のどが渇いたとき,小銭がなくてもジュースが買える。自動販売機に携帯電話をかざすだけでいい。こんなサービスが日本でも始まった。日本コカ・コーラNTTドコモ伊藤忠商事の3社が2001年9月に始めた携帯電話の電子キャッシュ・サービス「Cmode」(シーモード)である。Cmodeは,自動販売機だけでなく,携帯電話向けECサイトでの支払いにも利用できる。

 缶ジュースを買うのに,Cmodeを使うメリットは小銭を扱う必要がないことである。1万円札しかなくて,自販機でジュースが買えなかった経験は誰でもあるだろう。持っていた1000円札を使うと,お釣りが百円玉ばかりで財布が重くなるのも嫌なものだ。電子的に決済ができるCmodeなら,こんな心配がなくなる。

 Cmodeと同じように,少額決済を電子的に行えるというサービスはこれまでにもあった。携帯電話の代わりに,専用の電子キャッシュ・カードを利用したり,電子キャッシュ機能付きのクレジット・カードを使ったりするサービスである。しかし,こうしたサービスは,実はことごとく失敗している。理由は単純。小銭の扱いが面倒で,電子キャッシュが便利な決済というのは,あまり多くないことである。コンビニや喫茶店など,少額決済が多い店舗での実験もあるが,利用は伸びなかった。そのなかで,小銭の扱いが確かに面倒という決済が1つだけあった。それが自動販売機での決済である。

 これまでの電子キャッシュ・サービスは,「利用が増えないので,対応する店舗や自動販売機が増えない。対応店舗や対応自販機が増えないので,利用は伸びない」という悪循環から抜け出せなかった。しかし今回のCmodeは,缶飲料大手の日本コカ・コーラが手がけるサービスである。年内は試験サービスと位置付け,専用の自動販売機を東京・渋谷地区を中心に25台を年内に設置する。試験サービスの結果が良ければ,来年には数百台~1000台に自販機の台数を増やす。最終的には1万台規模に増やし,「全国的なプラットフォームにしたい」(日本コカ・コーラ副社長マーケティング本部E-ベンチャー担当の佐藤 真氏)としている。これだけ対応する自販機が増えれば,初めて電子キャッシュ・サービスが普及することになるのかもしれない。

 Cmodeは,入金が容易という利点もある。これまでの電子キャッシュ・サービスの場合,専用のATMなどで,クレジット・カードなどにあらかじめ入金しておくという手間がかかっていた。Cmodeでは,対応する自動販売機を使って,入金ができる。飲み物を買うついでに,次に買うことを考えて少し多めにお金を入れておく,といった気軽さで電子キャッシュの残高を増やせる。

 一方,Cmodeの問題点は何だろうか。1つは,支払いの作業が意外と面倒なことだ。缶ジュースを買う場合,ユーザーは,まず携帯電話で,Cmodeのサイトにアクセスする必要がある。そこで缶ジュースを買う指示をすると,2次元のバーコードが画面に表示される。このバーコードを自動販売機にかざすと,缶飲料を選ぶランプが点灯する仕組みである。セキュリティ確保のための仕組みとはいえ,なかなか手間のかかる作業だ。

 携帯電話が電子ウォレットになる。こんなサービスが普及し,実際に便利なら筆者は利用してみたい。今回のCmodeが実際に普及するかどうかは分からないが,こうしたサービスには今後も注目していきたい。

(安東 一真=日経インターネット テクノロジー)