情報システムを作ったので,『はい使ってください』といっても,それだけでユーザーに使ってもらえるものではない---。CRM(Customer Relationship Management)システムを導入したユーザー企業を取材した時に改めて感じたことである。いくらすごいシステムを作っても,使われなければ効果どころではない。

 最近の企業情報システムは,利用率の向上が成功の一つのカギになっている。その背景には,情報システムの目的の変化がある。従来は,コスト削減を目的としたシステムが多かった。そのようなシステムは,現場のユーザー自身がそれを使うことで仕事が楽になるため,ほおっておいても使われた。システムの利用率を気にする必要はあまりない。

 しかし最近はコスト削減ではなく,顧客との関係強化やそれにより利益の増大など,“価値の創出”を目的とした情報システムが増えている。CRMやSFA(Sales Force Automation),データ分析のシステムはいずれも,営業や販売,企画担当者のためのシステムで,本業での利益の向上を狙ったものだ。そのような価値創出型のシステムでは,「利用率が低い」という問題に悩まされることが多い。システム担当者が苦労して構築したシステムであっても,現場で使われないという状態だ。

ユーザーに使ってもらうため,システム担当者の工夫も大切

 その理由としては,(1)CRMやSFAは業務改革を伴うため,現場が混乱したり現場の反対にあったりする,(2)現場のコンピュータ・リテラシが低い,という声をよく聞く。確かにそのような面はあるだろう。だが,利用率を上げるために,システム担当者がやれることはたくさんあるのではないだろうか。

 現場のユーザーは,これまでシステムの支援なしに仕事をしてきている。情報システムを使って価値を生み出すといっても,すぐに信じてもらえるわけがない。また,使い方が難しいシステムを習得する暇もない。現場の立場に立てば,効果があるのかどうかが分からないシステムや,習得に時間のかかるシステムは,使いたくない。利用率を向上させるには,使ってもらう工夫が欠かせない。

 では,どんな工夫があるのか。「データを“生かす”システム構築術」(日経オープンシステム2002年1月号特集)というテーマで記事をまとめた際,価値創出型システムで成功している企業に利用率の向上策を聞いて回った。成功企業では,さまざまな工夫でシステムの利用率を向上させている。まとめると,3つのステップがあった。

まずは,とにかくシステムに食いついてもらう

 まず,(1)すぐ目に見える形の“得”をさせていた。「ワークフロー機能を導入し,これまで必要だった書類作成作業を不要にする」,「システムを通じて個人の営業成績が分かるようにし,営業成績に応じて奨励金を与える」。こういった使い方をすれば,利用者は情報システムに興味を持ってくれる。とにかく,システムに食いついてもらうことが最初のポイントだ。

 とはいえ,いくら興味のあるシステムでも使い方が難しければ使われない。(2)使い方で悩ませないようにすることが,次のステップである。マニュアルを読んだり,ヘルプ・デスクに問い合わせたりしなければならないシステムでは,利用率は高くならない。価値を生み出すにはたくさんの情報があった方がよいが,情報量が増えると機能数が増え,機能数が増えると操作が複雑になる。こうした多機能のわなに陥ってしまうと,操作はなかなか簡単にならない。

 機能が増えると操作が難しくなる,というジレンマから抜け出す工夫が必要だ。INAXではポータル機能で,サンウエーブ工業はナビゲーション機能で,ジレンマを断ち切った。ポータル機能では,あらかじめ興味のある情報を登録しておくことで,システムにログインするだけで見たい情報にたどりつける。操作の難しさとは無縁で,実際INAXでは忙しい人ほどポータルを使う傾向が強いという。

 ナビゲーション機能を実装すれば,順番にボタンをヒットしていくといった操作でアプリケーションを使いこなせるようになる。新機能の追加と同時にナビゲーション機能を手直しすれば,新機能をすぐに使いこなせるようになるというわけだ。

カットオーバーしてからが本番

 (1)得をさせて(2)使い方で悩ませなければ,利用率を上げる下地が整う。最後の仕上げは,(3)“良い循環”を作ることだ。価値を生み出すシステムに有効な機能は何か――。この質問に答えられるのはシステム担当者ではなく,現場でシステムを使っている人である。現場の声を拾い,システムに反映していく循環を作ることが最後のポイントになる。現場の声がシステムに素早く反映され,価値を生み出しやすいシステムになればなるほど,ユーザーの評価は高まり,自然と利用率が向上する,というわけだ。

 どんな情報システムにも言えることだが,特にCRMやSFA,データ分析などの価値を生み出すシステムではカットオーバーしてからが本番だ。当たり前だが,システムは使ってもらってなんぼである。

(松山 貴之=日経オープンシステム)