2001年度上期の決算が続々と発表されるなかで,電機メーカーの苦戦が際立っている。大手電機メーカー7社の2001年度通期の連結最終赤字は,合計で1兆円に達するという。電機メーカーの経営陣は,口々にIT不況の影響をもらす。特に業績低迷の元凶として槍玉に挙がるのがDRAM事業である。

 もっとも,こうした事態がいつか訪れることは,事前に予想できたはずだ。DRAMは,製造装置を買ってくれば誰もが作れる標準品であり,価格以外で他社との差異化を図るのは難しいからである。市場が拡大している時ならいざ知らず,いったん市場が縮小に向かえば価格競争に拍車がかかり,各社総崩れの状態に転落することは目に見えていた。

 それにもかかわらず,横並び意識の強い国内大手メーカーは,大胆な戦略を打ち出すことなく,漫然とDRAM事業を継続してきた。その結果,1980年代には市場のほとんどを日本メーカーが占めていたが,気が付けば韓国や米国のメーカーに追い抜かれ,いつしか弱小勢力に成り下がってしまった。そこを襲ったのが,今回の不況である。1年間で価格が1/10にもなってしまう異常な市場の動きの中で,体力のない日本メーカーは息の根を止められようとしている。

 こうした状況を尻目に,立て続けにヒット商品を出している元気な事業がある。洗濯機や掃除機などのいわゆる白物家電事業だ。かつては証券アナリストからお荷物とまで酷評された事業が,ここへ来て脚光を浴びている。その理由をたどっていくと,全滅とまでいわれる電機メーカーの再生へのヒントが浮かび上がってくる。

独自路線を貫く

 実は白物家電が置かれた状況は,DRAM事業に負けず劣らず苦しい。成熟産業といわれるだけに,市場はすでに飽和しており,放っておけば平均単価は下がり続けてしまう。ちょっとでも気を抜けば事業の存続すら危ういほどだ。それなのに,好調を保っていられるのはなぜなのか。

 その秘訣(ひけつ)を端的に表すのが,電機メーカー各社が次々に投入した「洗剤のいらない洗濯機」だ。口火を切ったのは三洋電機。世界で初めて洗剤不要の洗濯機を開発し,8月に市場に投入した。洗剤不要で落とせるのは一日着た肌着などの軽い汚れにとどまるが,それでも消費者は鋭く反応した。発売から2カ月間で昨年モデルの30%増となる3万台強を売り上げた。

 三洋電機の成功に続けとばかり,同様な機能を備えた製品が相次ぎ登場している。シャープは,超音波の効果で襟などの汚れを落とす機能を搭載した洗濯機を11月に発売。韓国のDaewoo Electronics Co., Ltd.は,どんな汚れでも洗剤なしで落とせるという洗濯機を10月から韓国で販売している。

 各社の動きから透けて見えるのは,他社にはない大胆な発想で自ら市場を切り開こうという姿勢である。「洗剤がいらない洗濯機」という点では同じでも,各社が利用する技術は大きく異なっている。各社それぞれが他社を出し抜こうとひそかに開発を進めていた技術が,ここにきて花開いた形だ。

 三洋電機の洗濯機は,水道水の電気分解で発生した活性酸素を利用して汚れを落とす。シャープの洗濯機には,クリーニング店が利用している機器にヒントを得た超音波洗浄装置が付いている。韓国Daewoo社は,三洋が使っているのと同様な電気分解の作用に加えて,「添加剤」を利用するという裏技を繰り出した。洗剤はいらないが,添加剤を入れてくださいというわけだ。

解決策も横並び

 白物家電メーカーには,DRAM事業にみられるような各社横並びの発想はない。それよりも,いかにして他社を出し抜くかに日々知恵を絞っている。韓国Daewoo社の製品など,掟破りともみられかねない製品までを,大胆にも市場投入に踏み切る思いきりのよさは,横並びの意識が強い標準品の発想からは出てこないだろう。

 ここにこそカギがある。他社にない独自の製品や戦略を持ってこそ,初めて自らの将来を切り開くことができるわけである。ごく当たり前の結論だが,それすら満足にできていなかったことが,国内大手電機メーカーの絶不調の元凶といえる。

 DRAM関連でも,独自インタフェースの策定で利益を上げ続ける米Rambus Inc.や,このご時世にいち早く次世代品の量産を始めた韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.など,独自の戦略を打ち出すメーカーは決して少なくない。一方で国内メーカーは,猫も杓子もDRAM事業撤退をにおわせ,ハードからソフトへの人員の配置転換を示唆するなど,相も変わらず同じような解決策を模索している。

 白物家電の健闘振りは,成熟した産業ですら,工夫次第でまだまだ市場を活性化させ,利益を稼げることを示している。その原動力になるのは,技術者の知恵であり,経営者の戦略であるはずだ。

(河合 基伸=日経エレクトロニクス)

■「日経エレクトロニクス」11月5日号では,「今度は海の向こうから,「本当に」洗剤不要の洗濯機」を掲載します。関心のある方はぜひお読み下さい。このほかにも9月24日号では,解説記事「五色に色づく白物家電,横並び体質から脱却へ」を掲載しました。概要は日経エレクトロニクスのホームページでご覧いただけます。