ついにマンションのインターネット接続環境に1Gbps(ビット/秒)の回線を引き込む時代になった。

 2001年11月18日に告知開始された分譲マンション「新東京プロジェクト Newton Place*注(東京都江東区塩浜)のインターネット接続は,1Gbpsの回線を引き込み,住民の利用に供することになった。

注:「新東京プロジェクト」は5社共同の開発プロジェクト。参加企業は有楽土地, 東レ建設,新日本建物,ニチモ,日商岩井不動産。

 「総戸数989戸のマンションにインターネット接続環境を提供し,生活を楽しんでいただくためには1Gbpsの回線が不可欠と考えました」(日商岩井不動産 永井 哲也 東京営業本部業務統轄室係長 IT企画担当)。引き込むのはパワードコムのイーサネット接続サービス。パワードコムのデータセンターに直接光ファイバを引き込み,十分に太いバックボーンにつなぎ込む。
 
 竣工は2003年2月(一部),現在,パワードコムのサービス・メニューには1Gbpsのイーサネット接続サービスは存在さえしないが,完成時点で居住者に快適なインターネット環境を楽しんでもらうために大胆な青写真を引いた。
 
 インターネット接続に関する企画提案は14社のコンペになったという。しかし,これまでに培ったインターネット・プロバイダーとしての実績,ソフィア戸塚(2001年8月入居済み),アンジュの丘横浜常盤台(2002年2月竣工)などに100Mbpsの設備を引き込んできた実績などが評価され,1Gbpsのインターネット接続を提案した日商岩井不動産に落ち着いた。

 「高速で安定したインターネット接続は生活に必要なインフラと考えます。接続料金0円がうちのやり方」(同社 前岳 大輔 東京営業本部住宅部 副部長)という。既販売マンションの入居者アンケートでも「インターネット無料,100Mbpsの高速インターネット」に関する支持率が,「広さ」「価格」「周辺環境」など基本仕様の次に来ているのが,こうした企画にまい進する原動力になっている。
 
 サーバーにはメール・ウイルスなどを除去するシマンテック社のアンチウイルス製品を導入し,利用者の安全を確保,データセンターとマンションの間はイーサネット接続を使い通信コストを削減,マンションの入り口にはレイヤー3スイッチを使い住民間の相互セキュリティを高める。

 マンション内の配線は当面100Mbpsでつなぐが,エンハンスド・カテゴリ5の線材を使い,将来1Gbpsへの発展性も持たせる。棟内の高速インフラを十分に活用し,敷地内の監視カメラなどはWebカメラで構成する。居住者の要請と管理組合の同意が得られれば,居住者が出張先などから建物や家族の安全を確認することもできるようになる。

 これまでのインターネット・マンションの多くは1.5M~10Mbpsの専用線を引き込み,数100戸でシェアするという形態がほとんどだった。中には1.5Mbps回線を800戸でシェアするという冗談ともつかないサービスまである中で,1Gbpsの接続サービスはまさに垂涎の企画だ。

 対極の意見として「今の一般的なインターネット・ユーザーはせいぜいメールくらいにしか使わないから64kbpsも出せれば十分」という見方も一方で存在する。しかし,高速道路の渋滞を見ても分かる通り,いざというときに十分な広さが確保されていなければ,つまってしまったときの効率低下は目を覆うものとなる。

 足まわりの通信容量は平常時すかすかの状態であっても,一斉に同時アクセスが来たときにも十分なスピードが確保できていなければならない。「十分なスピード」がどの程度なのかは,個人の利用目的,インターネットへの取り組みの姿勢の違いで様々だが,私自身は一人当たり1Mbpsは欲しいと思っている。しかし,それも数年すると,要求仕様が一桁(けた)あがってしまうかもしれない。
 
 不動産業界ではインターネット環境の設計に関して古い考えがまかり通っていた。設計から竣工まで数年はかかるという計画に,完成時点で先進性を盛り込むのは極めて難しいのはよく理解できる。しかし,「新東京プロジェクト」のような企画がそこに風穴をあけてくれることを願ってやまない。

(林 伸夫=パソコン局主席編集委員)