クライアント向けにアプリケーションを配信する製品やサービスが始まろうとしている。単なるプログラムのダウンロード・サービスではない。アプリケーションを,利用する際にその都度ダウンロードするというものである。ブロードバンドをうまく利用しようとしているサービス,製品の1つである。従来の,動画や音楽の配信や,オンライン・ゲームなどとは異なるサービスが始まる。

 日商エレクトロニクスが11月に販売を開始する「Stream Theory System」は,アプリケーション配信サービスを提供するためのツールである。サービスを利用するPCに「プレイヤ」と呼ばれるエージェント・プログラムを導入しておく。サーバー側では配信するアプリケーションを細かくブロック化し,配信。プレイヤは受け取ったブロックの組み立て,アプリケーションを起動する。ブロックは,ユーザーが利用する機能から優先して配信するため,すべてをダウンロードするまで待つ必要はない。ブロードバンドといえど,少しでもユーザーが早くアプリケーションを利用するための工夫である。

 配信されたアプリケーションそのものは,メモリー上のみで動作させるため,終了すればハード・ディスクには何も残らない。また,インストール作業なしでアプリケーションを利用できる。このような仕組みであれば,たまにしか使わない画像作成ツールなどのアプリケーションを,オンデマンドで利用できる。月に何回も利用しないソフトウエアを,数万円も出して購入する必要はなくなる。

 また,ターミナル・サービスを利用してアプリケーションを配信するサービスもある。ニューズネットが年内の開始を予定しているサービス「WebOS」である。Webブラウザからターミナル・サービスにアクセスし,仮想デスクトップを利用する。メールやスケジューラのほかに,WordやExcelなどが利用できる。ブラウザ側にActiveXコンポーネントをダウンロードして操作する。利用するには300kビット/秒程度の速度が必要である。ブロードバンドを前提としたサービスである。本格的に利用すれば,クライアント側にソフトウエアが必要なくなる。

 このようなアプリケーション配信の仕組みは,業務システムでも利用できる。ここ数年は,専用のクライアント・プログラムを使うシステムから,Webブラウザを利用したシステムへの移行がすすんでいる。しかし,Webブラウザでは,画面の操作性や機能面で専用クライアントに劣るという欠点がある。アプリケーション・サーバーにも負荷がかかりやすい。

 一方で,専用クライアントの欠点である,ダウンロードやインストールといった導入時の手間は,ブロードバンドに加えて,前述のような技術があれば解消できる。バージョン・アップなどのメンテナンスも容易である。実現したいシステムによっては,アプリケーション配信は,解の一つになるはずである。

 ブロードバンドのアクセス回線は,今後ますます利用が広まる。それを活用できるのが,動画や音楽の配信サービスだけでは,いかにも淋しい。アプリケーション配信以外にも,さまざまなアイデア,サービスが出てくることを期待したい。

(福田 崇男=日経インターネット テクノロジー)