プログラマが何人か集まれば,どのプログラミング言語が好きか,どの開発ツールが優れているか,また,初めて学ぶ言語は何がベストか,といった話題で盛り上がるものです。この「記者の眼」で日経ソフトウエアの記者が,プログラミング言語の選択肢について書いた際も,読者の方々からたくさんのご意見をいただきました(関連記事1関連記事2)。

 もちろん,こうした問いに対する唯一の回答はありません。十人十色の回答がありますし,また,それがプログラミングの世界の面白いところだと思います。ただ,多くの方に共通した意見もあります。それは,これからプログラミング技術者としてのスキルを磨いていくつもりなら,特定の言語やツールだけにとらわれていてはいけない,ということです。わたし自身も日ごろ,いくつかの考え方の異なる言語やツールに触れることが,プログラミング技術の向上に必ず役に立つ,と考えています。

 そのために,プログラミング関連のフリーソフトを活用することをおすすめしたいと思います。今回はその中でも,最近,記者が個人的に注目している開発ツールを,目的別に三つ紹介しましょう。いずれも,(1)開発が継続している,(2)細かい利用方法やトラブル・シューティングの情報を入手しやすい,という点で,フリーソフトといえども安心して利用できるツールです。

【筆者のおすすめ:その1】
遊びながら始めたい人にはHSPが面白い,短いコードで複雑な描画ができる

 8ビット機全盛のころは,プログラミングを学ぶ動機の一つがゲーム作成でした。筆者もポケコン上のBASICで1ライン・シューティング・ゲームを作った記憶があります。現在,敷居の低い開発ツールといえばVisual Basicでしょうが,比較的高機能なゲームを手軽に作って楽しみたい,という初心者には必ずしも向いていません。それでは,HSP(Hot Soup Processor)を試してみるのはいかがでしょうか。

 HSPという名前はあまり有名ではないかもしれません。ラベルにジャンプする,整数型以外の数値型がない,標準では正規表現が扱えないなど,仕様は一見古いBASICに見えます。しかし,画像,音声を用いた簡単なゲームやデモを作るという点では,Visual BasicやDelphiよりも手軽に組むことができます。職業としてプログラミングを学ぶのでなければ,まずは遊びながら始められるHSPのような開発ツールもよいでしょう。

【筆者のおすすめ:その2】
Javaを学ぶならForte Community Edition,フリー版でも制約が少ない

 日経ソフトウエアでは,今後使ってみたいプログラミング言語を問う読者アンケートを2001年11月号で募集しました。複数選択で解答していただいたところ,1位が46.1%のC#,2位が36.9%のJavaでした。C#+.NETという環境で動作するフリーソフトはありませんから,ここではJavaに限った話にしましょう。

 かつては,有償製品を提供するベンダーが無償配布するツールは,有償製品の“体験版”の域を出ないものがほとんどでした。しかし,最近では,単なる“体験版”とはいいきれず,十分な機能を持ったものも登場しています。その代表例がボーランドのJBuilder 5 Personalとサン・マイクロシステムズのForte for Java,Release 3.0,Community Editionです。

 ボーランドは最近,非常に元気のあるベンダーですし,JBuilderも人気が高いのですが,ここはあえて,サン・マイクロシステムズのForte Community Editionを推薦します。これは,同じ無償の統合開発環境であるJBuilder 5 Personalに比べて,Forteの方が自由度が高いからです。たとえばJBuilder 5 Personalでは商用のアプリケーションを開発できませんが,Forte Community Editionにはそのような制限がありません。

 サーバー・サイドJavaの勉強のためにサーブレット,JSP(JavaServer Pages)を試してみたい,データベース・アクセスも実験したいという場合,JBuilderでは有償のProfessional版を購入するしかありませんが,Forteなら無償版のままで対応しています。EJB(Enterprise JavaBeans)やアプリケーション・サーバーの開発ライセンスがほしいという開発者でなければ,ForteのCommunitiy Editionでカバーできます。

【筆者のおすすめ:その3】
CVSでチーム開発を学んでみよう

 CVSは,直接コードを記述するという意味での開発ツールではありませんが,複数の開発者がチームを組んでいるならぜひ試してみるべきです。多数のファイルを頻繁に更新する作業では,同じファイルに複数のバージョンが存在し,CVSのようなバージョン管理ツールを使わないと,同じソース・ファイルに同時に書換えが起きたり,書き変えようとしても長時間ロックされたままで開発が進まないといったことが起こりがちです。

 CVSを使えば他の開発者がどのソース・ファイルを編集しているか意識せずにファイルを書き変えることができますし,開発者が全員同じOS上で開発する必要もありません。基本的にコマンド・ライン上で動作するツールですが,Windows向けにGUI版もありますので一度試してはいかがでしょうか。

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 これらの中に,興味のわいたツールはあったでしょうか。Visual Basicなどのメジャーなツールでプログラミングを始めた方も,ぜひ,こうしたツールをきっかけに,いろいろな考え方を基にしたツールに触れていただきたいと思います。プログラミングの腕を磨くために,きっと役に立つでしょう。そして,いずれは,フリーソフトを使うだけでなく,開発したり改良したりする側にもなっていただきたいと思います。

(畑 陽一郎=日経ソフトウエア)

■日経ソフトウエア最新号(2002年1月号)の特集2では,ここで紹介したソフトも含め,プログラムの学習に役立つ7つのフリーソフトをご紹介しています(CD-ROM付き)。概要はこちらのページでご覧下さい。