Windows XPは,よく考えられて作られたOSだ。同製品に触れるたびにそう思うようになっている。ただし,利用にあたっては注意すべき点もある。

 例えば,セキュリティの面で「XP Professional」と「XP Home Edition」の違いをはっきり知っておかなければならない,ということ。さらに,同じXP Professionalでも,実質的に2つの製品が混在していると言えるほど,ドメイン環境とワークグループ環境とで初期設定や各種機能が異なることには注意が必要だ。

 日経Windowsプロ12月号特集3「変貌したWindows XPのセキュリティ設定」を執筆するにあたって,このあたりを調べてみたのだが,ここでは,セキュリティの観点から,XP Home EditionとXP Professionalの“見えにくい違い”について,気がついた部分を紹介したい。

 XP Home Editionは上位版Windows XP Professionalと比べて機能が削られていたり,制限されたりしている。ドメインに所属できない,NetWareサーバーに接続する機能がない,リモート・デスクトップやファイル暗号化機能が利用できない,などはよく知られている。だが,両者の違いはこのように分かりやすいところだけではない。

“隠れたAdministrator”を第三者に悪用される恐れがある

 Windows NT/2000では「Administrator」という名前の管理者ユーザーが初期設定で自動的に作成される。Administratorは万能で,OSのあらゆる操作が可能になっている。他の登録ユーザーのパスワードを変更したり,場合により他人しか読めない設定のファイルを読めたりする。

 一般ユーザー向けを狙ったXP Home Editionでは,このAdministratorという覚えにくい名前のユーザーを“基本的に”利用不能にして,代わりにsuzukiやtanakaのような普通の名前の管理者ユーザーを使用するのが基本になっている。

 XP Professionalではインストール時にAdministratorのパスワードを入力させるし,キーボードからログオンする操作で利用することも可能だ(やや変則的な操作や設定変更が必要な場合もある)。

 これに対してXP Home Editionでは,インストール時にAdministratorのパスワードを入力する画面が出ないし,セットアップ後にAdministratorで通常のログオンを行うこともできない。コントロール・パネルの「ユーザーアカウント」という管理ツールからもAdministratorは見えないので,まるで存在しないかのようにも見える。

 だが,本当に存在しないわけではない。

 実際,セーフ・モードで起動すると,Administratorが表示され,管理者としてログオンが可能だ。ここで注意が必要なのは,初期設定でパスワードを指定しないと,第三者に悪用される恐れがある,ということだ。Administratorでログインし,そこから他の管理者アカウントのパスワードを変更などをすれば,あとは,他の管理者アカウントで普通にログオンできてしまう。ユーザーにとって存在が分かりにくいだけに,第三者に悪用されないよう注意が必要だ。

 これを防止するために,初期設定でAdministratorにパスワードを付けておきたい。具体的には,製品付属の「ファーストステップガイド」という小冊子に書いてある通り,セーフ・モードで起動してAdministratorでログオンし,コントロール・パネルの「ユーザーアカウント」を起動する方法で行うのが容易である。

新規フォルダは基本的に共有用となる

 こうしたXP HomeとXP Professionalの見えにくい違いはほかにもいくつかある。

 ファイルを読み出せる,ファイルをフォルダに書き込める,などの設定をアクセス権やアクセス許可と呼ぶ。このアクセス権の設定内容も,XP Home Editionでは制限されている。

 Windows NT/2000では,ディスクをNTFSという形式でフォーマットしておくと,特定のユーザーやグループのみが読み出せるファイルなどをかなりきめ細かく設定できる。XP Professionalでも同様なきめ細かさでアクセス権の設定が可能だ(自由に設定するにはオプションの変更が必要な場合はある)。

 これがXP Homeでは,フォルダを新規に作成すると基本的に共有用になり,マイドキュメント・フォルダを個人用(プライベート)に設定できるほど簡素化されている。だがHomeでも,CACLSというコマンドを使うと,ドライブやフォルダなどに付いているきめ細かなNTFSのアクセス権を詳細に表示,変更できる。

 このほか,例えばNet Userというコマンドを実行すると,Administratorをはじめとする全登録ユーザーが見えたり,Administratorのパスワード変更が普通の起動状態でできたりする。

NT/2000ユーザーでさえ,HomeとProfessionalの違いは見えにくい

 Home EditionとProfessionalの両者の違いには,Windows NT/2000のユーザーでさえ,技術的な文書を読んだり,意識して探してようやく気がつくぐらいのものが多い。ほとんどのWindows 9x/Meユーザーは,こうした違いに関心すらないだろう。今までもAdministratorはいなかったわけだし,NTFSのアクセス権の設定もなかったのである。

 しかし,Windows 2000から引き継いだ複雑な仕組みをやさしく見せながら,XP Home Editionでも,登録ユーザーに関する表示,設定を詳細に行えるコマンドや,NTFSアクセス権を詳細に表示,変更するコマンドは利用できる。これらの機能が利用できる半面,一般ユーザー向けを意識したためにAdministratorの存在が見えにくくなっている,など,注意を要する部分もある。

 XP Home Editionの利用者も,Windows NT/2000やXP Professionalの知識があった方が,より安全に,快適にXPを使えるのではないか,と感じている。

(干場 一彦=日経Windowsプロ副編集長)