最近,業界でとてもよく聞くキーワードに「Webサービス」がある。これに関連する記事は,いろんな雑誌に掲載されている。しかし,どうも今ひとつピンと来ないという読者も多いのではないだろうか。

 まずピンと来ない理由として考えられるのは,聞く者にとって温度差があるキーワードであること。人によってはWebサービスというと,「Webアプリケーションとして実装された何らかのサービス」と考える。コンピュータ業界に所属していない人にとっては,むしろこのイメージが一番強いだろう。

 一方,業界内でも統一見解というべきものはない。ある人はSOAP(Simple Object Access Protocol)を使っているシステムだというし,ある人はもっと広義にWebサーバー同士が連携動作するシステムであればよい,ともいう。このように定義が明確でないことがWebサービスという概念を小難しくしている原因のように思う。

本当にそんな世界がくるのか?

 さらに,Webサービスという言葉とともに夢のような話が語られるのが,話をややこしくしている原因ではないだろうか。曰く,いつも取引する企業に在庫がなければ,動的に別の企業に発注処理を依頼するシステムを作れる。曰く,どのデバイスからでも好きなサービスにいつでも接続できる・・・。

 しかし,こういったヨタ話が真実になるには,相当の時間がかかるだろう。そもそも,こんな世界が来るかどうかすらわからない。技術的にはまず,現在公開されているWebサービスのインタフェース定義言語である「WSDL(Web Service Description Language)」で書かれた規約から,動的にそれを利用するプログラムを自動生成することが難しい。現在では静的に生成するレベルには来ているが,それでもSOAPのフルセットを使えるわけではない。

 もう一つは,そこで公開されているメソッドなりインタフェースに使われている「言葉」の意味を統一しなければならないこと。AIの世界で言われていた「オントロジ」のようなものが,ここでは必要となる。前者はまだ実現可能性があるが,後者について筆者はとても懐疑的だ。

 この問題に対してよく言われるのが,「業界内部で統一したボキャブラリを作る」という話。誠に結構だし,とても意義あることだ。だが冷静に考えてみると,そこで業界内部に閉じた言葉の体系が作られるなら,別にインターネット・ワイドにオープンである必要はないのではないか。そして,それは現在進められているRosettaNetやAribaなどの企業間連携システムとどこが違うというのだろう。

そんなことしちゃっていいのか?

 もう一つ大きな問題が,現実のビジネス形態とマッチしていない,ということだ。そもそも企業間取引は,必ずしも価格だけで成立するわけではない。取引先企業に対する信頼関係というものがあらかじめ成立していなければならない。こういった信頼関係をWebサービスで構築できるのだろうか。盗聴や改ざんなどについて,セキュリティの問題がクリアーされたとしても,商慣習がそう簡単に変わるとは思えない。

 信頼できるディレクトリをUDDI(Universal Description,Discovery and Integration)ベースで作れば,そういった動的な取引形態も成り立つ,と言われている。話としてはわかるが,その形態が取引のメインに来るとは思えない。結局,発注量と生産量,価格,納期などに基づいて主力の取引先をオフラインで決めておいて,オンライン取引はその補完的な役割として使うというのが関の山ではないだろうか。

インターネットで使えるRPCと考えるべき

 ここまで否定的なことを並べてしまったが,Webサービスに懐疑的なわけではない。むしろ,非常に多くの企業が使っていくだろうと考えている。ただし,あるシステムと別のシステムをポイント・ツー・ポイントで結ぶ,「インターネットで使えるRPC(遠隔手続き呼び出し)」としてだ。

 これならば,動的にプログラムを自動生成する必要はないし,そもそも分かり合っている企業同士だから信頼関係の問題もクリアできる。ボキャブラリの問題も,業界内部で閉じていて全然構わない。現行のRosettaNetやAribaなどより少しでもつながりやすくなったり,システムを作りやすくなるのであればそれでOKだ。

 世のWebサービスを巡る言説を見ていてもう一つ思うことがある。SOAPとWSDL,UDDIの三つが必ずセットで語られていることだ。これも混乱の元ではないかと思っている。とりあえずSOAPだけを理解しておけば現在のところWebサービスについては十分ではないだろうか。WSDLの内容は開発者さえ理解していればいいものだし,UDDIに至っては当分不要なものだ。あまりに他を強調すると,肝心な部分がぼやけてしまう。

 ほとんどのユーザーがMicrosoft WordやExcelのデータ・ファイルの形式に気を配らないのと同じように,開発者以外のユーザーがSOAPやWSDLの書き方まで知っている必要はない。ただこれらの規約で何ができるか,何ができないかを見極められる眼力だけは養っておきたい。

 なお,Webサービスについて興味のある方は,日経バイトが2002年1月号(2001年12月22日発行)で特集を組んでいるので,ぜひ,そちらを読んでいただきたい。

(北郷 達郎=日経バイト副編集長兼編集委員)