eマーケットプレイス(企業間電子取引市場)の将来性を疑問視する声が最近大きくなってきた。増えない取引数が市場自体の衰退を招き,確かに米国では撤退事例が既に出ているようだし,日本でも事業の見直しを考え始めた運営者もいる。

 インターネットを使ったB to B取引の核になるとも言われたeマーケットプレイス(特に取引先開拓を目的にしたもの)は,早くも見切ってしまうべきものなのか。

 筆者はそうは思わない。

 中心ユーザーである中小企業の多くは,eマーケットプレイスに対応するための体制ができていない。この点が,eマーケットプレイスが現時点で活性化していない一つの(大きな)要因だが,早晩キャッチアップしてくるのは間違いないと考えるからだ。「新しい取引先を開拓したいが,営業に人手や時間をかけられない」という中小企業の期待感はやはり根強い。

 日経IT21(http://itpro.nikkeibp.co.jp/it21/)で,製造業向けの受発注情報マッチングサイトを利用する中小企業を取材した。積極的な町工場などを選んだつもりだが,「新しい仕事は取ったものの,社業にプラスになったかどうかは疑問」と指摘するところが多かったのは意外だった。

 「結果的に儲からない仕事(商品)まで取ってしまった」「闇雲に仕事を増やしたものだから,既存の取引先に迷惑をかけてしまった」・・・。在庫や仕掛品の管理,生産工程管理,受注管理などの社内体制が不十分だったため,目先の仕事を増やそうとしたところ,かえって社内が混乱してしまったというわけだ。

 一方で,eマーケットプレイスをうまく活用している中小企業が出てきたことも確か。納期を即座に回答できるための工程・在庫管理,取引先ごとに要望が違う見積もりへの対応,目先の仕事がどの程度収益をもたらすかを簡単にシミュレーションできる経営管理・・・。eマーケットプレイスを意識しているいないを問わず,こうした業務のIT化を進めてきた会社が,結果的に新しい市場にもうまく対応している。決して高いシステムを導入しているわけではない。その多くは,必要に迫られ,自前で作ってきたものだ(詳細は日経IT21の11月号に掲載)。

 社内体制の整備は一朝一夕にできるものではない。10年ほど前に,自社で製造した部品類を,紙のカタログを使って企業向けに通信販売することで伸びている中小製造業を取材したことがあった。それまでの受注実績から需要予測を立て,売れ筋と見込んだものを事前に半製品化しておく。注文が来た段階で,完成品に仕上げて素早く納品するものだ。特徴のない下請企業から何とか脱却したい,という願いで始めた新しい事業形態だった。

 今回,久々にこの社長に電話したところ,「カタログはもちろん続けているけど,インターネットも始めたよ」との返事。取材してみると,工場検索サイトに登録したところ受注が結構あるほか,自らもこの秋にB to Bサイトを立ち上げる計画という。

 「基本は紙のカタログもインターネットも同じ。大事なのは,引き合いが来たらすぐに相手に納期を伝え生産に結びつける,この体制を徹底すること。それに持続力ね。社内インフラ整備の効果はすぐに表れないけど信じてあきらめないこと」と話してくれた。余談だが,この社長の趣味はマラソンで,「今年初めてホノルルマラソンに参加する」と意気込んでいた。

 この1年余りの“eマーケットプレイス・ブーム”で,新しい取引先への対応の難しさを知った中小企業は少なくない。だが,そこから社内のIT化に目覚めるところも多いはずだ。eマーケットプレイスも運営する某機械メーカーは,「今はeマーケットプレイスがどう発展するかを予測する段階ではない。まずは参加者の社内IT化を進めることが先決と悟った」という。このメーカーは,業務管理に関するASPサービスに早速乗り出した。

 中小企業の未整備だけを挙げるのは不公平だろう。もう一方の利用者である大企業側の意識改革も必要かもしれない。以下の例は,いずれも中小企業が経験したものだ。

 日本を代表する某大メーカーの例。工場の現場が部品を緊急に調達しようと,電子市場で町工場を探し当てた。価格も折り合って正式発注の段階になったが,本社の購買部門が出てきた。「部品の直接取引はしていないため,指定の会社を経由してもらえないか」。指定の会社とは,ご想像の通り,系列子会社だ。結局,価格はその分高くなってしまったという。

 また別の大メーカーの例。とにかく見積もりを取りたがるという。ところが見積もりを出しても何の音沙汰もなし。町工場の社長は,「現状の取引価格が適正かどうかを調べるための資料集めでしょう。一層のコストダウンを求めるための説得材料に使っているのでは」と見ている。

 「場」を提供するだけで活性化策を施さないeマーケットプレイスが少なくないのも問題だろう。ただし,利用者側が変わってくればeマーケットプレイス自体も進化する。そう信じれば,eマーケットプレイスを見限るのはまだ早いと思うのだが,いかがだろうか。

(長谷川 直樹=日経IT21副編集長)