられつつのチャレンジだ。

 家電製品をパソコンでコントロールするという試み自体はずいぶん前からやっていた。たとえば,レーザー・ディスク・プレイヤをパソコンのRS-232Cポートでコントロールするなんてこと。民生用のレーザー・ディスク・プレイヤにはRS-232Cポートが付いていないので,業務用のプレイヤを買い込んできての実験だ。プレイヤだけで25万円もしたものだ。

 しかし,これをネットから実現するのはなかなか難しかった。それがようやくここに来て,環境が整い始めた。常時接続のブロードバンドが安価に手に入るようになったし,先の2002 CES(Consumer Electronics Show)でたくさん展示があったように,「ネット接続可能な家電」が続々登場してきそうだからだ。

 うまく行けば,私が10年苦労してきたイバラの道はようやく整備されることになる。これまでもパソコンでコントロール可能な機器はいくつかあったが,ほとんどはメーカーによってコントロール・コマンドが異なっていた。競争関係にある家電メーカーが一致協力して一大標準を作っていただければ,かつての私がはまったような苦労はしなくてすむ。各機器のコマンドを一つひとつ調べ,プログラムに組み込んでいく無駄な作業は無くなるかもしれない。

 個々の機器にはIPv6による個別IPが振られ,コンセントにLANケーブルをさすだけで,アクセス可能になる。これで,私が待ちに待った世界がようやく実現することになる(かもしれない)。

 その実現のため,しかもそれが本当のユートピア世界を形作れるように,これまでの私のイバラの道をちょっとだけ記しておきたい。こうした苦労をしなくてすむ環境設計,システム設計をしていただくヒントになればと思いつつ。

●イバラの道その1:自宅を監視するWebカメラ

 まずは自宅の様子を監視するWebカメラの設置。これは簡単。

 ビデオ入力端子付のパソコンに,CCDカメラをつなぎ,定期的に自前のWebサイトに撮影データを送り込む。無料で使えるWebサイトがたくさんあるから,そこにftpで自動アップロードするように設定すれば出来上がり。数秒から数分で更新がかかるようにすれば,とりあえず家のなかで煙が立ち上っていないかどうか,コソ泥が押し入っていないかどうか,などは分かる。

 クライアントPCからWebサイトへアップロードするだけなので,IPアドレスが変動しようが,ファイアウオールの中にあろうが,問題なく画像配信ができる。最近のビデオ取り込みソフト,あるいはWebカメラ用ソフトには「モーション・ディテクト」機能が付いているものもあるから,これをオンにしておくと,動くものがあったときだけ画像更新され,合理的だ。

●イバラの道その2:外出先からのテレビ番組録画予約

 次にチャレンジしたのは,外出先からのテレビ番組録画予約。さかのぼること2年前,USB接続の赤外線発信機をパソコンに接続,ビデオ機器のリモコン動作を記憶させ,それをプログラムで実行させるという方法を試した。しかし,残念ながらこれはうまく行かなかった。そもそもビデオ録画機にカセットがセットされているのかどうか知る術が無かったし,1本目が終わってしまったら,文字通り「一巻の終わり」だったからだ。

 ここ半年ほどはテレビ・チューナ付MPEG-1/2ビデオ・キャプチャ・ボードを使い,直接録画指定をするか,電子テレビ番組表(EPG)で録画予約をする方法を試している。ケータイから予約設定することもできてこれはなかなか便利。しかも,十分に大きなハード・ディスクを積み,画質を落としていけば何10時間もの録画ができるから,前述の悩みは消える。

 しかし,やはり,画質の悪さが気にかかる。一気にキャプチャ・ボードに何10万円もかければ,少しは改善するかもしれないが,S-VHSの画質に迫るのは難しい。やはり,ビデオ・デッキがネット接続してくれるに越したことはない。

●イバラの道その3:エアコンを制御する

 次はエアコン。

 これも,ネット接続できるエアコンがないから,パソコン経由の赤外線発信機でコントロールした。困ったのは動作状態の確認だ。温度センサーを用意してこれをシリアル・ポート経由で読み取る。ハード/ソフトは自作だった。

 後にX-10なる電灯線経由のホーム・コントロール機器に温度センサーを組み込んだコンセントがあることを知り,米国から輸入。どうやらこれは日本では認可されていない機器らしくて,本当はこんなところに書いてはいけないノウハウらしい。パソコンにはX-10の「Home Automation Interface CP290」をシリアル・ポート経由で接続。するとコンセントのオンオフ・コントロール,温度の状態監視がパソコンからできるようになる。

 しかし,やはりこれはちょっと危なっかしい。機器自体の状態を監視できないから,温度設定などは決め打ちで行うしかない。不調で過熱状態にならないとも限らない。やはり,ネット家電の登場が待たれるところだ。

イバラの道その4:レーザーディスク,DVDプレイヤのコントロール

 これは,前述のようにRS-232C経由でコントロールできるレーザー・ディスク・プレイヤを用意して,直接文字コマンドを送り込むことで取り組みの始まり。同じ方法でビデオデッキをコントロールしたことがあるが,コマンド体系が機器ごと,メーカーごとに異なり,骨が折れた。

 そうこうするうち,今やレーザー・ディスクなんてソフトが出てこなくなってしまった。仕方なくDVDプレイヤーに入れ替えたが,今度はRS-232Cなどのインタフェースは付いていない。あってIEEE 1394(FireWire,i.LINKとも呼ばれる)端子だけ。これをコントロールするソフトを自作するのは,ちょっと手に余るので,当面お預けだ。

 このあたりの応用はインターネットからコントロールする必要性はあまりないから最近の実験には組み込んでいないが,DVD録画機能付のデッキなどになれば,やはりネット接続機能がほしくなってくる。

さまざまな規格の乱立など懸念もあるが・・・

 Microsoft社の「Mira」や「Freestyle」,電灯線を使った業界標準の家電機器コントロール規格「エコーネット」など,パソコンを機軸にした家電機器との融合を狙う試みが活発に動いている。しかし,これらの規格,さまざまな基盤にのっとった異種の仕組みが乱立する懸念もある。

 私のここ10年の悩みを一気に解決してくれるソリューションを望みたいものだ。

(林 伸夫=パソコン局主席編集委員)