家庭やオフィスの無線LAN環境をそのまま持ち出して,ハンバーガー・ショップや喫茶店,ホテルのロビー,駅,空港のラウンジなどでインターネット接続に利用する――。それを実現したのが,今話題の「ホット・スポット・サービス」である。

 無線LANアダプタを挿したノート・パソコンを持ち歩けば,外出先でも高速でインターネットに接続できる。米国では先行して商用サービスが始まっている。国内でも,通信事業者各社が実験サービスを展開中だ。コンピュータやインターネットの展示会/国際会議でも,ホット・スポットを設置する動きが始まっている。

 使った人に言わせると「こんなに便利なものはない」とのこと。確かに,携帯電話やPHSを使ったモバイル・インターネット環境と比べると,11Mビット/秒の無線LAN規格「IEEE802.11b」を使うホット・スポットは,使い勝手も違うだろうと予想できる。しかし,ホット・スポットが商用サービスとして定着するまでには多くの課題が待っている。

 今回は,数ある課題の中から一つを取り上げて見ていきたい。それは「電源の確保」である。

AC100V電源をユーザーに開放できるか?

 ノート・パソコンの低消費電力化は進んでいる。例えばNECの新型ノート・パソコン「LaVie Z LZ300/1A」で約10W。バッテリで約6時間の連続利用が可能である。一方,PCカード型の無線LANアダプタを見ると,メルコの「WLI-PCM-L11GP」の消費電力は最大1.45W。パソコンの約7分の1とバカにできない。当然ながら,バッテリ電源で無線LANを使い続けると,稼働時間はそれだけ短くなる。1日外出し通しで,ホット・スポットでメールの確認やイントラネットのWebサーバーへのアクセスをしていたらバッテリが足りなくなった――。あちこちにホット・スポットができれば利用頻度も高くなり,こんな状況に陥る危険性も十分考えられる。

 12月3日と4日の両日にパシフィコ横浜で開催された「Global IPv6 Summit in Japan 2001」の本会議場では,無線LANのホット・スポット環境に合わせて,各机の下にAC100Vの電源コンセントを用意した。無線LANの消費電力が大きいことへの配慮といえる。

 しかし,各通信事業者が現在実験展開中のホット・スポットでは,電源を利用できる場所は少ない。NTTコミュニケーションズの「Hi-FIBE」(ハイ・ファイブ)やNTT西日本の「フレッツ・スポットアクセス」は,基本的に各ホット・スポットでの電源利用を認めていない。

 確かに,ハンバーガー・ショップや駅,ホテルのロビーといった場所でAC100Vの電源が使い放題であれば,ホット・スポットのユーザーにとっては便利かもしれない。しかし,問題があることも理解できる。ノート・パソコン以外の電気機器をつながれ,失火でもしたら一大事。仮に安全面で問題がなくても,「その電気代はだれが負担するのか」という疑問も残る。

“イーサネット・スポット”の可能性

 仮にホット・スポットで電源を利用できるようになると,それはそれで落ち着きの悪い感じを残す。というのも,「電源ケーブルをつないでおいて,通信だけなぜ無線LANにする意味があるのか」と考えてしまうからだ。

 無線LANのいいところは,ケーブルをつながずに通信できる点である。逆に言うと,イーサネットと比べて無線LANが勝っている点は,実はそこしかない。イーサネットであれば,電波を傍受されて暗号を解析される心配はない。11Mビット/秒の帯域を多くのユーザーで共用するのではなく,LANスイッチを使って100Mビット/秒を専有して使うことも可能となる。さらに,イーサネット・ケーブルで電源を供給する規格「IEEE802.3af」の標準化も進められている。

 無線LAN機能を内蔵するパソコンも増えてはいるが,イーサネット・ポートを装備するのはいまや当たり前。バッテリの消費を気にせず,イーサネットで安心・快適にインターネットへアクセスできる――。こんな“イーサネット・スポット”とでも呼ぶべきサービスもあり得るのではないだろうか。

(藤川 雅朗=日経NETWORK副編集長)