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ADSLにもっと情報開示を

2001/10/12

 「ADSLを導入したが,意外と速度が遅い」「導入直後は速かったのに,遅くなってしまった」など,ADSLのユーザーで速度に不満を持っている人は少なからずいるだろう。

 筆者の知り合いでも,「CPUを替えたら速くなった」「モデムの電源を1回切ってみたら速くなった」など,原因がよく分からないまま問題を解決したり,どうしても接続できなかったのが「モジュラ・ジャックをコンデンサなしのものに変更したら動くようになった」など,苦労して解決している人が珍しくない。

 ADSLはアナログ回線の技術であり,回線の微妙な状況に速度が大きく左右される。それを仕方がないと言ってしまえばそれまでだが,速度を判断する上で重要な情報がユーザーに公開されていないので,ユーザーとしては自分の使っているADSL回線の速度が最適なものか疑心暗鬼にならざるを得ないのである。

基本になるのはリンク・スピード

 多くのユーザーがさまざまな速度計測サイトを使って実効速度を測っている。しかし,ADSLの速度を知るうえで分からないと困るのが,ユーザー宅のモデムと電話局の集合モデム(DSLAM)間の接続速度(リンク・スピード)である。

 リンク・スピードは接続業者ならDSLAMで調べることができるし,一部のADSLモデムは裏技として,リンク・スピードを調べる機能を備えている。しかし,通常ユーザーは知ることができない。問い合わせても教えてもらえるとは限らない。

 最適な状態でもリンク・スピードと実効速度とのあいだには2割くらいの違いがある。それ以上に極端に実効速度が遅い場合は,ADSLではなくISPやパソコンの問題となる。実効速度が遅いからといって,すべてADSLの責任とはいえない。

 接続業者にとってはリンク・スピードの問い合わせが殺到したら,ユーザー・サポートがパンクしてしまうと恐れているのだろうが,それなら低額でも有料にすればよい。それ以前に,モデムでリンク・スピードを簡単に調べられるようになっていれば,問い合わせ自体が減るかもしれない。

回線の収容情報はNTTが独占

 仮に,リンク・スピード自体が遅く,ADSLの通信に問題があるとしよう。今度は,ADSLに関連する回線のさまざまな情報が必要になる。

 ADSLの速度が電話局からの距離に大きく左右されることは周知だが,そもそも電話局からの距離(線路長)がユーザーには伝えられていない。直線距離は地図で調べられても,あいだに川や線路があった場合,大きく迂回していることもある。

 実は,NTT地域会社のフレッツ・ADSLを使うために116に電話をすると,線路長やその回線の伝送損失を教えてもらえることが多い。しかし,Yahoo!BBなど他の接続業者に申し込む場合は,そういった情報は教えてもらえない。接続業者は回線の情報を持っておらず,NTT地域会社に問い合わせないと分からないのだ。しかも問い合わせには1件当たり数千円かかり,時間も1週間以上かかるのが普通だという。最初に116に電話をして情報を仕入れてから,他の接続業者に申し込むという方法は可能だが,あまり気持ちのいい方法ではない。

 ADSLの速度に影響する要素として,線路長のほか,「ブリッジ・タップ」「手ひねり接続」「紙絶縁」「ISDNからの干渉」などがある。

 簡単に説明するとブリッジ・タップはケーブルの分岐点,手ひねり接続はハンダを使わず手でひねっただけでケーブルを接続することで,いずれも通信に悪影響を与える可能性がある。

 後の二つは干渉に関するものである。電話のケーブルの内部は,二つの回線(1回線当たり線は2本あり,2回線で計4本)をまとめた「カッド」が同心円状に並んでいる。カッド間の絶縁に紙を使うのが「紙絶縁」である。プラスチックを使ったケーブルより干渉が大きい。ISDNからの干渉は,同一カッド内の回線のほか,隣接カッドや,さらにその隣の一つ飛びカッドなどから受ける。接続業者がNTT地域会社に有料で問い合わせる情報には,こういった情報がすべて含まれ,さらに線径や直流抵抗値も載っている。

 こういった情報をユーザーが簡単に入手できれば,ブリッジ・タップが問題なのか,ISDNからの干渉が悪影響を及ぼしている可能性が高いのか,それとも距離的な問題なのか,ユーザー自身がある程度判断できる。

 例えば周囲にISDNの回線が多い状況なら,同じ8Mビット/秒のサービスでもYahoo! BBが採用するG.dmt Annex Aより,アッカ・ネットワークスやイー・アクセスが採用するG.dmt Annex Cを選んだほうがいいと判断できるかもしれない。また線路長が長くても,線径が太く,ブリッジ・タップや手ひねり接続がなければ,意外と伝送損失や直流抵抗値が少なく,接続できるのではないか,といった判断もできる。

 現在はそういった判断はすべてNTTが「回線適合性調査」として行っていて,ユーザーには知らされていない。

 現在,ADSLの速度改善策として,「ブリッジ・タップ外し」や「回線収容替え」といった方法があることは,すでに雑誌やWebサイトなどに公開されている。これらはいずれも工事費が2万円前後かかる,ユーザーにとってはかなりリスキーな工事である(改善効果がまったくない場合には工事費は取られないが)。回線の収容状況をユーザーが知らずに,こういった工事を頼むのはバクチに近い。ユーザーが工事の費用を負担する以上,もっと情報を公開すべきだろう。

宅内配線は藪の中

 冒頭のモジュラ・ジャックの例にも見られるように宅内配線のトラブルは結構多いという。宅内配線は調べるのも困難であり,意外なところに原因が潜んでいることも多い。

 米Paradyneの技術者の話によると,米国の家庭では保安器から屋内に引き込むところにパネルが付いていて,屋内の配線を通る前の状態でテストができることが多いという。日本の宅内配線ではそういう設備がないので,原因を調べるのが大変だとこぼしていた。これは情報開示の問題とは別だが,今後ネットワーク・レディな住宅を設計するうえで考慮すべきことかもしれない。

 また,宅内配線に関連する代表的なトラブルとして,旧型の保安器がある。インターネット・アクセス中に電話が着信すると通信が途切れてしまう,というものだ。これは実際に試してみればいいので,トラブルのなかでは比較的見つけやすい。

 保安器の交換も有償であり,本来7300円かかる。ただ,Web上での体験談などを読むと,音声通話に雑音が入る場合などは無償で交換してくれることも多いようだ。そのあたりの判断基準もユーザーからは不透明である。

 ブロードバンドの本命は光ファイバだという声はよく聞かれる。しかし,各戸まで線を引かなければいけないFTTHと比べ,ADSLは圧倒的に少ない手間で利用できる。少なくとも,これから数年間はADSLが日本のブロードバンドの主役であり続けるだろう。

 そのためには,ユーザーにとってもっと分かりやすいものであることも必要である。さまざまな情報を公開することで,初めてユーザーが納得して使えるシステムになるのではないかと思う。

(松原 敦=日経バイト副編集長)

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