「出る杭は打たれる」ということわざが,ひょっとしたら現実のものになるかもしれない。米デルコンピュータの日本市場でのサーバー価格を破壊する凄まじい販売攻勢に,「打つ手がない」(対抗メーカー役員)とさじを投げていた対抗メーカー各社が,一転して強烈なカウンター・パンチを周到に仕込みつつあるようなのだ。

 それは,デルの同一サーバー機種で同一システム構成モデルの,日米市場でのリスト・プライス(正価)を比較し,その換算レートをやり玉に挙げようとするもの。もし「米デル価格に比べ3割も安くなるリスト・プライスをデル日本法人が設定していたら,当局に不当廉売,いわゆるダンピング訴訟も考慮しなければならない」(メーカー幹部)。米価格より30%安というのは90円前後の換算レートになる。

 Webにより筆者が調べたところ,例えばデルのローエンド・サーバー「PowerEdge500SC」の場合,Celeron900MHz/1Gバイト・メモリー/40Gバイト・ストレージ/OS/ブロンズ・サービス付きで,米での価格2441ドルに対し,日本価格は21万2800円。換算レートは87円だった。

繰り返される日米価格差を巡るいざこざ

 日米のコンピュータ価格についてのいざこざは,筆者の知る限り,これまで2度あった。一つは,80年代前半のこと。IBM互換パソコンを日本メーカーが米国に輸出販売した際,米メーカーからダンピングの疑いをかけられ,米当局が動き,その結果,日本メーカー3社のパソコンが2倍の高関税をかけられたというもの。しかし,米パソコン大手にOEM(相手先ブランドによる生産)していた日本メーカーはその難を逃れたというちぐはぐさ。米政府の戦略が色濃く出たものだった。

 二つ目は10年ほど前。日本IBMがメインフレームの価格を,当時の日米為替レートの2~3倍でリスト・プライスを設定し,国内のユーザーやシステム・インテグレータに販売していたことだ。この場合,日本価格が米国価格より大幅にというか“不当に高く”なる仕組みだが,本国より高いので不当廉売には該当しない。

 とはいうものの,メインフレームを購入するユーザーから見れば「けしからん。ゆゆしき問題」と映る。しかし,日本IBMと競合する国内コンピュータ業界にとってはその逆だ。「メインフレーム価格が高値で維持されるため,競合がしやすいし,利益も取れる」という「IBM価格の傘の下」ビジネスが出現した。国内メーカーは当然問題にもしなかった。

 だがユーザーは“高値”に反応した。米国に出先も持つ大手企業が,米国子会社で米IBMから購入し,一度米国で設置し(使わない),それを日本に移設したり,日米のITブローカが国内ユーザーに米市場の“安い”IBMメインフレームを斡旋(あっせん)するなど,日本価格が高いIBMマシンを何とか安く手に入れる方策が考えられた。

 日本IBMの狙いはメインフレームの価格を高値に設定しておき,これというユーザーに対して破格の値引きで攻略するという,考えてみれば安直な戦略。米価格と比べると,実際は値引きでもなんでもないのだが,「値引き幅を重視する日本人の購入パターン」をくすぐる効果は十分発揮された。

デルの攻勢は,サーバー付帯ビジネスへの影響が大きい

 今,デル対抗メーカーが「デル製PCサーバーの日本価格」を問題にするのは,デルの攻勢がサーバー・ビジネスだけへの影響にとどまらない可能性があるからだ。日本のIT市場をけん引したパソコンは需要が落ち,ハードウエアではサーバー頼みに市場構造が変わってきた。サーバーの獲得により,ストレージやソフト/サービス,クライアント・パソコンなど,サーバー付帯ビジネスも獲得できるチャンスが増えるのだ。

 世界市場でのサーバーは,例えば米IDCによれば第3四半期(7~9月)の世界のサーバー出荷金額は前年同期比30%も落ち込み,IDCは今後半年間の特にエントリー・サーバーを巡る価格戦争の激しさを予想する。しかし日本市場に限るとサーバーは好調な市場だ。データクエストによれば,2001年前半(1~6月)は前年同期でサーバーの出荷金額は16%増,出荷台数は22%も増えている。台数の伸びが大きいのはデルの得意とするローエンド・サーバーが伸びているためだ。

 デルのPCサーバーのシェアはIDCデータによると,2000年度は出荷台数で12%で5位だったが,2001年第2四半期(4~6月)は15%で2位に急浮上。第3四半期も15%で3位に付けている。マルチメディア総合研究所調べの2001年度上半期(4~9月)でも,デルの出荷台数は前年同期の2.8倍伸び,シェアを7%から13%へ上げ4位につける。

訴訟になるかは微妙,対抗メーカー各社に足並みの乱れも

 デルが顧客に受けるのは「価格」だ。大手ユーザーを中心にPCサーバーは買い換え需要に入っている。そのため対抗メーカー各社の「デルには付帯のITサービスがほとんどない」という排斥するための口上が,設置と運用経験を積んだユーザーには効果がない。

 また,「安かろう悪かろう」なら対応策もあるが,「開けてみたら当社製部品を使っているので信頼性は高いはずだ」とか「大手ユーザーを軒並みやられたのでフォロー調査したら,顧客の満足度は高かった」など,付け入る隙(すき)もないような状態だ。あるシステム・プロバイダは「PCサーバーをデルから正価で購入し,それにマージンを上載せしても,これまでのメーカーから仕入れるより儲かる」と話す。

 しかし,この安さが日本市場の競争を阻害するものなら問題だ。対抗メーカーは「調査の結果,デルの不当廉売の証拠は握った。訴訟を真剣に検討している」としているものの,訴訟になるかは微妙だ。まず手続き上,その事実を経済産業省に持ち込まねばならぬが,同省が毅然たる態度で米商務省相手に喧嘩するかという疑いがある。

 さらにある米メーカーが,デルの換算レート90円に対抗上,同100円で日本価格を設定している事実も発覚。この“やぶ蛇”現象がデル対抗メーカーの足並みを乱している。いずれにしても戦略製品の価格を巡る日米戦争は,カラーTVや鉄鋼,自動車などの過去を引きずり,根が深い。

(北川 賢一=日経システムプロバイダ主席編集委員)